社会人になって東京に出てきて、街のあちこちにある大きなCDショップに驚いた。
しばらく通っているうち、邦楽やロックだけでなくジャズも聴いてみようか、という気になって、何枚か買った中にウェス・モンゴメリーの「インクレディブル・ジャズ・ギター」があった。
ロックギターとは全く違うアタックの強い歪んでいない音がカッコイイと思ったが、楽曲の良し悪しはよくわからなかった。
それでも、予備校時代ラジオで聴いて好きになったジム・ホールの理知的で落ち着いた大人の音楽とは違って、跳ねた熱いビートがそこには感じられた。
その後、バーニー・ケッセルやケニー・バレル、グラント・グリーンなど多くのジャズ・ギタリストのアルバムを聴いたが、クールの極北ジム・ホール師と、迸るジャズマインドを感じるウェスのギター以上の感動は得られなかった。
自分もギターを演奏し録音をするのでいつも感じることだが、この楽器はパーカッシブに弾いた時の大きなアタックの音と、爪弾いた時の滑らかなトーンの差が、音量的にも音質的にも差が大きい。
それはギターの出音を担当するアンプの能力を少し超えて「歪」として現れる。
この歪自体も、演奏家の個性として重要な要素で、それを支えるニュアンスのようなものが聴く側の好悪をあらかた決定してしまうと言ってもいいぐらいだ。
僕にとっては、ジム・ホールとウェス・モンゴメリーの歪みが好ましいのだと思う。
で、ウェスのアルバムではリバーサイド時代のものが特に好きで、その数枚のアルバムに満足していたのでヴァーヴやA&M移籍後のものはきちんと聴いてこなかった。
だからなにげなく見ていたAmazonサイトでウェスのヴァーヴ時代のコンプリート編集盤が出ていると知った時には、少し高価かなとは思ったがこの機会にきちんと聴いておこうと発注した。
届いたブツを見てびっくり!
大きいのです!
並べた普通サイズのCDパッケージとくらべてみると、1.5倍くらいの大きさがありそう。
かかっていたケースをスライドして開けると、中からカッコイイ本が登場!
このギター、fホールの部分がちゃんとくり抜かれている。
ベージをめくっていくと、収録された全CDのジャケットやオリジナルライナーが、大きな図版で収録されていた。
これはうれしい。
しかし問題もある。
この肝心のCD収納部だが、厚紙のスリーブにCDがそのまま挟まっていて出し入れする度に盤面に傷がついてしまうのだ。
僕はすべて出して別のホルダーにまとめて収納しなおした。
最終ページには、大きな影響を受けたとかつてから公言していたデレク・トラックスの謝辞が収録され、全体としては非常に商品として価値の高いパッケージだと思う。
音楽的には、最終的にA&Mで大きな商業的成功を収めた「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の路線への過渡期的作品が多く、洗練された近代的なジャズに変貌していくウェスの演奏を捉えている。
何か大切なモノが失われていく感覚を時に覚えるが、それもまたこの時代のジャズのひとつのありようであったような気もして、素直で真摯な音楽の担い手だったウェスらしい作品群だと言えるだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿