2013年11月9日土曜日

歌野晶午「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」:この密室、成立してますか

島田荘司先生の大ファンだった僕は、「長い家の殺人」という作品を島田荘司先生に大絶賛されてデビューした歌野晶午さんという作家の名前は、だからもちろん知っていた。
その時どう思ったのか記憶がないし、他の作品を読み進めていないところを見ると、あまり感心しなかったのかもしれない。

しばらくして、「葉桜の頃に君を想うということ」というなかなか詩情あふれるタイトル(ここにも筆者の企みがこめられているのだが)の作品で日本推理作家協会賞を受賞したと聞いて、これまたなかなかセンスの良い装丁の単行本を購入して読んでみた。



筆者の企みに見事に騙されたことに気付いた時、あまりにも鮮やかに騙されたからだろうか、腹が立って腹が立って、逆にこのタイプのミステリが嫌いになってしまった。


このところ日本の本格ミステリに食指が動かなくて、島田荘司先生の旧刊を読み直す日々だった僕に、ミステリ評論を手がけている友人が、「今、日本の本格というならこれを読まなきゃ」と薦めてくれたのが歌野晶午の「密室殺人ゲーム」シリーズだった。
彼のオススメにハズレはない。今のところ。
でも、歌野晶午はなあ・・とためらいながらも、一作目の「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」を読んでみた。



これは面白い!
ネットで知り合ったミステリ・フリークスが実際に殺人を実行しそれを素材に探偵ごっこをするという趣向で、殺人者はわかっているからアリバイ崩しや密室のトリックを解くことになる。
何より動機が「推理ゲームのため」というある種の純粋性を持っているため、事件に人間性が絡んでこない。だから純粋な謎解きになる。
そのかわり、そのインモラルなゲームそのものから人間性が描かれていく。
二重三重に企みが塗り固められ、「葉桜」の時には嫌悪感しか抱けなかった歌野ミステリの特質に深く感心した。


だがひとつ。119ページの密室、僕は成立していないように思った。
これが成立していなくても物語の進行にはいささかも傷は付かないので、構わないといえば構わないのだが、どうも気になる。

この金具、あおり止めというらしいのだが、これが内側からかかっていたということが密室の構成要素の一つになっている。
「氷を使って、溶けたらかかるようにするっていう古典的トリックじゃないだろうね」「正解!」「正解かよ」みたいなやりとりなのだが、僕にはこの仕掛けはドアの内側からしか施せないし、施したらそのドアからは出ていけないと思うのだ。
誰か、この氷の古典的トリックの詳細を知っている人がいたらぜひ教えて欲しい。




(追記:幽かな、そして致命的でないネタバレ含む)

皆様から、棒の方を氷を使ってドアに斜めに固定しておく方法で可能、とのご教授を複数頂戴いたしました。
確かにそれがこの密室時限装置の基本的な考え方ですよね。
でも今回の件、「ドライアイス」使ったって書いてあるんだよなあ。
そんなふうに固定できるのかなあ、とちょっと未だ釈然としないのですが、「なんとかうまいことやった」と考えて忘れることにしました。
お騒がせして申し訳ないです。

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