2013年8月1日木曜日

マイルズ・デイヴィス「We Want MILES」を磨きあげたテオ・マセロのMagic

日曜日、いつもの札幌狸小路6丁目Fresh Airでジャズのアナログレコードを物色していた。
先日の試聴会で、ブランク明け、マーカス・ミラーと組んでいた時期のマイルズのライブが思いの外よかったので、改めてコレクションの拡充を決めていた。
まだ持っていなかった「We Want MILES」を見つけてまず捕獲した。


6年間もの長い休業の後、The Man With The Hornで奇跡の復活を遂げた翌年発表のライブ盤。
エレクトリック期のマイルズはどうしてもギタリストに注目してしまうが、これはマイク・スターン。
まさに変幻自在のギターサウンド。
軽妙なジャズサウンドの時はあくまでも軽妙に弾き、ジャズロックになればドバーっと行く。
ブルーズになればあくまでも黒い。
いいですね。

サキソフォンのビル・エヴァンス(あのビル・エヴァンスではない。同姓同名のサックス奏者)もセクステット期のキャノンボールのような流麗な音運びでマイルズの繊細なメロディを支えていた。

アルバム「TUTU」と同質なリヴァーブが全体を支配している。
TUTUでプロデュースを担当したマーカス・ミラーの嗜好が濃く反映されているのだろう。
リヴァーブだけは、好みに合わないとどうしようもないが、この強いリヴァーブは悪くない。

と思って、プロデューサーを確認。
テオ・マセロだった。

マイルズの全幅の信頼を背景にテープを切り刻んで作品の完成度をギリギリまで磨いていく職人だ。

「ジャック・ジョンソン」という伝説の黒人ボクサーの映画のサントラを依頼されたマイルズは、テオ・マセロに前作「イン・ア・サイレント・ウェイ」の膨大なセッション・テープを渡して、ギャラは弾むからこれで一枚サントラ作っていてくれや、と言って休暇に出かけた、というエピソードさえ残っている。

このライブももちろん、無傷ではあるまい。
サキソフォンのビルは出来上がったアルバムを聴いて、うまく吹けたと思ってプレイバックを楽しみにしていたソロがまるっとカットされていたのをミュージシャン仲間に愚痴ったという噂もある。

しかし、このアルバムを繰り返し聴いて思う。
この弛みのないインタープレイが放つ緊張感こそが、この録音作品を完成度の高い芸術にしているのではないかと。

もしかしたら、テオの編集によって磨かれたこの録音は実際の演奏を超えるものになっているのではないだろうか。

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