CAVIN大阪屋さんの高級オーディオ試聴会には、2012年に初めて先輩に連れて行ってもらった。機器を買い換えるつもりは全然無いのだが、知らなかった音楽とたくさん出会えるイベントなので、それ以来毎年出かけている。
今年は、オーディオ雑誌もまったく読まなかった。
だから、届いたイベントのお知らせにもまったく聞いたことのないブランドがあった。
最初に聴いたのが、その初対面のブランド「Brodmann」だった。
でもひと目見て、ベーゼンドルファーだとわかった。あのドイツのピアノメーカーが作っていたスピーカーだ。
輸入元のフューレンコーディネートによると、同じハンス・ドイチェという人の設計によるもので、もともとベーゼンドルファーのスピーカーもハンス・ドイチェがベーゼンドルファー社に企画を持ち込んで作ったものらしい。
知らなかったが、Brodmannというのも楽器メーカーでピアノを作っているのだそうだ。
で、残念ながら今日聴いたスピーカーの写真は入手できなかった。
なぜか輸入元のフューレンコーディネートのサイトに、このスピーカーの情報がまったくないからだ。まだ発売されたばかりだからだろうか。
まあ、見た目は上の写真のベーゼンドルファー・スピーカーとほぼ同じだ。
小さなユニットが一つしか見えないが、これがツイーターで、ウーファーが三発側面に隠れている。
スピーカの側面後方には反響板が入っていて超低域のみを選択的に、アコースティックに増幅している。
なかなか凝った造りだ。
肝心の音だが、ピアノだけが特にいいという感じではなく、パーカッシブな音楽も大編成のオーケストラも無伴奏のバイオリンも上手に描き分けていた。
ただ、スピーカーの間に小さく音がまとまって出てくる感じで、音場が広がっていく感じは味わえない。
セッティングの難しいスピーカーなのかもしれない。
次に聴かせてもらったのは、昨年一番感心した、スコットランドのLINNのデモ。
昨年は、スピーカーの中にパワーアンプを内蔵したアクティブスピーカーのアキュバリックにやられた。
イキのいい音だった。
このデモを聴いて、ピエガからアキュバリックに買い替えたという人もいたそうだ。 うらやましい話だ。
今年のLINNは、EXAKTというシステムが目玉だった。
LINNジャパンによれば、今までのオーディオの根本的な問題は、メディアの情報を「読み取って」「増幅して」「伝送して」スピーカーを鳴らすため、そのプロセスの度に信号が劣化していくことにある、という。
で、EXAKTシステムでは、信号をデジタルのままスピーカーに送って、スピーカー内でアナログ信号に変換して増幅するというものなので、信号は劣化しないのだとか。
はて、そうだろうか。
依然として、スピーカー内部では「変換して」「増幅して」いるのである。
で、このシステムではアナログレコードの再生においては、EXAKTシステム内で一度「デジタルに変換して」スピーカーに情報を送って、そこでアナログに戻している。
プロセスが逆に増えているのだ。
機器構成が再生ユニットとスピーカーだけというシンプルな構成になるということ以上には僕にはこのシステムにメリットは見いだせなかったし、アナログ再生では逆に不要な変換プロセスが増えている。
また今日のデモでは、始まる直前にシステムがLANを「見失って」再生ができなくなるトラブルが発生した。
デジタル伝送ネットワークを音楽再生に使用するというのは、もしかしたら原子力を発電に使う以上に人類にとって時期尚早ではないか、と感じた次第だ。
僕は音楽を聴くのに、再現性のないトラブルを内在するシステムを使いたくはない。
コンピュータやインターネットには絶対的な信頼を置くことができない。
こういったシステムへの不信感は、音楽を聴く耳に影響を与えるものだ。
昨年感じた「イキの良さ」を今年は感じることができなかった。
今日のデモは、終始音量が控えめで、その影響もあるのかもしれない。
が、昨年までのプリアンプ+アクティブスピーカーというスタイルがLINNというブランドの完成形ではなかったか、と僕は思っている。
アキュフェーズのデモを覗くと、今年もスピーカーはJBLを使っていた。
例年、このデモでは、JBLのスピーカーがうまく鳴っていなくて、アキュフェーズのイメージもあまり良くなかったのだが、今年はDD67000という新モデルがとてもよく鳴っていて、JBLとアキュフェーズ、両方のイメージがぐっと良くなった。
でも最後の曲がエルガーの威風堂々。
なんでこんな曲かけるんだ。
教科書に載っている曲は苦手なので、早々に退散した。
そして、なんといっても今年の一番はこれだ。
MAGICO S3
とにかくカッコイイ。
鳴り出す前から、これだ、と思わせるオーラがある。
そして鳴り出せば、それまで聴いたスピーカーの音が全部ぶっ飛んでしまう、「正しい」音。
音に好みはそれぞれあれど、これがきっと演奏家や録音者の聴いて欲しかった音の出方なんじゃないか、と思わせる音なのだ。
一般にMAGICOのスピーカーは、そのアルミ合金のエンクロージャーによって知られている。「重さが効いている」とよく言われる。
しかし、それ以上にユニットの材質が効いているのではないか。
自社製のユニットに使われているのは、カーボン・ナノチューブという素材だ。
カーボン・ナノチューブは、現在世界各国で鋭意研究&設計中の軌道エレベーター(人工衛星や宇宙ステーションと地上を繋ぐエレベーター)のケーブルに実用上耐えうる強度/重量比を持った唯一の物質である。(というより、カーボン・ナノチューブの発明で、お伽話だった軌道エレベーターに実現の可能性が出てきた)
MAGICOのスコーカーユニットに使われているカーボン・ナノチューブは、直径6インチで6gしかないという軽量さだが、この薄く成形されたユニットに人が載っても潰れないほどの強度があるという。
この決して歪まないが軽くて素早く動くユニットが、 MAGICOの「滲まない」音を作っているのである。
この筋を通した高度な技術力の実現に320万円というのが高いか、安いか。
もちろん自分の財布を覗けば無理だね、と言わざるを得ないが、確かにこの音は唯一無二の音だったと思う。
そして聴いた中で一番「音量」に意識的だったのがMAGICOを扱う輸入代理店「エレクトリ」のデモであったということも重要な要素だと思っている。
実は今回会場に行ってみて、これは楽しみだ、と思ったのがタンノイのGRシリーズで、部屋に入ってみるとカンタベリーという大型機が聴けるようだった。
僕自身がタンノイの小型機「グリニッヂ」のユーザーなので、鳴り出した音は慣れ親しんだ音で、手嶌葵さんの歌なんかを聴いて、やっぱりタンノイはいいなあ、と思っていたら肝心のオーケストラ曲のボリュームが大きすぎて、スピーカーの悲鳴が聴こえてきてちっとも楽しくない。
新製品のパワーアンプがAクラスでも大きい音出せますよ、というデモだったようなのだが、肝心の音楽が壊れていては大きい音が出たことにはならないだろう、と僕は思う。
エレクトリの人は、曲が変わる度にプリアンプのボリュームを操作していた。使っていたプリアンプはPASSのXsで、0.5dBという細かいコントロールステップを持つアンプだった。その分ノブをたくさん回さなきゃならないが、必要な音量にピタっと決まる。
ああ、やっぱり音量ってのは「セッティング」のひとつなんだな、と思ったら早く自分のアンプでボリューム操作を試したくなって、まだいくつかデモが残っていたんだけど、帰ってきてしまった。
僕のMcintochプリアンプC2200はリモコンで音量操作が出来るので、リスニングポイントで音量を決められるし、99ステップなので、PASSにはかなわないが比較的細かい設定ができる。
音が大きくなっていくと1ステップでずいぶん音楽の表情が変わるものだ。
一番いいところを見つけて、音楽に身を浸せば、カーボン・ナノチューブなんか使ってなくたって自分のシステムもなかなかのものじゃないか、と思える。
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