2017年5月17日水曜日

だからLA LA LANDはまだ観ない

ここ10年、映画館で観た映画を思い出していて、なるべく劇場に行ったら買うことにしているパンフレットを取り出してみた。

二流小説家、華麗なるギャツビー、風立ちぬ、25年目の弦楽四重奏、黄金のメロディ〜マッスル・ショールズ〜。

あとは、山下達郎、中島みゆきさん、佐野元春のライブ・ビューイングと、『フィガロの結婚』と『トリスタンとイゾルデ』といった音楽関係の映画を。
今年はBABYMETALのフィルム・フェスのチケットを取ってある。
昨年は『君の名は。』と『シン・ゴジラ』を観た。

まあ、映画はあんまり観ない人、ということだ。
観た作品はすべて、特定のアーティストや文学作品、映像作家に個人的に強い関心があって観たものばかりで、言ってみれば<映画>そのものには大きな関心がないと言ってもいいかもしれない。

そしてラインナップからすぐに想像がつくように<音楽>そのものには大きな関心がある。
だからなんだろう。音楽を扱う映画では強く好き嫌いが出てしまう。

特にラストあたりで、主人公がすっげえ演奏をして、その魔法で周囲の人たちの気持ちが変わってしまう、みたいな筋立てをよく見るが、そういう映画がたいていダメだ。

最近だと『チョコレート・ドーナッツ』っていうやつが代表格かな。

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ラストに主人公が歌うディランの『I Shall Be Released』の熱唱で、みんなの気持ちが変わっていくというあのシーン。
僕は彼の歌声に、まったく1mmも心が動かなくて、逆に物語から気持ちが離れていくのを感じてしまった。
感動的な筋立てを用意したと思うんだけど、頭で分かっても心が動かなくなれば、やはり感動はできない。
日本映画の『音楽人』なんかも桐谷美玲ちゃんは素晴らしかったが、佐藤和真くんの歌では、物語が想定している感動は起きんと思うよ。

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対して80年代のブルース・ブラザースなんかは、豪華すぎる出演アーティストたちのパフォーマンスが素晴らしすぎるわけだが、これだけ凄まじいクオリティの音楽を散りばめながら、映画は物語の進行を音楽の魔法に委ねていないのだ。
僕はそこがすごいと思う。

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90年代にも忘れられない音楽映画があって、それが『コミットメンツ』
なにしろアンドリュー・ストロングの声がスゴい。
この時なんと10代だったっていうんだからもうホントにスゴい。
これこそが歌の説得力は声が担っているということの証明なんだ。
そしてこの映画の筋立ても、この声の説得力に寄りかかっていない。

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音楽の魔法をきっちり映画的に表現しきった作品もある。
『オーケストラ!(原題:Concert)』
メラニー・ロラン演ずる美人ヴァイオリニストのチャイコフスキーは、その熱演で寄せ集めオーケストラの公演に奇跡を起こすが、観ている者にとってそのシーンそのものが奇跡の熱演なんだとはっきりとわかるから、破綻せずに感動をもたらす。

音楽という魔法をもった芸術を、映画という表現の中に取り込むのだからことは簡単ではない。
うまくいくことが奇跡なのだ。

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その意味で、話題になったディミアン・チャゼルの『セッション』にも、僕は入り込むことが出来なかった。

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最後のシーンは確かにスゴかった。
あの10分間では音楽の奇跡が確かに起きていた。
ただ、そこに至る道筋があまりにもあり得ず、そこが素直な感動を遠ざけるのだ。

監督のディミアン・チャゼルは高校時代にジャズ・ドラムをやっていて、その時に受けた厳格な指導をヒントにこの映画を作ったというが、もしあんな指導を本当に受けていたとしたら悲劇だ。
問題は、その指導に<音楽>が含まれていないということだ。

アメリカの音楽大学で、『ピアニッシモ」を教える特別な授業の話を聞いたことがある。
12時ちょうどに、窓を開け放ち、遠くにある教会の鐘を聴く、という授業だ。
鐘の近くでは朗々とした響きが、遠く離れたここでは幽かな、しかしはっきりと実体を持った音として聞こえる。これこそが、みんなが奏でるべきピアニッシモの音だ、という授業。
ここには音色と演奏技術についての深い洞察がある。
楽器を持って音を奏でる時必要な、イメージの源泉がある。

ニーマンのシンバルには、入学時から退学に至るまで、一貫して音楽的な響きがなかった。
リズムにも音楽的な躍動がなかった。
そしてフレッチャーの指導にも、そこを改善させるヒントはヒトコトも含まれていなかった。
なのに退学後の演奏に、突然あのような音楽性が生まれるなんてことがあるだろうか。
僕にはどうしてもその道筋がイメージできなかったし、音楽を根性で現出させる演出は少々不愉快ですらあった。

チャゼル監督の第二作『ララ・ランド』は、世界中から大絶賛を浴びているが、大絶賛を浴びているということ自体は、僕が劇場に足を運ぶ理由にはならない。
例によって少し落ち着いてから観せてもらうことにしよう。

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