2013年5月29日水曜日

バーンスタインの「春の祭典」がLPレコードで復刻

ストラヴィンスキーの「春の祭典」をLPレコードで買った。
ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」と並んで、近代音楽の幕開けを語る上で必ず言及されるバレエ音楽。
その「春の祭典」の初演から今年が100周年にあたるとのことで、バーンスタイン指揮のこの盤が記念盤として発売された。

作曲家の生誕や没年から数える記念盤はよくあるが、初演から数えての記念盤というのは珍しい。
が、この「ハルサイ」に関してだけは、これ以上相応しいメルクマールはない。
その初演は現代音楽史上屈指の「スキャンダル」として知られているのだ。


ピエール・モントゥ (1875-1964) の指揮、ニジンスキーの振り付けによるロシア・バレー団によって、1913年5月29日パリのシャンゼリゼ劇場においてその初演は行なわれた。

バレエの内容は、太古のロシアの異教徒たちの儀式を描いたもので、太陽神イアリロに捧げるために選ばれた処女たちが、踊り狂って倒れてしまうまでを、様々な踊りで紡いでいく。
パリの洒脱な聴衆に、この異教徒の踊りというテーマそのものが、いかにも不似合いだった。

また不協和音、変拍子、混合拍子といった、意欲的な音楽的実験も、この不似合いなテーマの違和感を増幅し、その真価を覆い隠してしまっていた。

劇場の幕があき、曲はファゴットのソロで始まる。
低音楽器である筈のファゴットが、その期待を裏切るかのように、当時としては非常識とも言える高音域で曲を開始する。もうこの部分だけで野次が飛んだ。
聴衆の一人だったサン・サーンスは冒頭を聞いた段階で、

「楽器の使い方を知らない者の曲は聞きたくない」

といって席を立ったと伝えられる。

楽曲は、その後もめまぐるしく、半ば躁うつ病的な大きな感情の起伏を描き出して落ち着かない。
観客は、あまりに既定の音楽の常識を覆し続ける楽曲に、興奮してしまい音楽が時々聞こえなかったくらいの喧しさで異を唱え続けたという。

その喧騒の中で、ストラヴィンスキーがこの楽曲の野心的部分の裏側に通底させていた美しいメロディはすっかり掻き消されてしまった。
公演はモントゥの超人的な集中力でなんとか最後まで演奏しきったものの、作曲者ストラヴィンスキーはいたたまれなくなって客席を立ち、舞台袖から混乱を極める劇場を演出家のニジンスキーとともに見守っていたという。


不幸なスタートきったものの今や、クラシック・コンサートでは屈指の人気プログラムとなったこの曲を、時代を超えて生き永らえさせてきたものは、時折耳を撫でる優しく美しいメロディと、混合拍子部分で奏でられる和音の、あのなんとも言えない哀しい響きだと思う。
ちょっとギターで和音を探ってみたが、minor9thの響きによく似ている。
初演時に観客が感じたバーバリズムのようなものとは無縁の奥深い響きがこの曲にはあると思う。


このレコードは、ジャケットがダブル・フォールドになっていて、中面にバーンスタインによる収録ピンナップや初演時のバレエ衣装のスケッチなどの写真が掲載されている。


作曲者ストラヴィンスキーとバレエの振り付けをやったニジンスキーの珍しいツーショットも。これは初演時の2年前の写真。


この時にはまだ、2年後の初演があんなことになろうとは思いもしていなかっただろう。

このアルバムのAmazonレビューに、下記のような刺激的な指摘がある。
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洋泉社の某ムック本で、セント・ジョージホテルの「Grand Colorama Ballroom」がどのような場所かを知らない、無知な自称・評論家がオーマンディ指揮のCDを珍盤と酷評し、録音場所がホテルであることを馬鹿にするような文章を書いていた。
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で、その「Grand Colorama Ballroom」の写真がこれである。


確かにデカイ!
ホテルにこんな場所があるとは!
クラシックの収録ではよく使われているんですね。

レコードではレーベルも気になるところ。


一般に6ツ目とよばれているレーベル。
色などが違うが、60年代くらいまでのコロンビアレーベルに使わていたデザインを踏襲している。
外縁部にThe Walking Eyeとよばれるロゴが6つ描かれていることからこの名で呼ばれているが、これはCBS=Columbia Broadcasting Syatemという報道機関の象徴として目と足を表しているのである。

記念盤ならではのイレギュラーなレーベルもうれしい。

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