2013年5月31日金曜日

ロバート・ジョンソンが伝播した「ブルーの誕生」

小学校の低学年の頃、引っ込み思案で友達を作るのが苦手で、部屋に引きこもって遊びがちだった僕にとって、父が買ってくれた「ジャンルジャポニカ百科事典」がとても大切な友達だった。
何を調べるでもなく、パラパラとページを捲って、見たこともない動物や、宇宙の彼方で起きている不思議な現象に思いを馳せて、想像の世界で遊ぶのが好きだった。

そんな僕の転機になったのは、4年生の時転校した先の小学校で行われたバス遠足だった。
バスの中で突然始まった歌合戦で、買ってもらったばかりのナショナルのラジカセでエアチェックして聴いていた「燃えろいい女」を歌って優勝したのだ(賞品は先生が自腹で買ってくれたと思われる図書券500円分だった)。

にわかに音楽が好きになった僕は、友人のお兄さんやお姉さんが当時夢中になって聴いていたBay City Rollersを知り、のめり込んでいった。
同じレコードをみんなで誰かの家で聴くことで、友達ができて、苦手だった野球に誘われたりして、いつの間にか毎日外で遊ぶ子供になっていた。

そしてそんなとき僕の友達「ジャンルジャポニカ百科事典」は、また僕にとても大切なことを教えてくれた。

それはこんなコラムだった。
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憂鬱を表す「ブルー」というコトバは、アメリカに奴隷として連れてこられた黒人たちが、晴れると辛い労働が待っているため、「青い」空を見ると憂鬱な気持ちになったことに起源している。そして、その心情を表現した音楽ジャンルをブルーズと呼ぶようになった。
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子供心に、何かとても大切なことを聞いたような気がした。

そしてブルーズは、南北戦争を経て西洋古典音楽と出会いジャズを生み出し、カントリーやフォークと融合してロック・ミュージックの土台となり、海をわたってエリック・クラプトンやジョン・レノンの心を動かしてブリティッシュ・インベイジョンの銃爪を引いた。

現在ある、どんなポピュラーミュージックも、この時生まれた「ブルー」の影響下にあるのだ。そして僕もまた、小学校時代に知った「ブルーの誕生」の魅力から逃れる事が出来ずにいる。



しかし、それもこれもロバート・ジョンソンという名のブルーズマンがいなかったら、彼が残したたった29曲の音源が無かったら、こんなふうになっていただろうか。
そのことは神様にはもちろん知るよしもなかった。
だって彼が魂を売った先は悪魔だったのだから。


高校の学校祭の浮かれた空気の中、僕は教室にエレキギターを持ち込んだ。
よく一緒にベースを弾いてくれていた友人のYが、覚えたてのペンタトニック・スケールでたどたどしく弾く僕のアドリブをサポートしてくれた。

ひと通り僕の演奏を聴いた彼はおもむろに僕のギターをとりあげて、「こんなのコピーした?」と、クリームが68年にリリースしたWheels of Fireに収録されているライブ録音「クロスロード」の有名なギターソロを弾き始めた。

特に難しいところもないのに、ブルーズ・フィーリングにあふれたフレーズの見本市みたいな曲だった。
楽譜を買って練習してギタリスト、エリック・クラプトンの大ファンになった。

この「クロスロード」という曲こそロバート・ジョンソンの残した遺産の中の一曲Crossroad Bluesのカバー。

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クラプトン以外にも、当時の英国ロックを牽引していた中心メンバーたちは、ロバート・ジョンソンに大きなリスペクトを捧げていたようだ。
ローリング・ストーンズはLove In Vain Bluesをカバーしているし、

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Led Zeppelinも Travelling Riverside Bluesのカバーをステージでやっていて、これは現在BBCセッションズというアルバムで聴くことが出来る。
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ロバート・ジョンソンは、1930年代にアコースティック・ギター一本を抱えてアメリカ全土を演奏して回ったブルーズマンで、聴衆が彼のあまりのギターの上手さに、あれはきっと悪魔に魂を売ったのに違いないと噂したという。

19世紀に、やはり高度なテクニックで聴衆を驚かせたヴァイオリニスト、ニコロ・パガニーニが悪魔に魂を売ったと噂されていたことが下敷きになっているのだろうか。

パガニーニはこの噂のおかげで埋葬を拒否され、防腐処理をして各地を転々とした末にジェノヴァの共同墓地に埋葬されたと言うし、ロバート・ジョンソンも27歳で毒殺されてしまう。
やはり才能とは何かと引き換えにしなければ手に入らないものなのかもしれないな。
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