2014年10月9日木曜日

アナログレコードが売れているんだそうで

イギリスERA (エンターテインメント小売業協会)が発表したデータによれば、今年1月〜9月末に購入されたアナログレコードは、844,122枚なんだそうで。これは2013年一年間に購入された829,243枚をすでに15,000枚近く上回った数字。

2014年のアナログレコード売上予測は、100万枚を超えると見込まれている。

世界的に見てもアメリカとイギリスのアナログレコード市場は活性化していて、アメリカの市場規模は1ー7月期が前年比40.4%も成長しているそうだ。

CDからダウンロードそしてストリーミングへ音楽の聴き方が変わりつつ中に、アナログレコードという選択肢が割り込んで復活してきた。
興味深い現象だと思いませんか。


基本的に人間にとってもっとも平等なものは「時間」
みんな同じ時間しか持っていない。

だからそれがなんであっても商材を売ろうという人は、その人の24時間に、他の商品を押しのけて入りこまなきゃいけない。
若い奴が本を読まなくなったと騒いでいた頃、台頭していたのがゲームだった。
NIntendoさんやら、NECさんやら、あとからSONYさんまでもが出てきて、人々から本を読む時間を奪うために躍起になっていた。
その時に、少なからず音楽を聴くための時間も奪われてたはずだ。

音楽商材の大規模サプライヤーだったSONYなんかは、自分の貴重な顧客資産を新しい事業にせっせと「振り替えていた」だけと、まあこういうことになるのかもしれない。


これに加えて、ライフスタイルの変化ってのもある。
そもそも近代化ってのは、人間の「個」化なのである。

大昔人はあんまり一人でいる時間はなかった。
貧しい人たちはもちろん大部屋しかない家に大家族で住んでいたし、王様だって、いくらお城が広くても、だいたいいつもそばにお付の者が控えているし、日本のお殿様もお風呂では人に体を洗わせていたと子供の頃聞いたことがある。
NHKのドキュメンタリーで、イギリス王家では、初夜の時に父王がそばで見守っていたと言っていた。

その後、近代市民革命や産業革命のお陰で、「個室」の文化が生まれてきた。
僕なんかの小さい時だってまだテレビは居間にでーんとあって、みんなでひとつの番組を観ていた。
チャンネル権は父性の象徴で、4年に一度のオリンピックの時に、ずっと観てきたバロム・1のよりによって最終回を観られなかった悔しさは今でも忘れられない。

中学生の時、自分の部屋にステレオが来た。ありがたいことに。
でももう少し前の世代では、ステレオが居間にでーんとあったんですよね。
そして、今はテレビが個室にあることが珍しく無い時代になった。


こうやってだんだん、いろんなものが「個室」のなかに分散していったわけですね。
装置が分散すれば「娯楽」そのものも分散する。

このことをさっきの24時間を取り合うという構図の中に当て嵌めてみると、たとえば、4人家族だったら、取り合うべき時間はそれぞれが個室に別れた分、4倍に増えて96時間になる。
しかしそのためにかけられる家計のコストは変わらない。
つまりひとつひとつの娯楽にかけられるコストは人数分の一になってしまう。
世の中そのものが豊かになっていった時代だったので、そのことに気付けなかったが、成長の時代が終わった今、そのことはエンタテインメント産業に深刻な影を落とし始めている。

音楽のディジタル化は、エンタテインメントの低コスト化の福音だった。
データ化されて、飛躍的に扱いやすくなった音楽という商材は、録音する、からコピーするに変わった。
最初のうちはレンタルしてきてMDにコピー。
そのうち一家に一台パーソナル・コンピュータ(ここにも個化が!)になって、iPodが出てきて、ファイル交換ソフトが出てきて、もうこれあっという間に、音楽に金かけてる奴は、頭悪いやつってことになっちゃったわけですね。
で、Youtubeがそれにトドメを刺した格好です。
そりゃ、売れん。
売れるわけがない。

この元凶を作ったのが、CD規格、通称RED BOOKを作ったオランダのフィリップスと我らが愛すべきSONYという構造。
だからこれはまあ半分くらい自業自得なんであって、なんにも大騒ぎすることはないんですな。
去年でしたか、ソニー・ミュージックに就職面接に来たやつが、音楽は好きですがCDは買ったことありませんと答えたとやらで騒ぎになりましたが、まあ真偽のほどは措くとしてそういう時代なわけです。

しかし音楽にお金をかけなくて済むのならかけない人、というのは音楽を趣味にしている人とは言えない。
だから、音楽というものが一般消費財になったこの時代の中で、音楽出版のディジタル化が招いたこの事態っていうのは、本当に音楽を趣味にしている人を可視化したとも言えるわけです。
無料で、かつカタチのないものに愛情を注ぐ、というのは難しいですからね。

そういう意味で、音が云々という次元を超えて、ようやく愛情の矛先を向ける先として、そうだアナログレコードがあったじゃないか、という認識がやっと広まってきたということではないかと思うんですね。

大きなジャケット。
音盤そのものがくるくる回っているのを眺めながら聴くというスタイル。
慎重に針を落としてスタートするという儀式性。

非常に趣味性が高いですよね。

日本のメジャーアーティストも新譜をアナログ併売するケースが明らかに増えてきました。
アナログファンには、楽しみな時代ですね。

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