少し前に、縁あってCDをお貸しくださる方がいて、ワーグナーの「ニーベルングの指環」全曲を聴いたのだ。一緒に寺山修司さんが一巻目をお書きになったという翻訳書も一緒に貸していただいたので数週間にわたって少しづつ聴き進めていった。物語の壮大さに惹かれ、最初難解で、退屈にすら感じることがあった音楽も、最後が近くなってくると、その素晴らしさが心に届くようになってきて、他のオペラも聴いてみたいなと思うようになった。
このニーベルングの指環、実際の劇場では四日間にわたって上演されるという長大な作品で、CDも確か14枚組だったと思う。そういう作品なので、上演された作品をライブで録音することはあっても、全曲をスタジオで録音したものというのはあまりない。お借りしたCDもライブだった。また主に演奏されるドイツのバイロイトというワーグナー自身が作った劇場は、オーケストラが隠されているため音響的には録音の難しい環境で、音の良いスタジオ盤がないかなあ、と思っていたところに、そのCDを貸して下さった方が、ショルティのスタジオ盤が再発されるよ、と教えてくれたのだ。
届いたのを聴いてみると、一聴、やはりはっきりした音像。楽器の分離がよい音で、スタジオ録音のメリットが出ている。それぞれのメロディがはっきり聴こえるために、おそらく全幕で一番退屈な冒頭のライン川を描写するメロディさえも、ワーグナーの意図した複雑なメロディの交わりとして聴こえてくる。これはいい!
はやる気持ちを抑えきれずズルをして、一気に全幕で最も感動的な最も最終章近くの「ジークフリートの葬送曲」まで飛ばす。すごい!夜中で残念ながらヴォリュームは上げられなかったが、強いダイナミズムが聴こえてきた。
演奏自体はどちらかというとクールな印象で、ライブ録音の方が演者の高揚が伝わってくる。しかしこの楽曲は、どちらが良い演奏なのか、などという評価を拒絶するところがある。どう演奏してもワーグナーの音楽にしかならないし、どちらにしても相当な質量で聴者の心を叩く。むしろどこまでワーグナーの用意した音楽空間に身を委ねることができるかを問われる、これはそういう音楽なのだと思う。
例えば、剣を鍛え直す音や、雷の音など、舞台で実際に演者が鳴らす音を使わざるを得ないライブ録音と違って、スタジオ録音の場合は効果音は自由に足すことが出来る。このショルティの録音でも凝りに凝った効果音が聴けると聞いたことがある。こちらも楽しみにしたい。
0 件のコメント:
コメントを投稿