2014年7月28日月曜日

纐纈歩美「Brooklyn Purple」のレコードが素晴らしい

最近出る輸入盤のアナログレコードのクオリティは、ハイクオリティを謳っているレーベルのものは良いが、廉価な復刻版は尽く全滅だ。
指紋がベタベタついているし、爪で引っ掻いたような傷も大抵の場合はついている。
2分の1の確率で周辺部には反りがあり、再生できないこともある。

外盤については、まだレコード製作のクオリティが高かった頃に作られた盤を中古で買うことにしていた。
しかし、日本で製作されたものはどれも傷一つなく、ピカピカ。もちろん反りなどない。さすがジャパン・クオリティ。

それで日本のジャズレコードの新譜を探していた。
最近の日本ジャズではオルガニストのKANKAWAさんが、復刻で高音質盤をリリースされていて注目されたが、あとは上原ひろみさんや山中千尋さんなどの女性陣が圧倒的に売れている。

で、ちょいとへそ曲がりの僕は、そうでない選択肢を探すわけだが、アイドルみたいな綺麗な子のレコードの音はなぜか毒にも薬にもならないようなエレベーター・ミュージックばかり。
その中で、お、と思う演奏を聴かせるサキソフォンがいた。

纐纈(こうけつ)歩美。
変わった苗字だが、森博嗣のミステリに出てきたことがあるので憶えていた。

彼女のサキソフォンは、昔のジャズメンの少し揺らいだ音を持っていて、リズムに対して少し遅れ気味の隙を見せる。古くて懐かしいジャズの音。
しかし、吹き姿を見ると、生真面目な姿勢であくまでも一生懸命吹いている。
きっと彼女は偉大な先輩ジャズメンの演奏を、遊びや揺らぎまで含めて一生懸命再現しようとしているのだろう。

探してみると、THINK! RECORDというレーベルから最新盤がレコード化されていたので買ってみた。


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なかなか美しいジャケット。昔のレコードの方が盤の作りはいいが、ジャケットの印刷の美しさは現代の作品に完全にかなわない。
で、テレビなんかでみると纐纈歩美というアーティストはもっと地味で純朴な感じの子なので、これはアートワークの勝利ですな。いい仕事してます。
で、なぜかCDみたいな帯がついてて興ざめ。
レコード盤は別の厚紙ジャケットに収められていて、このあたりはよく分かっている感じ。一部のコレクターはこのような別の白ジャケを買って収納して、本ジャケへのダメージを極力少なくしているくらいだから、最初から製品もそうなっているのは合理的と言える。
裏ジャケ。いい写真だ。

肝心のレコードは、まさにカンペキのジャパン・クオリティ。今まで買ったレコードの中で最も美しい盤質。昔のレコードのようなツヤが素晴らしい。最近のは少しくすんでるもんね。

演奏は、テレビを見て感じたとおりのコルトレーン・マナーの細かいヴィブラートの利いたフレージングがいい。繊細なリズムの揺れは進化していて、この方向で自分の音楽を磨いていこうという意思のみえる演奏だ。

そのコルトレーンの曲を2曲カバーしている。
1曲目はKenny Burrell & John ColtraneのオープニングチューンのFreight Trane。
原曲よりも短く切り詰めて、ここからコルトレーン吹きますよ、という挨拶としてここに置いたように思える。

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そして、この曲をイントロ代わりに、いよいよあの曲が吹かれる。
コルトレーン・ジャズのひとつの側面を代表する名盤Balladsから、It's Easy To Remember。
この曲は、コルトレーンのアルバムの中では箸休め的に吹かれた小品といった感触だが、纐纈はこの曲をA面ラストという重要な位置に置いて拡大し、充分に感情を載せたメロディを聴かせる。
名演と思う。

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音質のために、CDよりも二曲少ない収録になっているが、それでも外周部のカットがきつい。そのくらい音質重視のカッティングになっている。針を落とすのが難しいが、企画者の情熱に応えるべく、気合を入れて針を落とすしかない。
うまく針が入ったら、もうあとは長い歴史を持つモダンジャズの末裔のサウンドに身を任せればいい。


2014年7月23日水曜日

ソナタ形式で綴られるコメディー映画「ジャッジ!」の脚本が素晴らしい件

クラシック音楽の用語に「ソナタ形式」というのがある。

楽曲の展開のパターンのひとつで、簡単に言うと、まず主題が提示され(提示部)、その主題をさまざまに変形し、変奏する(展開部)。この緊張感のある(つまり主題からの逸脱)展開部を抜けた後、提示部の主題を再び繰り返す(再現部)形式のこと。

提示部の主題が第一・第二の二つの主題から構成されていることも考え合わせると、物語における起承転結にも似ているが、ソナタ形式の特徴はなんといっても再現部にある。
提示部で聴いた主題が、再現部で繰り返された時に、それが変奏を経ているがゆえに最初と違った心象風景を見せてくれる。

同じメロディが二つの顔を見せるのだ。
例えばそれは、自分が子どもとして育てられている時に、親の子育てを見てきて、今度は自分が親になった時にはじめて、あの時親が自分にしてくれたことの意味を識る、というようなことに似ている。
これがソナタ形式の醍醐味なのだ。

そして映画なんかを観ていて、この映画よく出来てるなあと感心するような時、脚本がソナタ形式に倣って書かれていることが多い。
今回観た「ジャッジ!」というコメディー邦画もそのような映画だった。

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妻夫木聡、北川景子主演。
妻夫木くんは、本当にコメディーではイキイキとした演技をする。
清州会議でのバカ殿役も実に良かったが、今回のはもっといい。


以前、広告の仕事をしていたので、冒頭のきつねうどんのCFのプレゼンで、「宣伝部長がネコといったらネコなんだ」というくだりがなんだかちょっと懐かしいが、そのちょい役の宣伝部長をあがた森魚がやっているという無駄な贅沢さがこの映画のクオリティを物語っている。

第一主題は、このあと、妻夫木くんが青森時代に憧れていた女性と東京で再会し、自分が本当にやりたかったことを思い出し、そのきっかけになった靴のCMのビデオをプレイバックするというカタチで奏でられる。

そして、役者として進境著しいリリー・フランキー演じる窓際社員から、第二主題が繰り出される。
ダメ社員の妻夫木くんが何故かアメリカの広告祭に審査員として派遣されることになり、英語も話せず、CMプランナーとしての実績もない彼に、リリー・フランキー扮する窓際社員が、これだけ覚えていけ、という英文をいくつかと、簡単な“芸”を授ける。
これが第二主題として機能する。


(当然のことだが)付け焼き刃の英語は、現地でとんちんかんなドラマを生み出す。
第二主題は、シチェーション・コメディの中でさまざまに変奏される。
その騒動の裏側で、第一主題に据えられた靴のCMもその作者の心境の変化として変奏している。


このお互いに関係しあって変奏を作り出していく脚本が実に巧みなのだ。

そしてピンチに陥って肚をくくった妻夫木くんが、それしか知らない「第二主題」を、大きく変化した状況の中で純粋に再現する。そして、事態があるべき姿に収束していくのだ。
で、ここのところが、この映画の面白さのコアなので詳しくは書かないが、実に見事だとだけ言っておく。


傑作なのである。


逆の例も挙げておく。
同時期に公開された西島秀俊、キム・ヒョジン主演のサスペンス「ゲノムハザードある天才科学者の5日間」 だ。

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冒頭から死体消失や、その死体からの電話など不可解な“美味しい”謎が提示される本格ミステリー。
原作はサントリーミステリー大賞受賞作。

で、この美味しいはずの謎は、すでにタイトルにてネタばらしされている。
そう、イラストレーターとして登場した人物は、実はとある天才科学者であることがすでに知らされているのである。
そして、畳み掛けるような“偶然”の連続で、物語は真相へと向かうのである。

真相がわかってみると、物語の起点すらもある不幸な偶然から始まっていた、という始末だ。
せめて何かの陰謀があって欲しかった、と思ってしまうほど必然性の薄い物語。
当然、ソナタもこなたもないのである。

だからといって、この映画が面白くなかったと言いたいのではない。
西島秀俊のかっこいい疾走シーンはおそらく日本映画史にくらいは残りそうな名場面だったし、キム・ヒョジンのどこまでも感情にストレートな演技も好感の持てるものだった。
シナリオもすべからくソナタ形式でなければならないというわけでも、もちろんない。

それでも「ソナタ形式」の応用が、観ているものを因果のサークルの中に捕らえて、その世界を体感させる仕掛けとして、やはりひとつの有効な手段であることを、このふたつの映画の印象は証明しているのではないかと思う。

2014年7月17日木曜日

映画「清州会議」:三谷幸喜の意外にも正攻法な清州会議解釈

映画「清州会議」をDVDにて鑑賞。

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三谷幸喜作品である。

本能寺の変のあと実際に行われた、織田家の跡目決めと領地分配の会議が題材となっている。
かつて、何度もドラマや映画に取り上げられた題材で、三谷幸喜がどのようにこの「よく出来た」お話を処理するのかに興味がわく。

誰もが跡目争いの候補としてノーマークだった当時2歳の三法師を、まんまと自分だけに懐かせ、抱きかかえて登場した秀吉が「殿の御前であるぞ、頭が高い」と抵抗勢力である柴田勝家を押さえつける清州会議のエピソードは、史実にしては出来過ぎた演出が施されているように感じる。
秀吉が登場するエピソードは、彼が天下人となったあとに「書かせている」いくつかの太閤記が下敷きになっているものが多く、実際どうであったのかはすでに判然としないものが多いのだ。

中でも特に清州会議は怪しい。

まず、三法師が跡目争いの本筋であると、秀吉だけが気付いていたというのが普通に考えておかしい。
三法師は信長の長男の嫡子なのである。
また次男・三男はすでに養子に出ている。
おそらく最初から三法師が筆頭候補であったはずだ。

また、会議が清須で行われた理由も、当時三法師が清州城に滞在していたから、と考えたほうが自然すぎるほど自然だ。

「十二人の怒れる男」を正反対のアプローチで舞台化した三谷幸喜が、この演出過多な「実話」をどのようにおちょくってくれるのか、を期待したわけだ。

しかし三谷幸喜は、本作品においては正攻法のアプローチで、仕掛けとしては柴田勝家を人情味あふれる昔気質の武士、秀吉をビジョナリーに仕立てて、時代の変わり目を生き抜く男たちのドラマとしてみせた。
また、その裏で、これまた昔気質な色仕掛けで運を引き寄せようとするお市と、現代的な謀略で最大の利益を生み出した松姫の相克をも走らせ、見事な現代劇に仕立てている。

思えば、三谷幸喜はすでに日本有数のヒットメイカーなのであって、僕が期待したようなオルタナティブな表現は、若い野心家に望めばいいのであった。


それにしても剛力彩芽にこの役は酷であった。
なにしろ麻呂眉にお歯黒。
どんな美人でも、そうとう厳しいものになる。
しかしだからこそ、最後の見せ場の演技で、あの「歯」は効いている。
かわいそうな気もするが、ちょっとゾッとしてしまった。

映画「パシフィック・リム」:菊地凛子の名演技

映画「パシフィック・リム」をDVDにて鑑賞。


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公開時には日本でもずいぶんな話題作だったと思うが、これなら日本のアニメにもっと優れた作品がいくらでもあるだろう。
少なくともシナリオ、および設定に関しては二番煎じの印象を拭い去れない。
見せ場のシーンでもエヴァンゲリオン、ジャイアント・ロボなど、ああこれはあれだな、みたいな元ネタを感じさせるものが多かった。
監督さんは日本の特撮ものをリスペクトしている人なんだそうで、ゴジラの本多猪四郎監督への献辞もラストに流れる。

それでも映画として充分楽しめたのは、やはり菊地凛子さんの名演によるところが大きい。
アクションもいいし、内心の葛藤を表現する演技が実に日本的で、類型に堕さないところがよかった。


でもこの映画はそれだけかな。
あ、あと芦田愛菜ちゃんのハリウッド進出作ってこれだったんですね。


2014年7月10日木曜日

[でも名盤 vol.7]:トレイシー「FAR FROM HURTING KIND」

[でも名盤]の6回目でご紹介したKEANEも1981年だった。
この年、英国ではTHE JAMで人気絶頂期にあったポール・ウェラーが、すでに新しいムーブメントを起こそうとレスポンド・レーベルというインディ・レーベルを組織し始めていた。
そして翌1982年、人気絶頂のままTHE JAMを解散。
デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズにも在籍していたミック・タルボットとスタイル・カウンシルを結成。
同時に、レスポンド・レーベルからデビューさせる新人シンガーを探していた。

オーディションにテープを送ってきたトレイシー・ヤング嬢の声に惚れ込んだポール・ウェラーは、即座に契約に出向き、スタイル・カウンシルのデビュー・シングルとなる「スピーク・ライク・ア・チャイルド」でも早くも共演している。

ここでややこしいのが、スタイル・カウンシルのファーストアルバム「カフェ・ブリュ」の「パリス・マッチ」という曲で歌っているのが、Everything But The Girlのトレイシー・ソーンであるということで、だから、ねえねえ、ポール・ウェラーのプロデュースしてたトレイシーって知ってる?というと、いやそれはトレイシー・ソーンのことだろ、と言われてしまうことがある。
僕に信用がないだけ、と言われればそれまでだが。

そして1984年、満を持してトレイシー名義のデビューアルバムが出る。
「ファー・フロム・ハーティング・カインド」

Far from the Hurting Kind
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このアルバムもNHK-FMでアルバムの大半の曲が流れた。
一曲目の「(I love you)when you sleep」のイントロの幽玄なエレピに続いて出てきた曇りのないハイトーンのメロディに一瞬で引きこまれた。
が、その後のコード進行が普通じゃない。メロディもだんだんこじれていく。
サビに入って分散和音っぽい複雑で高低差のあるメロディが歌われていく。
ずっと、緊張感を伴って聴いているとあっという間に曲が終わった。2分55秒。
放送が終わっても、この曲の不思議な構成が気になって録音したテープを何度も聴いた。

ずっと後になって、復刻されたCDを買って、この曲がエルヴィス・コステロの曲だと知った。
本国ではシングル・カットもされていたようだ。


デビュー曲は「The House That Jack Built」というモータウン風味の楽曲だが、アルバム「ファー・フロム・ハーティング・カインド」には収録されていなかった。
現在、再編集されて再発された盤には一曲目に収録されているようだ。
なんてこった。



映像見ていただくとわかるんですが、綺麗な人なんですよね。上の(I love you)when you sleepのジャケットもなかなか。
ファー・フロム・ハーティング・カインドのジャケット写真、もう少しなんとかならなかったんでしょうか。

で、まさかジャケット写真のせいではないでしょうが、セカンドも録音はされたが結局発売されず。
レスポンド・レーベルは経営がうまくいかず、1985年に実質的に活動を停止してしまう。

ところが、発売されなかったセカンドがなんと!今年、発売されたのです!!
これは事件ですよ。誰が何と言っても事件なんですよ。
と言ってもこれ書いてて発見したんですが。

でもとても偶然とは思えんな。
どっかから電波飛んできてたな。

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名前が違うが、後半は本名のトレイシー・ヤング名義で活動していた模様。
僕も今ポチったので、まだ聴いてませんが、届いたらまたレポします。

劇場版「黒執事」のたったひとつの見どころ

アニメの2期放送に先駆けて、水嶋ヒロ×剛力彩芽のキャストで実写映画化された「黒執事」

もともと原作漫画でも、アニメ化作品でも、例えば「悪魔との契約」という魅力的な文芸的背景を持っているにもかかわらず、そこを研究した気配はない。
何かの文芸作品や映画などへのオマージュも特に感じ取れない。

ただしアニメ版には「坂本真綾が演じる少年」という立派な見どころがあり、作品として成立はしている。

この劇場版では、剛力彩芽をキャストするために組まれたオリジナルの設定、つまり本当は女の子だが当主を継承できるが男の子だけなので正体を隠しているというギミックが活きている。

どこで活きているかというとひたすらにメイドのリンのためにだ。
原作でもドジっ子メガネメイドとして登場するこのキャラクターが、この映画のメインキャストである。

映画でもリンはやはりドジだ。




しかし、主人の危機にあたり、正体を表す。
メガネが外れて、戦闘者としてのリンが姿を現す。って、山本美月かよ!

メガネでわかんなかったよ。

ここのアクションシーンが凄い。
格闘技で、相手を倒して馬乗りで迷いなく射殺。

その後も武器商人のボディガードたちを倒しては銃を奪い、殺す。
ご主人様の剛力を逃した後、大量のボディガードにひとりで立ち向かうシーン。
よく上着脱いだりして戦いの体勢を整える場面で、ベルトをキュッと引き、スカートの裾を絞る。
かっこいいです。この仕掛け。
メイド戦闘のスタンダードになると思う。


そしてここがアクションシーンのハイライト。
捕まえた敵に乗り、銃を奪い、そのまま回転しながら射撃、周囲の敵を薙ぎ払う。
これ、ご本人がやってるんだとしたら凄い。
水野美紀の後継として充分、やっていける。
で、戦い終わってセバスチャン(執事)に助けてもらって、メガネに戻る。

この後、敵執事と黒執事のバトルとか、意外な真犯人とか、そのまた背後に大物が、とかいろいろあるわけですが、結局このメイドバトル以上の盛り上がりはありませんでした。
というわけで、山本美月演じるリンのバトルシーンを中心にご紹介いたしました。

映画は続編に含みを持たせるエンディングでしたので、次回もリンの活躍に期待したいです。







2014年7月8日火曜日

[でも名盤 vol.6]:キーン「ドライヴィング・サタデイ・ナイト」

1981年というから中学生の頃だ。
当時、釧路ではFM放送はNHKしか聴けなかった。
確か夕方だったと思うが、ポップス、ロックのアーティストひとりを特集してかける45分間の番組があった。
放送は前半後半に分けて、楽曲がノンストップでかかるという、ポップスやロックのアルバムを録音するにのよく使われた46分テープにエアチェックすることを想定した画期的な構成になっていた。

僕はこの番組で、実に多くのアーティストを知った。
ビーチボーイズ、チープトリック、フォリナー、イーグルスなどなど。
今日、ご紹介したい「Keane」もそうだった。

Keaneと言っても、2004年にHopes & Fears(いいアルバムでしたよね)でデビューしたイギリスのバンドではない。
トムとジョンのキーン兄弟を中心に結成され、TOTOの弟分としてデビューしたアメリカのバンドである。

確かデビュー曲の「ドライヴィング・サタデイ・ナイト」はソニーのカセットテープのCMで流れたはずだ。
その日のNHK-FMでは、キーンの、デビュー曲と同じ「ドライヴィング・サタデイ・ナイト」と題されたファーストアルバムがまるごとかかったのだった。

Keane
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今でも一曲目のTryin' to kill a saturday nightの印象的なピアノのイントロが聴こえてくると、完全に中学時代の心のほとんどを音楽にもっていかれていた時代の疼きが蘇ってくる。
アルバムのすべてのパーツがキャッチーでシンプルなアイディアによって作られている。
弟くんのドラムスの若さと勢いがあるのにセンスの良いフィルインは、ほとんどの曲で今でも「歌える」。

録音したテープは次第によれよれになっていったが、このアルバムは待てど暮らせどCD化されなかった。CD化されないということは、中古市場にレコードが流れてきにくいし、実は、このアルバムは日本でしか発売されなかった。 だからアメリカとドイツのレコード店を主な仕入先としている中古レコード店にもこのレコードは入ってこないのだ。
だから
2001年に復刻専門レーベルが再発してくれた時には狂喜して、同時に復刻されたセカンド・アルバムと一緒に買った。
そのセカンド・アルバムを聴くのははじめてだった。同じメンバーで同じようなコンセプトで作られているのだが、心に残る楽曲がない。
不思議なものだ。

奇蹟とか魔法とか、そういうなにかがこのファーストアルバムには働いてるんだろう。そういう意味でも、このアルバムは名盤とよぶにふさわしいと思う。

2014年7月6日日曜日

CAVIN大阪屋高級オーディオ試聴会2014参加記:音量はセッティングのひとつだね

CAVIN大阪屋さんの高級オーディオ試聴会には、2012年に初めて先輩に連れて行ってもらった。機器を買い換えるつもりは全然無いのだが、知らなかった音楽とたくさん出会えるイベントなので、それ以来毎年出かけている。

今年は、オーディオ雑誌もまったく読まなかった。
だから、届いたイベントのお知らせにもまったく聞いたことのないブランドがあった。

最初に聴いたのが、その初対面のブランド「Brodmann」だった。
でもひと目見て、ベーゼンドルファーだとわかった。あのドイツのピアノメーカーが作っていたスピーカーだ。


輸入元のフューレンコーディネートによると、同じハンス・ドイチェという人の設計によるもので、もともとベーゼンドルファーのスピーカーもハンス・ドイチェがベーゼンドルファー社に企画を持ち込んで作ったものらしい。
知らなかったが、Brodmannというのも楽器メーカーでピアノを作っているのだそうだ。

で、残念ながら今日聴いたスピーカーの写真は入手できなかった。
なぜか輸入元のフューレンコーディネートのサイトに、このスピーカーの情報がまったくないからだ。まだ発売されたばかりだからだろうか。

まあ、見た目は上の写真のベーゼンドルファー・スピーカーとほぼ同じだ。
小さなユニットが一つしか見えないが、これがツイーターで、ウーファーが三発側面に隠れている。
スピーカの側面後方には反響板が入っていて超低域のみを選択的に、アコースティックに増幅している。
なかなか凝った造りだ。

肝心の音だが、ピアノだけが特にいいという感じではなく、パーカッシブな音楽も大編成のオーケストラも無伴奏のバイオリンも上手に描き分けていた。
ただ、スピーカーの間に小さく音がまとまって出てくる感じで、音場が広がっていく感じは味わえない。
セッティングの難しいスピーカーなのかもしれない。


次に聴かせてもらったのは、昨年一番感心した、スコットランドのLINNのデモ。
昨年は、スピーカーの中にパワーアンプを内蔵したアクティブスピーカーのアキュバリックにやられた。
イキのいい音だった。
このデモを聴いて、ピエガからアキュバリックに買い替えたという人もいたそうだ。 うらやましい話だ。

今年のLINNは、EXAKTというシステムが目玉だった。
LINNジャパンによれば、今までのオーディオの根本的な問題は、メディアの情報を「読み取って」「増幅して」「伝送して」スピーカーを鳴らすため、そのプロセスの度に信号が劣化していくことにある、という。
で、EXAKTシステムでは、信号をデジタルのままスピーカーに送って、スピーカー内でアナログ信号に変換して増幅するというものなので、信号は劣化しないのだとか。

はて、そうだろうか。
依然として、スピーカー内部では「変換して」「増幅して」いるのである。
で、このシステムではアナログレコードの再生においては、EXAKTシステム内で一度「デジタルに変換して」スピーカーに情報を送って、そこでアナログに戻している。
プロセスが逆に増えているのだ。

機器構成が再生ユニットとスピーカーだけというシンプルな構成になるということ以上には僕にはこのシステムにメリットは見いだせなかったし、アナログ再生では逆に不要な変換プロセスが増えている。

また今日のデモでは、始まる直前にシステムがLANを「見失って」再生ができなくなるトラブルが発生した。
デジタル伝送ネットワークを音楽再生に使用するというのは、もしかしたら原子力を発電に使う以上に人類にとって時期尚早ではないか、と感じた次第だ。
僕は音楽を聴くのに、再現性のないトラブルを内在するシステムを使いたくはない。
コンピュータやインターネットには絶対的な信頼を置くことができない。

こういったシステムへの不信感は、音楽を聴く耳に影響を与えるものだ。
昨年感じた「イキの良さ」を今年は感じることができなかった。
今日のデモは、終始音量が控えめで、その影響もあるのかもしれない。
が、昨年までのプリアンプ+アクティブスピーカーというスタイルがLINNというブランドの完成形ではなかったか、と僕は思っている。

アキュフェーズのデモを覗くと、今年もスピーカーはJBLを使っていた。
例年、このデモでは、JBLのスピーカーがうまく鳴っていなくて、アキュフェーズのイメージもあまり良くなかったのだが、今年はDD67000という新モデルがとてもよく鳴っていて、JBLとアキュフェーズ、両方のイメージがぐっと良くなった。


でも最後の曲がエルガーの威風堂々。
なんでこんな曲かけるんだ。
教科書に載っている曲は苦手なので、早々に退散した。

そして、なんといっても今年の一番はこれだ。
MAGICO S3


とにかくカッコイイ。
鳴り出す前から、これだ、と思わせるオーラがある。
そして鳴り出せば、それまで聴いたスピーカーの音が全部ぶっ飛んでしまう、「正しい」音。
音に好みはそれぞれあれど、これがきっと演奏家や録音者の聴いて欲しかった音の出方なんじゃないか、と思わせる音なのだ。

一般にMAGICOのスピーカーは、そのアルミ合金のエンクロージャーによって知られている。「重さが効いている」とよく言われる。
しかし、それ以上にユニットの材質が効いているのではないか。
自社製のユニットに使われているのは、カーボン・ナノチューブという素材だ。

カーボン・ナノチューブは、現在世界各国で鋭意研究&設計中の軌道エレベーター(人工衛星や宇宙ステーションと地上を繋ぐエレベーター)のケーブルに実用上耐えうる強度/重量比を持った唯一の物質である。(というより、カーボン・ナノチューブの発明で、お伽話だった軌道エレベーターに実現の可能性が出てきた)
MAGICOのスコーカーユニットに使われているカーボン・ナノチューブは、直径6インチで6gしかないという軽量さだが、この薄く成形されたユニットに人が載っても潰れないほどの強度があるという。
この決して歪まないが軽くて素早く動くユニットが、 MAGICOの「滲まない」音を作っているのである。
この筋を通した高度な技術力の実現に320万円というのが高いか、安いか。
もちろん自分の財布を覗けば無理だね、と言わざるを得ないが、確かにこの音は唯一無二の音だったと思う。

そして聴いた中で一番「音量」に意識的だったのがMAGICOを扱う輸入代理店「エレクトリ」のデモであったということも重要な要素だと思っている。

実は今回会場に行ってみて、これは楽しみだ、と思ったのがタンノイのGRシリーズで、部屋に入ってみるとカンタベリーという大型機が聴けるようだった。
僕自身がタンノイの小型機「グリニッヂ」のユーザーなので、鳴り出した音は慣れ親しんだ音で、手嶌葵さんの歌なんかを聴いて、やっぱりタンノイはいいなあ、と思っていたら肝心のオーケストラ曲のボリュームが大きすぎて、スピーカーの悲鳴が聴こえてきてちっとも楽しくない。
新製品のパワーアンプがAクラスでも大きい音出せますよ、というデモだったようなのだが、肝心の音楽が壊れていては大きい音が出たことにはならないだろう、と僕は思う。

エレクトリの人は、曲が変わる度にプリアンプのボリュームを操作していた。使っていたプリアンプはPASSのXsで、0.5dBという細かいコントロールステップを持つアンプだった。その分ノブをたくさん回さなきゃならないが、必要な音量にピタっと決まる。

ああ、やっぱり音量ってのは「セッティング」のひとつなんだな、と思ったら早く自分のアンプでボリューム操作を試したくなって、まだいくつかデモが残っていたんだけど、帰ってきてしまった。

僕のMcintochプリアンプC2200はリモコンで音量操作が出来るので、リスニングポイントで音量を決められるし、99ステップなので、PASSにはかなわないが比較的細かい設定ができる。
音が大きくなっていくと1ステップでずいぶん音楽の表情が変わるものだ。
一番いいところを見つけて、音楽に身を浸せば、カーボン・ナノチューブなんか使ってなくたって自分のシステムもなかなかのものじゃないか、と思える。

2014年7月5日土曜日

映画「真夏の方程式」:容疑者xの本格問題への回答

映画「真夏の方程式」をDVDにて鑑賞。
東野圭吾さんのガリレオ・シリーズ、「容疑者xの献身」に続く映画第二弾、ということになります。


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「容疑者xの献身」に関しては、「容疑者xの本格問題」を軸に、以前このような文章を書いている。
→我「容疑者xの献身」を楽しむものに如かず

ガリレオ・シリーズの映画化であるから、やはりこの問題を避けて通ることはできない。
二階堂黎人が提起した「容疑者xの本格問題」の起点はこのような指摘だった。

こ の本の真相(湯川の想像)には、読者に対する手がかりも証拠も充分でなく、読者はそれをけっして推理できない。よって、作者が真相であるとするものが最後 に開示されるまで、読者は真相に到達し得ない。つまり、そういう結末の得られ方(作者からの与え方)は《捜査型の小説》であるから、《推理型の小説》では ない(=本格推理小説ではない)、ということなのである。

本作「真夏の方程式」においても“湯川の想像”は、やはり推理とは呼びがたい“飛躍”を内在させていた。
そして、容疑者xと同様に、 その想像自体は、事件を解決するためのものでなく、もっぱら事件に関係した者の心の状態を変化させることに寄与するのである。

もっと突っ込んで言えば、謎を解くことだけでは、事件を解決したことにならないよ、という作者からの「容疑者x問題」への返答ともいえるのではないか。


また本作では、脱原発問題を想起させる「環境保全」と「資源開発」という二項対立が、物語の軸として立てられている。
どちらが正しいかではなく、どちらを選択するか。
それが人間にできる議論のせいぜいの範疇である、とガリレオは折に触れ両陣営に示唆している。
それぞれの立場にしがみついて、逐一否定して反論しあっていても、どこにも辿りつけない。


映画では、ある少年の成長を通じて、今の日本のあちこちで見られるこのような閉塞の風景を浮き彫りにしていく。
人間が正しく生きていくために必要な“地図”が科学だ、とガリレオは少年に告げる。
「今、学校で教えていることは将来の役に立たない」などと、大のおとなが言い立てるようなこの国で、僕らはどこに辿り着こうとしているのか。
すべての少年のとなりにガリレオはいないのに。

2014年7月3日木曜日

映画「謝罪の王様」:Gomennasai is not “I'm sorry”.

映画「謝罪の王様」をDVDにて鑑賞。
さすが、クドカン×阿部サダヲ。脚本も演技も名人芸。一級のコメディーであります。

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僕は18年間営業の仕事をしてきたが、だいたい仕事の半分はなんらかの謝罪だ。
ミスに起因するものもあるが、クローズド・マーケットで決まった顧客と長期に渡る取引をする業界では、提供した商品がお客様の期待どおりでないときも、適切な謝罪が必要になる。

営業現場での謝罪においては、「それが本当は誰のせいか」ということは問題にならない、どころか問題にしてはならない。
それが自分以外のスタッフのせいでも、またはいかんともし難い社会情勢に起因するものでも、たとえお客様自身の勘違いであったとしても、すべてを代表して頭を下げるのが謝罪というものだ。

リクツを超越した「許してください」という純粋な気持ちだけが、謝罪の要諦である。



だから、映画内で、謝罪センターができるきっかけとなったラーメンチェーンの謝罪対応の迷走ぶりには、わかる、わかると大きく頷いた。
謝罪することと、事態を収拾するということの間には深くて大きな溝があるのだ。

国際弁護士に、謝罪の何たるかを語るシーンにも日本的な謝罪の本質がよく表現されていた。
だいたいI'm sorry.ってなんなんだ。
なんで、私は残念だ、と表明することが謝罪することになるんだ。
同じ意味でエラい人が「遺憾に思います」っていうのも、ちっとも得心がいかない。
「それはわたしのせいではありません」って言ってるのと同じだろ。


グローバリゼーションの中で、日本が喪った大事なもの。
それが謝罪だ、というのがこの映画のテーマだろう。
おおいに共感します。


さて、この映画にはもうひとつ見どころがある。
それはエンドロール。
E-Girls、エグザイル、VERBALの豪華共演による主題歌のミュージック・ムービーが凄い。
ぜひ観てください。

2014年7月2日水曜日

映画『ルームメイト』:物語のミスリードと映像のミスリード

映画「ルームメイト」をDVDにて鑑賞。
もちろん北川景子を観るためである。

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思いのほか、本格的なサスペンス/ミステリであった。
原作は、今邑彩さんの小説で、漫画化もされているようだ。

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ミステリには、映像や漫画にされると、読者へのミスリードがうまく働かなくなる種類のものがある。
今邑彩さんの「ルームメイト」もそのひとつなのだが、本作では二人の女優をうまく使ってそこをクリアしている。
だからやはり見どころは、と問われれば、北川景子と深田恭子の女優としての質の違いに集約される、と答えるだろう。

北川景子は、どんな役をやってもどこかに北川景子そのものを映し出しながら役を演じる。
「謎解きはディナーのあとで」のお嬢様も、「死刑台のエレベーター」の警官の恋人も、「悪夢ちゃん」の先生もどこから見ても役を纏った北川景子なのである。

一方、深田恭子という女優には、役の中に“ワタクシ”が入り込まない。
「夜明けの街で」での深田恭子はあくまでも秋葉なのであり、「ヤッターマン」に出れば、やっぱりコスプレを超えてドロンジョ様そのものになってしまうのである。

その深田恭子の本作での複数人格の演じ分けの見事さといったら!
人格の揺らぎは、この映画のコアであり、そのように瞬時に複数人格を行き来するのを、最後、北川景子が、その実在感ですっぽり受け止める、という構造になっている。
いわば、小説特有のミスリードの手法を捨て、映像ならではのミスリードに切り替えているのだ。

キャスティングの妙で見せる映画である。


もうひとつ付け加えるなら、映画の後の主題歌がいい。
とてもいい。
完全にこの映画の一部となって、気になるその先の彼らの運命を、“余韻”として引き受けてくれている。

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