2017年10月9日月曜日

エネルギー至上主義経済への警鐘:キャプテン・フューチャー第十巻『月世界の無法者』

第九巻『輝く星々のかなたへ!』で、我らがフューチャーメンは、酸素が無くなった水星のために、太陽系の遥か遠く、別の銀河にある「物質生成の場」に乗り込んだ。
ヒーローと立憲主義:キャプテン・フューチャー第九巻『輝く星々のかなたへ!』
そのため彼らは、何ヶ月もの間、消息が不明になっていた。
誰も行ったことのない太陽系の外側へ飛び出した彼らは、すでに死んだものと思われていた。

科学者アルバート・ウィスラーは、月に隠されたフューチャーメンの基地を暴けば、まだ公表されていないカーティスの科学的業績を奪えるのではないかと考え、月を探査していた。
ウィスラーは探査中、カーティスによって月には無いと発表されていたラジウムの大きな鉱床を発見してしまい、このラジウムの採掘権を太陽系政府に認めさせるために、実業家ラルセン・キングに話を持ちかけた。

首尾よく了承を取り付けたキングが採掘を始めたちょうどその頃、フューチャーメンが長い旅から戻った。
その時にはすでにキングによって、カーティスが私利のため月の大きなラジウム鉱床を秘匿していたと喧伝され、フューチャーメンの名誉は地に堕ちていたのだ。


キャプテン・フューチャー・シリーズでは、ラジウムは発電のための安価な原料と設定され、各惑星にあるラジウム鉱山はしばしば陰謀の舞台となっている。
原子力発電が苛烈な事故を起こす度、国のエネルギー政策は揺れるが、実際に原発ゼロを政策として採用した先進国はまだ少ない。
それはやはりその発電効率の高さがもたらす低ランニングコストの魅力に抗えないからだ。

カーティスは実際、月にラジウムの大鉱床があることを知りながら政府にも隠していたわけだが、それはこんな大きなエネルギー源である物質を、「安価な発電用燃料源として浪費すべきでない」と考えてのことだった。
エネルギー至上主義経済は現代も続いている。
資源が有限であることを知っても、我々はそれを経済成長のために使い続けるしかない。
となると、政策的にそれを制限していく必要が本来はあるのだろう。

現実世界の僕らはすでに、かなりの化石燃料を「浪費」し、何億年にもわたって繁栄した巨大生物の遺産を数百年で使い尽くすのではないかと言われている。
石油の有る無しは、国家経済の有り様に大きな影響を与え、かつては戦争の理由になったりもした。
この<石油の遍在>の問題から、資源を持たない国に主導され、原子力発電のシステムが作られた。
しかし夢の新技術のはずの原子力発電は、結局何度も事故を起こし、地球のいくつかの地域が回復不能のダメージを受けた。
現在は水素やヘリウムを使う核融合炉の研究が進んでいるが、またきっと実用化されれば新しい問題が出てくるだろう。

エネルギー政策は、経済と密接に関係しすぎていて、それを当事者である民衆が判断することが難しい。
個人として原子力発電に反対し、ソーラーパネルによる自家発電のみでやっていくような人々も現れてきたが、 こういう人が増えると、皆でコストを負担しあっているからこそ運用できている電力会社の電力供給が、どんどんコスト高になっていく。
民主主義国家に生きる我々は、一人ひとりに主権者としての責任がある。
社会基盤に関するものと個人で勝手にやっていいこととの区別は付けておく必要があるが、このような視点を持つことそのものが難しいのだ。

しかし現実世界に<カーティス・ニュートン>はいない。
我々自身が考えるしかない。

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