夜に聴くジャズは、時に落ち着いたリラクゼーションをもたらし、時に静かに心をざわつかせる。とりわけ冬の凍てつくような夜、部屋にこもって所在なさを感じるときに針を落としたくなる(あるいは音源を再生したくなる)のが、パトリシア・バーバー(Patricia Barber)の音楽だ。
彼女の2000年の名盤『Nightclub 』を久しぶりに聴き、中盤に収録された名曲「アルフィー(Alfie)」が流れた瞬間、ハッとした。希代のポップ・マエストロ、バート・バカラックが亡くなった際、自宅にある「アルフィー」の別バージョンを際限なく探し集めた記憶が蘇ったからだ。
パトリシア・バーバーがこの曲を歌っていたという盲点。その不意打ちのような感覚こそ、彼女の音楽が持つ最大の魅力であり、現代ジャズシーンにおける彼女の唯一無二の立ち位置を証明している。
現代ジャズシーンの異端にして至高。パトリシア・バーバーとは?
ジャズ・ピアニストであり、シンガーソングライターでもあるパトリシア・バーバーは、現代ジャズ界において極めて独特な光を放つ存在である。
シカゴを拠点に活動を続ける彼女は、単なる「スタンダードを綺麗に歌うジャズボーカリスト」ではない。その音楽性は、冷徹なまでにコントロールされたピアノタッチ、低音で呟くようなクールなアルトボイス、そして文学的でシニカルなオリジナル曲の歌詞に特徴づけられる。
知性派としての立ち位置と評価
バーバーは、ジャズミュージシャンとしては異例の「グッゲンハイム・フェロー(創造的な芸術家に贈られる権威ある賞)」を奨励金として授与されるなど、その高い芸術性と知性が多方面から評価されてきた。伝統的なスイングやボサノヴァの語法を解体し、現代音楽やポップスの要素を独自の美学で再構築する手腕は、目の肥えたジャズファンやオーディオマニアからも絶大な支持を得ている。
感情に侵入してこない「極上のディスタンス」
パトリシア・バーバーの音楽を聴いて感じるのは、聴き手との間にある「絶妙な距離感」だ。
一般的なジャズボーカルは、聴き手の感情に寄り添ったり、エモーショナルに訴えかけてきたりすることが多い。しかし、バーバーの歌声はどこまでもクールで、過度な感情移入を拒むかのような静けさを湛えている。
「心に勝手に入ってこない音楽」
これこそが、彼女の音楽が持つ貴重な価値だ。押し付けがましさが一切ないからこそ、聴き手は自分の孤独や思考をその音楽の隙間に滑り込ませることができる。特に、寒さで心が内向的になりがちな夜には、この「ベタつかない温度感」が最高に心地よい。
<Nightclub>


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