10年以上も前、ブルース・スプリングスティーンのゴースト・オブ・トム・ジョード・ツアー、東京国際フォーラム公演を観た時は、正直単調なセットリストに退屈してしまったが、今回の秦基博くんは、非常に緻密に計算されたセットリストと、いろいろな音楽的創意に溢れ、実に充実した公演だったと思う。
公演は彼の弾き語りから始まる。
綺麗なフィンガーピッキングに、抑えた声のバラード。
曲が変わると、ギターを持ち替える。
フィンガーピッキングにはギブソン、ゆったりしたストロークには、昨年作ったオーストラリア、メイトン社のシグニチャー・モデルを使っているようだ。
このブラウンカラーのメイトンは、少し低音が膨らんでバランスが悪いように思えた。
ご本人も少し不満があったのだろう。
後半、今年このツアー用に同じメイトン社で作ったという新しいシグニチャー・モデルを投入してきた。
ナチュラルカラーのこちらは、非常に歯切れのよい輪郭のはっきりした音の出るギターで、アップテンポの曲で活躍していた。
しかし中盤最初の盛り上がりを演出したのはブラウンのメイトンだった。
ミュートしたマイナー・コードのカッティングを始めると、それをその場でループマシンに録音し、どんどんそこにフレーズを重ねていく。
ボディを叩く音をパーカッション代わりにしてあっという間に即席のバックトラックを作ってしまった。
近年この演出はギターの上手いシンガー・ソングライター系アーティストの定番になりつつあるが、今回秦くんもボディのパーカッション音をうまく使って実にいいループを作っていた。
僕もこのループマシンを使ったパフォーマンスがかっこいいな、と思って8年ほど前にシンプルなマシンを買ってみたのだが、うまく使いこなせず手放してしまったという経緯があり、ああこうやって使うのかと感心した次第だ。
このパフォーマンスの後、ステージにはパーカッショニストが呼び込まれ、ウォーター・ドラムという大きな鉢に水を入れて、それに浮かべた発音体を叩くという珍しいパーカッションとのセッションとなった。
このパーカッションは、他の打楽器に較べ音程がはっきり出てしまうタイプだったが、楽曲とのチューニングがうまく取れておらず、少々居心地の悪いセッションのように感じた。ただ深く響く音がとても綺麗なパーカッションだったので、いい状態でまた聴いてみたいと思った。
その後、ベーシストを加え、さらにピアニストが加わってくる。
ピアニストが入ったところで、まさかの「アルタイル」
大好きな曲だが、自身の作曲でないコラボ作品だったので、これをライブで聴くことはないだろうと思っていたのでとてもうれしい。
秦 基博 meets 坂道のアポロン
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途中、観客の質問に答えるコーナーなどもあり、当意即妙のナイス・トークも披露していた。真面目そうに見えたけどなかなか面白い人のようです。
この後、新しいメイトンのギターに持ち替えて、アップテンポ特集に突入。
パーカッションも通常のものに替わり、大活躍だった。
アコースティック・ライブだが、ベースだけはエレキベースでもうフルバンド構成と変わらない。
会場は総立ちの手拍子。
でもいつも気になるんだなあ。
タンタンタンタンという表拍を刻む手拍子に、直立して動かない体幹。
今回二階席から観ていたのだが、体が音楽にノッている人は、本当に数人しかいない。
恥ずかしいのかな。
楽しめばいいのに。
とか、思ってるうちにリリースされたばかりのシングルのカップリング「五月の天の河」など新しい名曲たちが演奏されてあっという間に終演。それまでの定番曲「シンクロ」「虹が消えた日」「僕らをつなぐもの」などは演奏されなかったが、これが今の秦基博なんだな、と感じさせる充分な満足感を与えてくれた。
秦 基博
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秦くんがステージから去った後、しばらくその満足感に浸っていたいが、今日も演者がステージからいなくなるやいなや、足早に会場から出て行くお客さんがけっこういる。広い北海道の他地区から来ていらっしゃるのだろうか。札幌に来てから、アンコールを観ないで帰るお客さんが多いのにはいつも驚かされる。
で、これも毎度のことだが、札幌の観客のアンコールを促す「気のない」拍手にはいつもちょっとがっかりしてしまう。
今回は特に顕著で、一階席ではほとんどの人が拍手をしていなかったように見えた。
僕は本当に感動していたので、いつもより10%増しくらいの大きな拍手をした。周りの皆さんもつられて大きな拍手をしてくれた。
そんなことをしなくても出てきてくれたのかもしれないが、今日の演奏にはその価値があると思った。
アンコールに出てきた秦くんは、「たまには中央じゃないところで歌おうかな」と言って僕らのいた右サイドに椅子を移して、ドラえもんの新しい映画の主題歌として作られたほやほやの新曲を歌ってくれた。これがまたいい曲!
最後まで良いライブだった。
札幌市民ホールという、いいハコがあることも、このライブの実現におおいに貢献していると思う。また良き観客として参加して、より多くのアーティストが札幌に来たいと思ってもらえるようにがんばりたい。うん。
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