2013年10月24日木曜日

名探偵コナン「絶海の探偵(プライベート・アイ)」

少年時代から、ながいことSFを主食にして生きてきた。
二十数年前、会社の先輩がくれた「占星術殺人事件」を読んで以来、ミステリも読むようになったが、社会の巨悪を暴く、みたいなやつはやっぱり面白いと思えなくて、合理的なのに自分の目に見えていなかった真実を名探偵が暴いてすっきりする、所謂本格と呼ばれるジャンルばかり探して読んでいた。

1992年に少年マガジンで金田一少年の事件簿が始まり、横溝正史の創作した名探偵金田一耕助の孫を主人公に据え、さらに最初の事件に占星術殺人事件のトリックを援用までして、まさに本格推理小説を漫画の世界に持ち込んだ。

この試みは成功し、ライバル誌サンデーでも、これに対抗するカタチで1994年、名探偵コナンの連載が始まることとなる。
作者青山剛昌は、この作品をロングセラーにするための美点を周到に用意した。
有名非実在人物の孫というどこかで聞いたようなものではない、設定に加えられたオリジナリティーの高い一捻り。
漫画世界にふさわしい明るさ。
多少偶然性の高い要素を持ちつつもオリジナリティーのあるトリック。
そんな拘りぬいたミステリ要素を、あくまでもスパイスとしてブレない「ラブコメ」コンセプト。
読者のアンケートハガキを分析して作品コンセプトにまで介入してくるような体質を持たない雑誌に掲載されていたことも幸運だったと思う。

僕自身もミステリに飢えていたその時期に何気なくコミックスを買い始めてから、2013年現在での最新刊80巻に至るまでずっと新一と蘭の行方を追いかけてきた。
1997年から始まった劇場版アニメーションの公開も毎年続き、今年春に公開された「絶海の探偵(プライベート・アイ)」で17作目になる。

長い旅だ。
長い旅の道中にはいろいろなことが起こる。
作者青山剛昌は、コナン役の声優高山みなみと結婚し、離婚した。毛利探偵役の神谷明氏の降板というハプニングもあったが、名優小山力也が後継の大役を見事に果たしている。最近阿笠博士役の声優さん、少し声が少し出にくくなってきたようで、心配だ。


さすがに毎週のテレビアニメは観ていないが、毎年の劇場版はDVDが出ればレンタルで観る。テレビドラマを編集しただけの劇場版なんかは裸足で逃げ出すようなハイクオリティな映画魂を見せてくれる作品ばかりだ。
今年の「絶海の探偵(プライベート・アイ)」がTSUTAYAの最新作のコーナーに並んでいたので借りてきて観た。


今作は問題作である。
イージス艦を舞台に、日本に潜り込んだ「あの国」(と映画内で言っている)の工作員にからむ殺人事件を扱っている。

明らかに時事問題なのである。
いつものように実在する事件との類似は慎重に避けられてはいる。
しかし時勢が時勢だ。
あの国ってあそこだよね、と誰でも思う。

今までの劇場版にはそういう作品はなかった。
ただでさえ、探偵物の殺人事件なのだから中心的な興味の対象になりやすいところを、あくまでもラブコメのスパイスに使う、というところがこの物語の、延々と小学1年生でいつづけるコナンくんのサザエさニズムを支える要諦なのだ。

これが今回壊れているから、前半部のサスペンス部、意外な解決部ともによく出来ていて、中盤、過去最高の毛利蘭の空手アクションも投入されていて、後半これまたお約束の蘭ちゃんの危機をコナンくん(新一)が救うパートも非常に盛り上がるのに、終わってみると全体のバランスがしっくりこないのである。



今回から脚本家が変更になり、相棒とかTAKE FIVEのようなテレビドラマの脚本を書いている櫻井武晴氏になっていることもその要因の一部なのだろうか。

それにしてもゲスト出演の柴咲コウさん。その作画はまずくね?眉毛太くすればいいってもんじゃないっしょ。




はたまたこんな感想自体が古いファンのボヤキに過ぎず、老害を晒さずおとなしくしているべきなのだろうか。
そうかもしれない。
その証拠に今作は全17作中、最も興行収益が高かったのだから。

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