2014年10月22日水曜日

四月は君の嘘(10)/新川直司

アニメのスタートが待ち遠しい「四月は君の嘘」の最新10巻が刊行された。


一つ目の見どころは相座武士の大復活。
曲はショパンのエチュードop10-12
練習曲作品10の第12番という意味。
作品10はカリスマステージピアニストから作曲家へ華麗な転身を遂げたフランツ・リストに敬意を表して捧げられたものだそうだ。

第12番は、「革命」というタイトルで知られるピアノ独奏の小品で、この革命というタイトルはフランツ・リストが命名したと言われている。
ポーランド革命の失敗で故郷ワルシャワが陥落したことを演奏旅行先で知ったショパンの動揺と失意を表現した曲、ということだろうと思う。

この曲はいい曲だと思う。
世の中にはショパンが大好きという人は多いので、こんなことを言うと怒られるかもしれないが、ショパンの曲の多くは僕にとって、美しいが「どうでもいい」と思わせる。
それでもフレデリック・ショパンには、いくつか非常に印象的な曲がある。
二つのピアノ協奏曲はどちらも大傑作だと思うし、晩年の幻想即興曲やノクターンの20番などは、深く胸に染み入ってくる本物の傑作と思う。
この「革命」もその傑作の一角に入る楽曲と言えるだろう。

ゆっくりと自分を蝕み続ける肺結核、故郷を失うという喪失感、多くの愛人たちとの複雑な関係。
このショパンの懊悩を相座武士は正面から受け止めて掘り下げていく。
ライバルたちが、作曲者の描いたキャンバスを自分の色で自由に染めなおしていくのに憧れや焦燥を感じながらも、あくまでも楽曲そのものが持つ精神を深く、どこまでも深く彫り直していく。
漫画から音は出てこないが、涙が出てきた。

実際には誰の演奏で聴けばいいだろう。
すぐに思いつくのは、有馬公生タイプのショパン解釈をするブーニンと、今回の相座武士のような正統解釈タイプのルイサダの対比だ。
ショパン国際ピアノコンクールで、ワルツop34-3を高速演奏するという不意打ちで優勝をさらったブーニンと、正統派の演奏で評価が高かった分、割りを食って5位に甘んじたルイサダ。
息の長い着実な演奏活動を今も続けていると聞くルイサダの方を入手してみようと思う。

革命のエチュード~プレイズ・ショパン
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この巻にはもうひとつの見どころがある。
それはやっと動き出した「幼なじみの恋」

幼なじみという言葉につきまとうこの切ない感じって何なんだろう。

ドラゴンクエストVは僕にとっての永遠のベスト1ゲームだが、それは中盤にある「結婚イベント」のせいだ。
幼いころ一緒に冒険をした幼なじみのビアンカと、この先の旅を続けていくために必要な船の持ち主のお嬢様フローラのどちらかを結婚相手に選ばなくてはならないのだ。
僕は何度もこのゲームをやっていて、今度こそフローラを選ぶぞと思って始めるのだが、いつもその場になるとビアンカを選んでしまう。

きっと小学校の頃近所に住んでいた幼なじみのハルカちゃんのせいなんだと思う。

近所に住んでいて、同い年で、親同士が仲がいいのに一向に一緒に遊ばない僕たちに、ある日、これ一緒に行っておいでと渡された「青少年科学館」のチケット。
僕は科学館が大好きだったので見事に釣られて、彼女と二人で出かけることにした。

田舎の狭い道幅の両端に別れて歩いて科学館に向かった。
それでも科学館はやっぱり楽しくて、二人でいろんなプログラムを見ているうちにすっかり意気投合して、帰り道でも夢中で話しながら歩いていた。
家の前で待っていた二人の母親の嬉しそうな顔を見て、我に返って、そして急に恥ずかしくなった。
それ以来偶然会っても、なにか殊更によそよそしく接している自分がいた。
そしてそんな自分がとても嫌だった。

幼なじみという言葉を聞くと、今でもなにか心に小さな刺をさされたような気持ちになる。
だから僕は椿の恋を応援したい。
椿の言った「あんたは、わたしと恋に落ちるべきなのよ」という言葉は無条件に正しいと思う。

しかしそうなるべきようには人生が動いていかないのもまた真理なんである。
あまりにリアルでいたたまれないぞ、この漫画。

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