ジョン・ヴァーリイ
早川書房
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原発事故が起き、近隣に住んでいた者たちへの差別がはじまる。
論理的根拠ではなく、心象的な嫌悪感から生じる差別意識の問題は現代でもいろんな局面で見られる。
人種や国籍の問題は心の問題で、だからどんなに法整備をしても万全にはならないだろう。
『ブルークリスマス』という映画では、宇宙船からの光線照射で血が青くなってしまった人たちへの差別を描いていましたね。
『残像』の物語では放射能汚染に対する恐怖からの差別意識が描かれるが、それはこの国でも5年前に福島第一原発事故による風評被害と言うカタチで経験したばかりだ。
主人公がそんな差別の視線から逃げ、迷い込んだのは、視聴覚障害者だけで運営される村だった。
ヴァーリイは、そのような差別意識は目も見えず、耳も聴こえない人にも生じるのか、と問おうというのだ。
風疹の大流行で、聴覚・視覚に障害を持った子どもたちが大量に産まれ、その中のひとりが、政府が支払っていなかった彼らへの年金を全額引き出したことからその村は生まれた。
まとまった額の年金を集め、完全な自給自足の村を彼らは作り出した。
ボディタッチによる新しい言語体系を作り、繊細な移動ルールを作り、巧みに村を運営していた。
そこに差別を受け逃げ出した男が入り込んだのである。
物語は、淡々と進む。
ラストも一見、あっけない。
しかしこれには理由がある。
この村で産まれた子供たち(第二世代)には視聴覚に障害はない。
だから親世代の言語を超えたコミュニケーションを、通常の言葉によって補って物語の語り手になっていたのだ。
それが時間を経てコミュニティに同化していって、物語そのものが新しい価値観の中に漉き込まれていった。
それがあのラストだ。
その静謐で言葉を受け付けない情景は、ヴァーリイの代表作と呼ばれるにふさわしい美しさだと思う。
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