2013年11月20日水曜日

ビル・エヴァンズの左手

Bill Evansが好きだ。
もちろん彼の名義のピアノ・トリオもいいが、誰かのバックに回った時のEvansの凄みのある「間」が好きだ。

Miles DavisのKind of Blueというアルバムをかける時僕はいつも、フレーズのテンションが落ちてきたのを見計らって、バッキングのコードの内声部を動かしていくEvansのピアノを息を詰めて「見つめ」ている。

フルート奏者のジェレミー・スタイグとの共演盤のエヴァンスも切れている。
ただでさえ表情豊かな楽器であるフルートの後ろで、タイミングと和音の妙味で一聴わからないように静かな狂気を奏でている。

そういう名伴奏者としての彼を愛好している僕は、だからEvansが何枚か残したソロピアノの有名盤は敬遠していたところがある。
特に右手でスタンウェイ・ピアノ、左手でフェンダー・ローズ・エレクトリック・ピアノを弾いているFrom Left to Rightというアルバムは色物だと思い込んでいて聴いたことがなかった。

ところが先日飲食店業界の先輩がこれいいらしいですよ、と教えてくれたチャーリー・マリアーノのアダージョというCDを探しにタワレコに出かけた時のこと。

行ってみると件のCDはすでに廃盤だったが、せっかく来たし、ついでにそろそろ店のBGMも少し入れ替えるかと、ジャズのコーナーを歩いていると、なんか棚の目立つところに置かれた「From Left to Right」が僕を呼んでるんだなあ。

特に他に欲しいものもなかったので、こいつを家に連れて帰った。
EU盤でデジパック仕様。
無造作に貼られたシールがいい味を出している、と思う。


聴かず嫌い、本当にごめん。
名盤でした、これ。

そこここに入っている切なげなストリングス。
ころころころ、と転がるようないつものEvans節が、エレクトリック・ピアノではルルルルルル、と少し表情を変えて聴こえる。
そしてスタンウェイで奏でられる、いつもの言葉少ななバッキングが素晴らしい。
全体にセンチメンタルなムードが支配する楽曲を、時々左手のスタンウェイが狂気を帯びた和音で切り裂いていく。
ソロピアノではあっても、自身の伴奏をするときのエヴァンスの左手はやはり凄い。

アート・テイタムの左手の音をきちんと聴き分けたくてオーディオ道に堕ちた人もたくさんいると聞く。
ピアニストの左手には魔術的な何かがあるのかもしれない。


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