2014年11月7日金曜日

SFマガジン700[国内編]

SFマガジン通巻700号を記念して編まれたアンソロジー。
多くのSFアンソロジーを編んだ大森望氏の手腕が光る。

まず、手塚治虫、松本零士、吾妻ひでおの漫画三編の収録が絶妙。
日本SFをマンガ抜きで語るのはムリですからね。

手塚治虫の「緑の果て」(1963)は、スタニスワム・レフの「ソラリスの陽のもとに」(1961)のプロットと酷似しているが、「ソラリス」の邦訳は1964年ということなので、手塚先生が原書(ポーランド語)か、英訳で読んでいたか、それとも偶然の一致なのか、そんなところも非常に興味深い問題作。

松本零士の「セクソロイド」は有名な作品だが収録作品は番外編として書かれたタイムトラベルもの。立派なハードSFだ。
吾妻先生の短編も安定のクオリティ。

貴重なのは、今や出版物が非常に入手しにくくなった平井和正の短編「虎は暗闇より」が収録されていることだ。
中学・高校と僕の頭のなかは半分くらい平井和正で占められていた。
ウルフガイ、アダルト・ウルフガイ、超革命的中学生集団、幻魔大戦、真幻魔大戦。
大好きだったなあ。
懐かしいなあ。

こうして歴史的に日本SFを読んでいくと、時代を下って段々技巧的になっていく様子がわかる。
昔のSFは書き方が実直だ。
だからこそ、<作り物>の未来が読み手の胸に迫るのではないか。
円城塔を代表とする新しい書き手の技巧は見事だと認めるが、技巧的に書かれた虚構のどこに僕は心をあずければいいのか。

日本SFの正統な後継者の筆頭は、だから野尻抱介だろうと思う。
本アンソロジーでも「素数の呼び声」というアクロバティックなのに平易な短編が収録されている。
松崎有理さんのように実直に科学に向き合う若い作家も出てきた。
この先は、アニメーションとの連携でマーケットを拡大していけるといいと思う。
漫画という表現を得て、日本SFは発展してきたのだから。

SFマガジン700【国内篇】 (創刊700号記念アンソロジー)

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