原作は中国系アメリカ人SF作家テッド・チャンの『あなたの人生の物語』で、同名の短編集に収録されています。
なかなか歯応えのある作風で、映画になると聞いた時は、あそこはどうやって映像化するんだろうと期待をしながらも、安易な改変をしてくれなければいいが、と少しだけ不安も感じました。
結果、その心配は「ほぼ」杞憂でした。
そうでなくても短編小説を映画にする際は、尺を合わせるためにけっこうな改変をするのが常ですが、本作では思ったほど大きな要素追加もなく、うまく映像化されていたと思います。
しかし「ほぼ」という保留付きにしたのはある重要な欠落があるからです。
異星人である「ヘプタポッド」が未来のことを語るのは、未来を予め決定していることとして知っているのであって、未来を予知しているのではない、という設定がそれです。
いったいどう違うのよ、それ、という話でしょうが、僕的には、その違いをパートナーである物理学者のイアンがフェルマーの最大限定理を使って証明するシーンが、このSF小説のサイエンス面でのクライマックスだったと思うんですよね。
だって、この科学的発見が、二人の学者の距離を決定的に縮めたのです。
科学が育んだ愛なんて、これぞSF小説の醍醐味じゃないですか。
僕は読んでて、本当に興奮しましたよ。
だからそのシーンがなかったのには少しガッカリしました。
それに、そもそもこの設定は、彼らの言語体系に影響を与えていて、だからこそ解析を担当した言語学者に未来のビジョンを見せることになるのです。
映画だけを観た人、なぜあのビジョンが見えるのか不思議に思ったんじゃないかなあ、とおせっかいにも考えてしまいました。
物語そのものはわりとトラディショナルな「ファースト・コンタクト」もので、宇宙船が飛来してなかなかコンタクトがとれないところなんか、クラークの古典的名作『幼年期の終わり』を思わせるところがあります。
光文社 (2014-08-08)
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『幼年期の終わり』は三島由紀夫も大絶賛した作品らしく、彼のSF的な部分を集大成した『美しい星』の映画化と公開の時期が重なったことにも縁のようなものを感じますね。
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