アニメ版の放送も間近にせまり、最新刊10巻の発売に併せて、新川直司先生の前作「さよならフットボール」も新装にて復刻となった。
めでたい。
全二巻というコンパクトなサイズを疾走する物語が心地よい、再評価されるべき作品と思う。
新川 直司
講談社 (2014-10-17)
講談社 (2014-10-17)
新川 直司
講談社 (2014-10-17)
講談社 (2014-10-17)
天才的なボールさばきを見せる女子中学生、恩田希。
彼女は女子サッカーチームの無い環境で、男子に混じって練習している。
しかし、成長していくにつれ体格差は歴然となる。
幼いころのチームメイトにフィジカルに劣る女の子が男に勝てるはずがない、という一言に反発し、一計を案じて試合にもぐりこんで・・というお話。
一見よくある話だ。
力の劣る側が威張り腐った強者に、頭脳プレーで一矢報いるというのがこの類型の常道で、この物語もその展開を踏襲しているが、胸に残るのは一矢報いたことの爽快さではなかった。
「フィジカルはフットボールのすべてではない」
彼女の信念は試合の中で徐々に崩れていく。
当たり負けをテクニックでカバーできない。
今まで女の子の自分に周りのみんなが<手加減>していたことに気付く。
ボロボロになって倒れてしまった彼女を、チームメイトやライバルまでもが心配そうに見つめているのに気付いた時、やっと、自分が一番<フィジカル>にとらわれていたことを知るのだ。
恩田希自身がそれを認め、すべてを自分のこととして受け止めた時、チームはひとつとなりボールは躍動を始めた。
人間というのはなんて優しい生き物か。
心の一番奥では、敵も味方も、男も女もないのだ。
そして、なんと複雑な矛盾を抱えた生き物であることか。
死力を尽くした闘った果てにこそ、理解があるとは。
闘い終わった後に、人は闘っていた相手が実は自分であったと知る。
<理解>はいつも自分に返ってくる。
作者のその人間への優しい視線が、この物語を凡百のジャイアントキリング・ストーリーとは一線を画すものにしている。
僕はそう思う。
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