2014年5月24日土曜日

[でも名盤 vol.1]:アル・クーパー「赤心の歌」

中学生の頃、僕は買ってもらったばかりのオンキヨーのシステム・コンポで、エアチェック(ラジオの録音ね)なるものに熱中していた。
音楽と出会ったばかりの僕にとってラジオはとても大切な情報源だった。

中でもNHK-FMで放送されていたサウンド・ストリート には、月曜から金曜まで毎日かじりつくように聴いていた記憶がある。
木・金のDJが渋谷陽一さんで、どの局でもかかるヒットチューンではなく、時が流れても色褪せないロックの名曲を中心にセレクトされたオンエアがとても勉強になった。

だから近所の書店で渋谷陽一さんが編んだ新潮文庫の「ロック-ベスト・アルバム・セレクション」というディスクガイドを見かけたときは、少ない小遣いの残りを迷わず投入した。
これが僕の買った最初のディスクガイドとなった。

その中で紹介されていた「アル・クーパー」というミュージシャンの名前を僕は知らなかったが、渋谷氏が「なぜかわからないが、彼のことが異常に好きだ。きっと前世で何か繋がりがあったのだろう」と書いていたのがとても印象的で、いつかアル・クーパーの音楽を聴いてみたいと思っていた。


実際のアル・クーパーの演奏に最初に触れたのは、ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」だった。
あの印象的なイントロのオルガンのフレーズが彼の手によるものだった。

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アル・クーパーは、最初このセッションでギターを弾こうと思っていたらしいが、スタジオでギターを弾いているマイク・ブルームフィールドの演奏を聴いてぶっとんでしまい、自分はオルガンに回ったんだそうだ。

そしてそのマイク・ブルームフィールドと、一緒にアルバムを作る。
それが「フィルモアの奇蹟」。
僕はこのアルバムに収録された「The Weight」を聴いて、ザ・バンドのことを知ったんだ。

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その後、彼がブラス・ロックを志向して作ったブラッド・スウェット・アンド・ティアーズは、音楽的にも商業的にも成功したが、このバンドの分厚いサウンドにはアル・クーパーの歌はちょっと繊細すぎた。
首謀者なのに、一作でバンドを追われてしまう。
可哀想だが、その後のサウンドを聴けば、まあ正解だったのかなと思う。スピニング・ホイールなんかとてもいいよね。

で、この悔しさというか悲しみをぶつけるように作られたソロアルバムがこれ。
タイトル曲はそのまんま彼の絶望感が描かれている。

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で、ここから数作、精力的にソロアルバムを作り続けて、ついに「赤心の歌」にたどり着くのだね。

赤心の歌
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2005年に、このアル・クーパーの心の旅とも言えるソロアルバム群が丁寧な紙ジャケ化で再リリースされた際、購入したのだが、「孤独な世界」だけ買いそこねてしまった。


でも結局、ほとんど「赤心の歌」しか聴いてない。
特にジョリーという曲が本当に素晴らしい。素晴らしすぎる。
彼の名を世界に知らしめたディラン・セッションでの奇跡のオルガンの再来。
やっぱりうまくはないんだけど、この歌唱には感じるものがある。
曲の力だと思う。

やっぱりたどり着いてしまった、という感じだったんだろうか。
毎年アルバムをリリースしていたのが、一旦お休みになって、ベスト盤なんかを出したりして、しばらくしてからひょっこり出したのがこれ。
ジャケット見てお分かりかと思いますが、迷作です、これ。



商業的にも失敗したこのアルバムの後、しばらく本当におやすみして、またひょっこり2枚ほど老成した、趣味の良いソロアルバムを出してます。

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これが実にいい感じ。老成したと言ったってアル・クーパーのことだから、やっぱりギスギスしてどこか尖ってる。不安定で、動的な歌。
どんなに売れなくても、こうやってずっと音楽を続けていけるって凄いことだと思います。褒めてないな。でも好きなんです。
僕も前世でなんかあったかな。

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