2013年のノーベル文学賞には短編小説の女王、アリス・マンローが選ばれた。
そういえば最近、短篇集を読む機会が多い。
村上春樹氏が編んだ「恋しくて」に唸り、C.L.ムーア(この人も女性だ)の「シャンブロウ」の復刻に狂喜したばかりだ。
それでもやはり短篇集と言われると、ダールの「あなたに似た人」が思い浮かぶ。
こちらも先日新訳で、二分冊になって再刊行された。
どんな文学だって、「人間」のことを描いている。人間の心は単純でなく、自分ですら気づいていない、いやむしろ自分にこそわからない部分を持っている。
そのことへの止まない関心が物語を書かせるのだとも言える。
だから短編を書くのは難しい。
そして、文学的技術の粋を尽くして構築された、仕掛けだらけの、その意味ではちょっといびつな形をしたそれを読むのは、もっと難しい。
筋立ての中に埋没すると見えなくなってしまうものが、どこかに隠してあるのが短編というものだからだ。
ロアルド・ダールの短編はその「複雑さ」をラストの余韻にぎゅっと濃縮して表現することを突き詰めている。
だから最後の最後、本当にどうなったかわからない。
それは一瞬先が、心の奥底がわからない、二重の不透明さから人間が逃れられないことをダールが描こうとしているからなのだ。
この新装版は分冊になっている。
読んでみると、第一集が、結末に纏わりつく「わからなさ」自体を主題とした作品を集めたものとわかる。
第二集では、不可解な状況を作り出す想像力に際立つ作品が集められている。
まずはこの卓越した編集の技でダールの魅力を二面から表現した編集者の手腕に拍手を送りたい。
凡百のホラーが人間の恐怖を微分したものになりがちなのに対して、ここでのダールは多種多様で、切実な愚かさに苛まれる我々の「生」を積分している。
確かにこの物語は「わたし」に似ている。そう思う。
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