2013年10月14日月曜日

ワタクシ、MMカートリッジの味方です

毎日音楽を聴く。
たいていの場合アナログ・レコードで。

仕事場であるカフェではCDでジャズばかりかけているが、これはお客様の会話の邪魔にならないように、いつの間にかそうなった。
2007年に開店したころはよくロックもかけていたが、何度も「ちょっと音量さげて」と言われるので、邪魔にならない古いジャズをかけるようにした。
古いジャズはCDも安いしね。

自分のレコード棚は、棚数の比率で大雑把にジャンルをみれば、洋楽ロック3:邦楽2:ジャズ1:クラシック1で洋楽のロックが多い。
CD棚になるともう少し極端で、洋楽ロック8:邦楽3:ジャズ2:クラシック2というところで、圧倒的にロック・ミュージック・リスナーだということがわかる。

ジャズ、クラシックのレコードやCDを集め始めたのは8年前からだから、ここ数年はそういう音楽を聴く時間が長かったが、徐々に落ち着いてきて、スタイル・カウンシルのアワ・フェイバリット・ショップを聴いて、お次はグールドでブラームスの間奏曲をなんてやってる。
ビリー・ジョエルのストレンジャーとかハイ・ファイ・セットを聴いてタイムトラベルってのも悪く無い。

毎日毎日レコードを聴いて、プレーヤに付属していたMMカートリッジ(オーディオテクニカのOEM品だ)を、8年使って、7回針を取り替えた。
べつに音が悪くなったとかではないのだ。
安心して音楽に没頭するために年に一回、3000円(!)のコストを払っているということだ。
これを習慣にしておくことで、オーディオ装置に対する疑いを一年ずっと頭から遠ざけておくことができるのだ。
この対費用効果の大きさは僕にとっては計り知れないものだ。


で昨年のこと、さてそろそろ年末恒例の交換針の発注をしようかと思ったら、型番をど忘れしてテクニカのサイトを観に行った。そしたらそこにやけにかっこいいゴールドのカートリッジがあるじゃありませんか。
自分のプレーヤにぴったりなような気がして、どうしても欲しくなって三ヶ月ほど悩んで、結局今年の3月、そのAT-150MLXというVMカートリッジに換えたのだった。


VMカートリッジっていうのは、一般にMM型と言われているヤツの仲間で、比較的安価な製品が多い。
もうひとつカートリッジにはMC型というタイプがあって、こちらに高価格製品が多い。

型って言ってるのは発電方式で、レコードの溝をトレースした振動を電気エネルギーに変える方法のことを言ってる。
理科の時間に、コイルの中を磁性体が動くと電気が発生するというのを習ったと思うけど、その磁性体の方を動かすのをMM型(Moving Magnet)、コイルの方を動かすのをMC型(Moving Coil)と言っているわけ。

どっちが動いているか、だけの問題なので、原理的にはどちらかの方式に固有の発音的特徴というのはないはずなのだが、実際に作ってみるといろいろ構造的に変わってしまう。

レコードをトレースするのは針で、それが棒状のカンチレバーってのに固定されている。MM型は、柔らかい合成ゴムに支えられたカンチレバーが小さなマグネットを動かし、大きなコイルで発電する。
MC型は、カンチレバーにコイルがくっついていてこちらが振動する。コイルが発電機構なのに、そっちを動かす関係で、コイルの方をを小さく作ってマグネット側を大きく作ることになる。マグネットとコイルではコイルの方が軽く作りやすいため、振動をヴィヴィッドに捉えられるのがMC型の魅力だが、発電機構本体のコイルが小さいという問題はいかんともしがたく、発電力がMM型の1/10程度しか稼げない。
だからこれを昇圧する必要があり、昇圧トランスやヘッドアンプなどとの相性の問題が新たに悩みの種となるのだった。

まあ、いろいろ言っても結局音はどうなのってところなわけだが、試聴会で聴いたり、お借りして聴いたり、自分で買って聴いたりするわけだけど、確かにどれも音は違って聴こえる。
でもそれは個体差なのであって、発電方法に起因するものと思えないのだね。
MCの本家であるデンマークのオルトフォンは、MMだってやっぱりオルトフォンの音がするもの。
これはセカンド愛用品のオルトフォンVMS20E
太いのにイキのいい音ですよ。

逆に音がちょっとダメだぞ、と思うのは決まって古いカートリッジでメンテナンスが充分でないものだった。これは酷いなと思って愛用の宝石用ルーペで針を見たら、汚れがびっしりこびりついていたものがあった。
発電方法よりも開発メーカーの考え方や、個体差が音にとっては大きいと思う。
それでも現在、市場にある単品カートリッジはほとんどすべてが高価なMC型なのだ。
これは何故なのだろうか。


まず、両タイプの作り方の違いが大きい。
シンプルな構造のMM型は、プラスティックのモールディングで多くの部品を作れる。
とはいえ、これは我々が普段眼にしているような成形製品とは桁違いに精密な造りになっているのだ。
製造業に関わりがある方はおわかりだろうが、精密な金型というのはとんでもなく高価だ。それが大量に必要になる。
しかし型を作ってしまえば大量生産は簡単だ。
だからMM型は、価格を安価に設定して大量に売る方法を選んだ。部品を共有化できるランナップを設計できれば、もっと利益も上がる。

対してMC型は複雑な機構を持つため、手造りの部分が多い。
これはコストダウンの方策がそもそもないので、価格を下げることは出来ない。
だから高級路線で売ったのだ。

時代は変わり、CDが主流になるとカートリッジは以前のようには売れなくなった。
そうすると、MM型の大量販売戦略は取りにくくなる。
高価格戦略に切り替えようにも、一度作られた相場感というのはそう簡単に変えられないものだ。
それで市場からMM型の多くは姿を消してしまい、とっくに減価償却の済んだ金型を持っている老舗メーカーが品数を絞って製品を提供してくれているというわけだ。

MCはその高級路線を推し進めていくだけでよかった。
もともと手で造っているようなものなのだ。
一度作られた、MCは高価だから品質も高いに違いないというイメージは、より売れる数が減って一個一個を高価格に設定せざるを得なくなった今こそ有効に機能している。


僕はそういう市場原理にはお付き合いしたくない。

そしてもう一度個人的な気持ちを言わせてもらえば、MMカートリッジで聴く音楽が好きだ。

それは安価な針交換でいつもフレッシュな状態に保たれている。
もう定番化したものしかラインナップに残っていないし、そもそも高価な金型でモールディングして作るのだから廃番になってしまう可能性も低い。

何もかもが市場原理に支配されてしまった現代だからこそ、この安心感の中で音楽を聴く時間を大切にしたいと僕は心の底から思っている。

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