2017年9月18日月曜日

佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』

佐藤亜紀の新作『スウィングしなけりゃ意味がない』が面白すぎる。

スウィングしなけりゃ意味がない
佐藤 亜紀
KADOKAWA (2017-03-02)
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本作は、ナチス政権下のドイツに実在した「スウィング・ユーゲント」という若者の集団をモデルにしている。
スウィング・ユーゲント=スウィング・ボーイズで、上野樹里さんの映画「スウィング・ガールズ」も、もしかしたらこの語感に倣って名付けたんではないだろうか。

当時(1930年代)のドイツでは、少年たちは14歳で学校を卒業した後、ヒトラーユーゲントに入隊、17歳でドイツ国家労働奉仕団に入り、兵役に就くことになっていた。
ナチスの支持母体でもあった、裕福な工場経営者などの中間層の子息たちは、高い教育を受け、英国的な自由を好んでいたから、そんな彼らが、このような面白みのない「画一」を忌避したのは当然のことだろう。
そしてまた当然のごとく、彼らの自由な振る舞いは、当局から迫害を受けたのである。

物語では、そんな彼らが、国家権力と争うのではなく、好きなことはやって、のらりくらりと逃げる。逃げ切れなければ殴られる、という生活を送る。
ハンブルグという経済都市に生きる彼らの生活感は逞しく、夜な夜なパーティーもどきの宴会が開かれ、自由に恋愛をし、一晩中踊り狂う。
楽器もレコードも手管を尽くして調達してくる。
レコードが手に入りにくくなると、自分たちで作っちゃったりする。
僕もアナログ(と今では断り書きをつけなきゃならない)レコードが大好きだから、闇レコード製造・販売で少年たちが財を成していく部分は本当に興奮した。
読んでて、レコード屋になりたくなったよ。
自分らしく生きるってこういうことだよね。

その後、戦局はどんどん厳しくなり、思うにまかせなくなってくる。
打つ手打つ手が裏目に出ていくのは、ヒトラーの最期を描いた映画でも観た。
でも、この小説ではナチの戦略は、ヒトラーや幹部の言葉ではなく、現場の振る舞いとして描かれる。
それはそれは見事な愚行だ。
斟酌すべき相手しか見えない人が行う喜劇的な愚行。


だから個人がどう行きていくかが重要なんだ。
間違った方向に拳を振り上げない美意識が今、心の底から欲しい。
そう思う。

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