星籠(せいろ)の海に続く、御手洗潔シリーズの記念すべき50作目である。
僕はかなり依怙地な文庫派で、いくら世評の高い作品でも文庫化を待つ。
本自体の重さも苦痛だし、表紙が曲がらないのがページを繰るのになんとも不具合で、読書への没入を妨げるからであって、決して貧乏症だからではない。
そんな僕も島田荘司先生だけは別格で、出ればすぐ読みたいという気持ちが勝り、ハードカバーで買ってしまう。それに、島田作品だけは本がどんな体裁であろうとも読書への没入が妨げられるということはありえない。
あのリーダビリティはどこからくるのだろう。
もちろんその最大のキーは「謎の提示」にあると思う。
今回も、絶対に自殺などしそうもない者が次々と飛び降りてしまう不思議な屋上、という謎が提示される。
一見シンプルに視える「状況」に隠された真相が知りたくてページを捲る手が速まる。
また島田作品に描かれる市井の人々のリアルさも重要な要素だと思う。
不運のサイクルに組み敷かれ、もがいても這い出せない人たち。
組織の空気に組み込まれ、流されていく人たち。
僕たちもきっとそんな「道化」の一員だ。
どこかに身に覚えのある光景につい感情移入しながらまたページを捲る。
そんな人たちが織り成す「時代」という現象を、批判せず、擁護もせず、ルールよりも人間を見つめて、鮮やかに謎だけを解く御手洗という探偵の振る舞いに、ミステリーという文学ジャンルの大切な役割のようなものを読む度に感じさせられる。
『星籠の海』のような大作ではないが、むしろこの『屋上の道化たち』のような作品にこそ、御手洗潔の視線の温かさが感じられて僕は好きだ。
この単行本にはシリーズ50作目を記念して、御手洗潔シリーズ全作品ガイドが巻末に収録されている。この部分だけでも充分購入する価値があると思う。
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