所有しているのはカラヤン=ムターのグラモフォン盤。
端正なリズムを持つ、ドイツ的な演奏の一枚と思う。
ハーモニーは極めて整った形で提供され、全体を優雅さが貫いている。
その分、ヴァイオリニストのスポンテニアスなフレージングとの落差が曲への没頭を阻害する一面がある。
ムターは緩急のある演奏で、ウィーン・フィルの音の清流の中を泳ごうとするが、水の重みにあがいているように聴こえてしまう。
ところが、映画「オーケストラ!」で聴いたチャイコフスキーの闊達で饒舌な語り口はどうだ。
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ストーリーの展開上そうなっているのだが、オーケストラはヴァイオリンに導かれて協奏曲に導入されていく。
あくまでもヴァイオリンが提示したメロディにオーケストラが追随していく演奏が一楽章全体に貫かれている。
後半、ヴァイオリンとオーケストラが同じフレーズで呼応しあうところがあるが、まったく同じ質感で奏でられている。
カラヤン=ムターの盤では、ムターが突っ込んで弾いたフレーズをカラヤンが鷹揚に受け入れるという図式になっていて、聴いている方が冷静になってしまう。
映画のチャイコフスキーは、後半に向けてぐんぐんスピードが上がっていき、最後の和音が奏でられたとき、それが映画とわかっていても立ち上がって拍手をしたくなる。
しかしそれだって、ヴァイオリニストを演じたメラニー・ロランの美しさのせいでないと、はっきりとは言い切れる人はいないだろう。
この映画のために、フランス国立オーケストラのサラ・ネムタネを招いて二ヶ月間の特訓をしたそうだ。
その美貌と、役作りへの情熱があの奇跡のラストシーンを作り出したことは間違いないと思う。
オペラは、映像付きのDVDで観るべきか、音楽だけで楽しむべきかという議論があり、楽劇の歌手は俳優ではなく、あくまでも歌の出来でキャストされるものだし、ましてや役作りのためにダイエットをしたりしないわけだから、音だけ聴いても充分楽しめるものでなくてはならない、というのが大方の見方である。
しかし、このような優れた音楽映画を観ると、楽曲理解の入り口として映像の説得力は大きな味方になりえると感じる。
こうなると、躍動感のあるチャイコフスキーを探してみたくなる。
現代の指揮者は昔のマエストロと呼ばれる人に較べると一般にテンポが速い。
これを指して、クラシック音楽を古くから愛好する人たちの間で、最近はいい指揮者がいないという言説が流行することになるわけだが、これはクラシックに限ったことではない。
ポップミュージックにおいてもここ10年位でBPM(Beats Per Minute)は平均的に10くらい上がっていて、音楽全体の高速化が始まっているようだ。
せわしない時代ということだろうか。
クラシック指揮者ではパーヴォ・ヤルヴィという指揮者が「表情豊か」という前評判を裏切る高速ベートーヴェンを近年録音している。
2015年からN響の首席指揮者に就任する予定とのことで、もしかしたら演奏に触れる機会もあるかもしれない。
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