が、この簡単には正体を見せない、奥深いアーティストについて充分に語るだけの資格はだぶん僕にはない。
ボックス・トップスやビッグスターといった彼の在籍したポップ・グループの音楽を僕は殆ど聞いたことがないし、70年代、精力的にリリースされたソロアルバムもほとんど持っていない。
しかし、友人の勧めにしたがって買ったたった一枚のこのCDが僕に教えてくれたものを、どうしても誰かに伝えたいという気持ちを抑えられない。
“ロック・ギター”という奏法、それ自体が、極めて特殊なもので、単なる音楽ジャンルの枠を超えているものだということを、僕はこのアルバムの中を自由に泳ぎ渡るアレックス・チルトンのギターによって知ったのだ。
それが、このアルバム「Loose Shoes Tight Pussy」
案の定、絶盤である。
でも名盤なのである。
Alex Chilton
Last Call Records (2002-08-12)
売り上げランキング: 490,809
Last Call Records (2002-08-12)
売り上げランキング: 490,809
一言で、このアルバムを表現するなら、タイトルにある通り「Loose」と言うしかないだろう。
テクニカルには決して聴こえないギターが、絶対にあらかじめアレンジされていないフレーズを飛び回るように奏でている。
音は“チープ”そのもので、LED ZEPPELINのファーストでジミー・ペイジが弾いたというスプロというミニアンプを、あれほど歪ませずに弾けば、きっとこの音が出るだろうと思う。
エルヴィス・コステロがWatching the Detectivesなんかで弾いている、ゴールドトップ・レスポールのくぐもった音にも似てるかな。
センスがいい。
この音でなければ、あの自由闊達なフレーズはルーズさではなく、嫌味なテクニックと捉えられてしまうだろうから。
歌もわざとかなあ、と思うくらいラフだ。
で、歌声には僅かなリヴァーブもかかっていないように聴こえる。おそらく空間系の音処理がまったくされていないのだろう。
チルトンの部屋に招かれて、新曲のデモを聴かされているような気分になる。
で、聴いてると急に、ジャズのスタンダード「パリの四月」が、少し歪を増したギターで、弾き始められる。
不意をつかれるが、そういえばこの前のソロアルバム「クリシェ」でもチェット・ベイカーのレッツ・ゲット・ロストを弾き語りで歌っていたのを思い出す。
ジャズもチルトンの音楽になっている。
ちゃんとロックの文脈に取り込まれて弾かれている。
バンドはドラムとベースとチルトンのギターだけ。
聴き終えて、「幸せ」という言葉がなぜか頭に浮かぶ。
純度の高い“音楽”なのだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿