2014年10月8日水曜日

ジャズ・レジェンドへのオマージュに溢れた快作:アントニオ・サンチェス「スリー・タイムス・スリー」

ジャズに関して言えば、毎月のように過去の名盤が1000円ほどで復刻発売され、熱心なジャズリスナーでなければ、評価の定まった名盤だけ聴いていれば良く、新作のジャズを聴く必要はほぼ全面的にないと言える。

それでも例えば、上原ひろみのように無条件に人を惹きつける魅力のあるアーティストが現れたり、キース・ジャレットのような生けるジャス・レジェンドが新作を出したりすれば、CDなどの音源が売れる。しかしその市場はあまりにも小さく、現役で活躍するジャズ・ミュージシャンたちが世に出てくる道はあまりにも狭い。

だからこそ、音楽出版社は良い音楽を世に問う責任があると思うが、もしブラッド・メルドーが参加していなければこの凄い盤だってきっと見逃していただろう。
アントニオ・サンチェスの「スリー・タイムス・スリー」


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面白い趣向の盤だ。
説明不要のピアノレジェンド、ブラッド・メルドーと3曲、もはや伝説のギタリストと言っていいでしょうジョン・スコフィールドと3曲、テナー界のエリック・ドルフィーと言ってしまいたいラヴァーノ・パティトゥッチと3曲という豪華共演企画。


で、それぞれのユニットで一曲づつカバーを試みているのですが、これが洒落てる。
まずメルドーとやったのが、エヴァンスの「ナルディス」
普通に考えればこれはやっちゃいけない曲ですよ。


もとはキャノンボール・アダレイのためにマイルス・デイヴィスが書いた曲で、そのレコーディング・セッションで一緒だったエヴァンスが気に入って生涯弾き続けた曲。

パリ・コンサート 2
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録音する度に長くなり、アドリブ部では最後のあたりちょっと軽い狂気みたいなものを感じるまでにエヴァンスの存在と一体化していった曲。
この曲からはエヴァンスの肉体を分離することはできない。
誰が弾いてもテーマをなぞるだけ、になるはずだった。

事実、エディ・ヒギンズが、 日本のファンに「エディ・ヒギンズに弾いて欲しい曲」を投票してもらってスタンダード・アルバムを作ろうっていう企画をやった時、あろうことかかなり上位に「ナルディス」が入っちゃって、ジャズ評論家が、これはさすがに日本のジャズファンの見識を疑うと、ライナーノーツで異例の疑義を表明したという逸話があるくらいだ。

しかし、さすがはメルドー。
あの印象的なテーマさえ、メルドーの作品としか思えぬ仕上がりになっていた。
山下達郎がよく言っている、「他人の歌が歌えない人は歌手とはいえない」という言葉を思い出すが、それにしても相手が「ナルディス」となれば並大抵のことではない。
お見事です。


次のジョン・スコフィールドへのお題は「フォール」
マイルス・デイヴィスの「ネフェルティティ」に収録されている。ジョニ・ミッチェルが無人島に行くとき持っていく一枚に指定している名盤だが、この曲はウェイン・ショーターの作曲で、マイルスは実は演奏にも参加していない。しかしどこから聴いてもマイルスの曲にしか聴こえないという、ある意味マイルス・デイヴィスのミュージシャンシップが肉体性を乗り越えていることの証明でもある曲なのだ。

Nefertiti
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このマイルスの肉体性を凌駕したミュージシャンシップを、マイルスと長年プレイしたジョンスコに再現してみせよ、とのアントニオ・サンチェスの挑戦状と僕はみた。
あえて北海道弁でいうが、これはゆるくないよ(大変だよ)。

で、ここをいつものウネウネギターで、ひょうひょうとフュージョン風に切り抜けちゃうのがジョンスコなんですな。
むしろ、ショーターへのリスペクトあふれるエールに仕上げてる。こういうふうにやりたかったんじゃないの?ってね。


さて、最後のパティトゥッチには、セロニアス・モンクの「アイ・ミーン・ユー」が委ねられた。
「5 by Monk by 5」というシンメトリーなタイトルのアルバムに収録されている。

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村上春樹が若い時に、新宿のレコード屋さんで、レッド・ガーランドのレコードを買おうとしたら「そんなもの若いうちから聴いてどうする。これを聴け」と言って買わされた、というエピソードが有名な一枚だ。

このアルバムのタイトルも「スリー・タイムス・スリー」でシンメトリーになっているので、そこに由来する選曲だろうと思うが、僕は、アントニオ・サンチェスが、幻に終わったエリック・ドルフィーとセロニアス・モンクのセッションを再現しようと目論んだのではないかと睨んでいる。
生前、モンクとの共演を強く望み、「モンクほどのミュージシャンと演奏するなら、もっと練習しなくちゃ」と言っていたというドルフィーだが、叶わぬままベルリンで客死した。

その無念を晴らすかのような豪快なドルフィー・マナーのフリージャズなブロウ!しかしパティトゥッチは、そこに繊細で美しいメロディを接続して楽曲を単なるフリージャズ以上のものに仕立てている。
まるで、ジャズを新しいステージに推し進めた二人の巨匠に、僕らもジャズの進化の歩みを止めてはいませんよ、と宣言しているかのようだ。


見事な企画盤である。
アントニオ・サンチェスのジャズ愛がひしひしと感じられる。
ジャズは、その黄金時代の音楽資産の上に、大きな城を建てようとしているのかもしれない。
まだしばらくはジャズは死なない。
そう確信させるアルバムである。

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