2013年11月5日火曜日

toi8「サカサマのパテマ another side」:困った顔をしてみるのも時にはいい

toi8という漫画家さんをご存知だろうか。
といはち、と読むのだと思う。その昔「問8」と名乗っておられたこともあるそうだから。

あさのあつこさんのNo.6がアニメ化された時のキャラクター設定の絵が、今どきのすっきりした線じゃなくて、やわらかい鉛筆の質感を残したままのタッチがいいなあ、と思っていた。

鶴田謙二さんの絵を見るといつも、人の手で描き込まれた絵が放射するエネルギーのようなものをいつまでも感じていたくて、ずっと眺めてしまうが、同じようないい意味での粗さがtoi8さんの絵にはあると思う。

表紙絵などのお仕事が多い作家さんだが、ひさしぶりの漫画作品が出版されたので早速読んでみた。

「サカサマのパテマ another side」
アニメ映画「サカサマのパテマ」のスピンアウト作品だそうだ。


こういうのを「大人の絵本」っていうんじゃないのかなあ。
ひとつの場にいる二人の人間に、異なる方向からの重力が特定的に働くことは物理法則では考えられないのに、この絵で見せられるとすっと得心がいく。

それにしてもこういう「表情で読ませる」漫画が少なくなったなあ、と思う。
特にこの漫画の「困った顔」がいい。

僕は昔会社員だった頃、すごく困ったことがあって、上司に「お客様にこう言われたんですけど、どうしたらいいですか」と聞いて「困ったんだろ?なら困った顔をすればいいよ」と言われたことがある。

なんかもう目の前がぱあっと開けたような気がしたよ。
実際これは効果覿面だった。
そうりゃそうだ。
それだけが掛け値なしの真実なんだから。

その時は、状況を前に進める力がなくて困った顔をするばかりの僕に代わって、状況を決定する権利を持つお客様自身が事態を収拾してくださった。
嘘をついたり、出来ないことを約束するより百倍よかったと思う。

でも今そういうことをいう人もやる人もいなくなったんじゃないかな。
きっと世の中全体が、「成功」を目指すロジックに切り取られすぎてるんだろう。

でもさ、人間の想像力はこんなに豊かだ。
この漫画のページを1ページめくるだけで、本当の正しさって「方向」の中にはないんだよ、と簡単にわかる。
確かに実際にそうやって生きていくのは難しい。
いろんな考え方の人がいて、自分だけ自分らしくってわけにはいかないから。

そんな時の救いが、鶴田謙二さんやtoi8さんが描く「困った顔」だと僕は思う。


本当に困った時のために、この漫画を読んで困った顔の練習をしてみると、それだけで少し楽になれるような気がする。

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