クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングという長い名前のグループ名も苦もなく覚えられた少年時代の柔らかい心には、どこのグループに入ってもその強い個性で音楽的な「和」を乱すニール・ヤングというアーティストは、いったいどんな音楽を作る人なんだろう、さぞや激しい音楽なんだろうなと想像されたが、80年代への変わり目のその頃、ニール・ヤングにヒット曲は無く、釧路に一局しかないFM局から流れてきた「Tell Me Why」は、なんとも優しくて儚げな歌だった。
大学に進学して札幌で一人暮らしを始めた頃、大好きでよく読んでいた「LIVE! オデッセイ」というロック漫画で主人公のバンドが長い放浪を経て再結成をする時「あれをやろう。永遠の名曲だ」というボーカリストの一言でみなが頷いて演奏を始めた曲がニール・ヤングの「Like a Harricane」だった。
その漫画での表現は、かつて聴いた「Tell Me Why」とはまったく異なる音楽のそれで、髪を振り乱し汗を飛び散らせながら歌われていたこの「Like a Hurricane」という曲こそが、僕が昔イメージしていたニール・ヤングの音楽なのかもしれないと思うと、もう聴いてみたくて、いてもたってもいられなかったが、その頃バイトしていた貸しレコード店にはその曲の入ったレコードは置いていなかった。
インターネットすらないその時代、僕らはわりに諦めと物分かりのよい消費マナーを身につけていたようだ。それ以上手を尽くすことなくニール・ヤングについてはそのままにしておいた。
会社に入って東京に出て、渋谷のタワーレコードでニール・ヤングの二枚組のライブ盤を買った。クレイジー・ホースと演奏している「Like a Hurricane」は、やはりイメージとは違って音こそ歪んでラウドなトーンだったが、メロデイはあくまで美しく、声はやはり優しかった。
Tell Me WhyとLike a Hurricaneというまったく異なる手触りの音楽を、どうしようもなく唯一無二の存在感で演奏してしまうことが、ニール・ヤングというアーティストの本質なんだと気がついた。
そしてそれは、音楽という肉体性を伴う芸術のコアだ。
レコーデッド・メディアに封じ込めるべきものが何なのか、ニール・ヤングにはきっとわかっているのだと思う。
2006年に会社を辞めた時、毎日オーディオ店を廻っていた。
どこに行っても「で、ジャズを聴くんですか、クラシックを聴くんですか」と訊かれることに辟易していた。
最初は「いえ、音楽を」と皮肉を込めて答えていたが、そんなニュアンスはもとからまったく通じない人たちなんだとわかったので、「ニール・ヤングを」と答えると、今度はまじめに取り合ってくれなくなった。
ジャンルとか年代とか、そういうものを超えて「表現されてしまう個」のようなものを感じ取れるオーディオを、だから僕は独力で探し当てようとしていた。
そしてそういう時、もっとも優れた被写体はやはりニール・ヤングだった。
近年、発表されているニール・ヤングのライブ・アーカイブはその意味で実に興味深い。
今朝はそのアーカイブの中の一作、「ライブ・アット・セラードア」を聴く。
全編弾き語りのこのライブで歌われる、どちらかと言うとライク・ア・ハリケーン系の楽曲である「シナモン・ガール」が好きだ。
バンド・サウンドで装飾されない剥き出しの歌の裏側に、ニール・ヤングのロックサイドがより明確に浮かんでくる。
シンプルなレーベルがとてもカッコいい。レコードを現役のメディアと捉えているニール・ヤングらしいデザインだと思う。
Neil Young
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