2019年3月21日木曜日

アイルランドにご用心:コニー・ウィリス『クロストーク』

街に出れば必ず、大きな書店に寄るようにしている。
基本的に文庫の新刊をチェックするだけだが、その日はたまたま気まぐれに単行本のコーナーに立ち寄り、コニー・ウィリスの新刊が出ているのを見つけてしまった。


それでもいつもなら、文庫を待とうと立ち去るところだが、このポップな装丁がどうしてもそれを許さなかった。
まことに所有欲をくすぐる装丁で、もう読み始める前からワクワクしていた。
そのせいだろうか。
もしかしたらウィリス作品で初めてラブ要素に萌えたかもしれない。

それにしても電車でこの本を読んでいる間中、もしかして僕の考えていることを、周囲にいる乗客に本当に覗かれていたらどうしよう、という考えに取り憑かれ、落ち着いて読めないのは実に困った。アイルランドには近づかないことにしよう。



クロストーク (新・ハヤカワ・SF・シリーズ)
コニー・ウィリス
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2019年1月4日金曜日

こんなに捻ったのに正統派な大傑作:『カササギ殺人事件』の構成の妙

ミステリー評論家の友人が新聞のコラムで勧めていたアンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』を読了した。

まあ帯に書いてある通りの内容なんだが、これがよく出来てる。
クリスティのオマージュに関して言えば、作中作において平凡な村人たちそれぞれが抱える「事情」が次々と明かされ、それがまた別段突飛な事情でもないのに充分殺意の根元になり得るもので、それゆえ事件の様相がどんどん複雑なものになっていく過程にその特質が現れている。だからこそこの作中作は情報革命以前の田舎社会を舞台とする必要があった。

さて凡庸な作家ならば、本編であるイギリス出版業界ミステリの部分では、現代を舞台にしているがゆえの情報入手のスピード感を対比的に使うだろうと思うが、本作では編集者という素人探偵を謎解き役に配して、意図的にそのスピードを上げないようにしている。
この構成の妙が現代に起きている事件を軽くせず、ミステリ作品としての重厚さを担保しているのだろう。

構成といえばラストに配置された・・
いやこれは実際に読んでいただいた方がいいだろう。
どのみちミステリファンならばこの作品を避けて通ることはできないはずだから。

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)
アンソニー・ホロヴィッツ
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2019年1月2日水曜日

エリック・クラプトン『12小節の人生』を観るべき本当の理由

エリック・クラプトンの映画「12小節の人生」を観てきた。


上映は、かつて若い頃よく通ったスガイビル。現在はライザップの所有となりディノスと、その名を変えたが、2年後にここも取り壊され、総合商業施設になるんだそうだ。
ちょっとセンチな気持ちで映画館に足を運んだ。


クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」と較べてしまえば、クラプトンファンの贔屓の引き倒しで言ったって、これは間違っても「面白い映画」とは言えないだろう。
しかし、それでいいのだ。

「ボヘミアン・ラプソディー」が映画という表現手法を通じて、音楽の素晴らしさを伝えた映画だとするなら、「12小節の人生」は、あくまでもドキュメンタリーの視点で、エリック・クラプトンという人間の「わからなさ」を描いたものだからだ。

育ての母である祖母からみたクラプトンの幼少期と、自身の見解の食い違い。
周囲の語るシャイという人物像と、実際の女性遍歴とのギャップ。
自伝に書かれたバンド漂流の経緯と関係者の語るエピソードの相違。
もう普通にわからないのである。


わからなさ、という視点で驚いたのはエリックの絵の上手さで、学校もアートスクールに進学している。
朝から晩までギターばかり弾いてたってみんな言ってるのに、絵も描いてたっていうね。
現在グラビアを追加して再販売されている自伝は、この学生時代のイラストレーションも追加収録されているので、ぜひ見てみて欲しい。

エリック・クラプトン自叙伝
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...と、もっともらしいことを書いてきたけど、本当に言いたかったのはこんな事じゃないんだ。
中学の頃からクラプトンの音楽が好きでずっと追いかけてきて、もちろんレイラも大好きで、だからそれがジョージ・ハリソンの妻パティ・ボイドへの横恋慕からできた歌だと知った。
そのジョージとパティの出会いが、ビートルズ映画への出演であることを知って、ほんの一瞬しか映っていない彼女を目を皿のようにして探したりしてるうちにすっかりパティ・ボイドに取り憑かれてしまった。



モデル出身のパティの写真は比較的簡単に手に入る(それでもポスターのようなものはほとんど入手できない)が、映像となると話は変わってくる。
それがこの映画では、クラプトンを狂わせた若き日の彼女の美貌が、最高の編集で拝めるのですよ!

それだけでこの映画は値千金。
需要があるかは知らんが、ファンは映画館に急ごう。


2018年12月9日日曜日

平成のエラリー・クイーンは健在でありました。

平成のエラリー・クイーンとまで呼ばれた青崎有吾のデビュー作『体育館の殺人』は、その呼び名に恥じぬ傑作ではあったが、頻繁に引用される賞味期限の短いサブカルネタが気になったものだった。

平成のエラリー・クイーンとサブカルチャーの賞味期限~「体育館の殺人」青崎有吾

その後、このシリーズが続刊されているのは知っていたのだが、なんとなく手が伸びずにいたが、思いがけず出先で時間があいて、飛び込んだ書店に食指の伸びる本が見当たらず、青崎の短篇集『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』が目についたので買ってみた。

相変わらずのサブカルネタ引用が多いが、今回はわかっているので気にならない。
もともと探偵役の少年の性格描写以外には引用そのものには大した意味がなかったのだ。それなら気にならないように書けばいいだけの話で、どんどん書き方もうまくなってるんだろう。

作品そのものも面白かったんだが、デビュー作『体育館の殺人』と、この短篇集の間には『水族館の殺人』が発刊されており、どうやら登場人物たちの過去についての記述があることがわかって、むしろそこが気になる。
シリーズもののミステリで登場人物の過去が気になるってのは、人物が書けているってことなんだろう。
それにその恋、どうなるのよ、ってのも気になるよね。

こりゃシリーズ追いかけるか、と思い直すきっかけになった。
というわけで、『水族館』とシリーズ最新刊にあたる『図書館の殺人』を一気読みしたのだった。

実は『水族館』を読み渋っていたのにはある訳があった。
帯に「今度は容疑者が11人」と書いてあったのだ。
告白すると、エラリー・クイーンの少しクドすぎる推理描写が僕は苦手なのだ。
読者への挑戦、フェアプレイのエラリーだからしょうがないんだが、ちょっとアレ、メンドくさいよね?

しかし今回読んでみて、平成のエラリー・クイーンはたいしたもんだ、丁寧に謎解きの道筋を書き込んでいるが、ちっとも面倒な感じがなかった。
いいね。

そして最新刊の『図書館の殺人』は、過去最大のボリュームを費やして、わりと大掛かりな殺人事件を構成してみせた意欲作となった。
謎解きも、天才的な洞察を見せながらも、だからこそ真相にたどり着く道筋が平坦でなく、悩み、発見していく過程が共有され、面白い。

現在は違うシリーズも手がけ始めたようだが、あの恋の行方も過去のいきさつもヒッジョーに気になるので、続刊を期待しております。

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2018年11月25日日曜日

佐野元春 2018禅BEATツアー最終公演、Zepp札幌に行ってきた!

行ってきましたよ。
佐野元春 2018禅BEATツアー最終公演、Zepp札幌に!

思い返せば、会社を辞めて札幌に帰ってきた2007年の教育文化会館。
もう声が出なくなっていたはずの元春が、ロックンロール・ナイトで驚異のシャウトを聴かせてくれたあの日から、彼の札幌ライブには毎回奇跡が起きていた。

今回の目玉はなんといっても藤田顕!
前回参戦したのは2015年の『35周年記念ツアー』で、ギターは深沼元昭一人だった(長田進が参加予定だったが、来なかった)から、初生藤田顕でした。

いやー、まいった。
際立った長身で細身の体でピョンピョン跳ねながら、大きなアクションでノリノリのカッティングを聴かせたかと思ったら、そのアクションのまま音数の多い激しいソロを弾きこなす。
アームとエフェクトを使ったトリッキーなプレイもカッコいい。
もう彼のプレイから目が離せない。
これがコヨーテバンドの本当の音か!
すごいギタリストがいたもんだ。
このギターを聴くためなら毎回ライブに参戦したいと思わせる出来でした。

今回のツアーでは、あくまでもコヨーテバンドで作ってきた楽曲が中心で、最後の方に少し古い曲が配置されている程度。
で、コヨーテバンドの音はやっぱりドラムス小松シゲルのリズムが鍵を握ってるんですな。
古田たかしとも小田原豊とも違う、沈み込むようなリズム。
そこに突然曲を爆発させるような激しいフィルを叩き込む感じ。
静と動の共存する不思議なドラムに、今日は何度もハッとさせられました。

ラスト近くに数曲昔の曲をやったけど、小松シゲルのドラムだとやはり記憶にある音像と少し違うんですよね。
ハートランド・バージョンの『インディビジュアリスト』がバッチリハマってたけど他の曲はちょっと違和感があって乗りきれなかったかな。
しかしラストの『アンジェリーナ』は元春自身のギターが先導して、さすがの盛り上がりでした。
やはりデビュー曲ってのは特別ですね。

今回の禅BEATツアーは、会場にちらほらと若い人たちの姿が見られました。
マニジュアルバムのマーケティングに工夫を凝らした結果なんでしょう。
我々中年ファンにとっても、これは嬉しい変化ではあります。
来年は40周年になる佐野元春。
おそらくオールタイム・ベスト的なコンサートも企画されるでしょう。
ここで獲得した若いファン層に、その魅力をぜひ見せてあげて欲しいと思います。
もちろん僕もとても楽しみにしています。

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映画『いぬやしき』を救った、二階堂ふみの存在感を写真で振り返ってみる

原作未読ですが、映画館で観た予告編が面白そうだったので、佐藤健、木梨憲武主演の『いぬやしき』をDVDで借りてきました。

いろんな意味でそこそこな出来の映画ではありましたが、だからこそ渡辺しおん役の二階堂ふみの存在感が映えるわけであります。

クラスの片隅にいる、大人しく目立たない娘、の設定を見事に演じながらも、この存在感ですわ。
ほとんど顔が見えないようなカットが多いのですが、どうやってこの存在感を演技しているのでしょうか。

獅子神への告白のシーンでも、別に可愛らしい表情は見せませんが、「ずっと前から、すきでした」の語尾の「た」を持ち上げて、「これ言っていいこと(または、とこ)だった?」のニュアンスを加えたところに震えましたな。


 笑顔に至っては、たぶんこの横顔のカットだけ。


しかしだからこそ、決定的に印象に残るのです。
そしてこれね。


なんかもう説明いらないね。
この娘を失ったら、そりゃ全国民滅ぼしたろか、という気にもなりますわ。
うん、獅子神は悪くないと思うよ。




竹内まりやさんの40周年記念映画を観てきたよ

竹内まりやさんのデビュー40周年を記念して制作された映画を、公開初日の今日観てきましたよ。
いやー、本当に素晴らしかった!

『SEPTEMBER』のリードフレーズ「辛子色のシャツ、追いかけて」を聴いて以来、僕はずっと辛子色のシャツを着こなせる自分を夢見ていたのです。
でもそんな男になれずじまいでごめんなさい、と岡村靖幸のフレーズを心でリフレインしながら今日の映画を観ていました。

それにしてもこの山下達郎の存在感は何なんでしょうか。
バックグラウンド・ボーカルで世界観を示してしまうなんて。

それも含め、もう少し大きな音で上映してくれてもいいくらいだったかなあ。
それでも映画館の音響でまりやさんの歌を聴いていると、彼女の歌に時折にじみ出る、人生をナチュラルに、そしてポジティブに生きていくことの素敵さが、むしろそのように生きられなかった瞬間の多かった自分のこれまでを否応なく振り返 らされる羽目になり、感動と悔悟の入り混じった涙が後から後から流れてきて、真っ赤な目でエンドロールを観終えたのでした。

音楽を映画館で観る(聴く)と、たいていそれは特別な経験になって、だから今回も迷わずパンフレットを買い求めたが、お値段何と3500円。映画も特別上映で2800円だったから、今日は相当まりやさんに貢いだことになるが、まったく後悔はないです。


なにしろこのパンフレット70ページ以上あって、まりやさんの若いころの写真にも4ページを割いてかなり収録されてます。
子供の頃密かに憧れてたご同輩の皆様には大変オススメの一冊であります。

2018年10月29日月曜日

村治佳織の新作『CINEMA』はグッとボリュームを上げて聴こう

みんな大好き村治佳織さんの新譜は、映画音楽特集。


ありがちな企画ではあるが、ネタに詰まってやったわけじゃない。
舌腫瘍での長期休業からの復帰作が、吉永小百合の強い希望で自らが企画・主演した映画『ふしぎな岬の物語』のサウンドトラックだったのである。
出世作でもある『カヴァティーナ』も『ディア・ハンター』のテーマ曲であったことを考え合わせると、自身の転機になる曲がいつも映画音楽であったことに特別な意味を感じているのだろう。

今回ギターは、愛器ロマニリョスでなく、1859年製のヴィンテージ・ギターを使用している。
そのせいか、いつもの響きと少し違う。
このギターの深い音色は、思い切ってグッと音量を上げた時にこそ胸に届く音だと思う。
デッカは、このアルバムにこそ、デヴィッド・ボウイが名盤『ジギー・スターダスト』の裏ジャケに掲げた"TO BE PLAYED AT MAXIMUM VOLUME"を書き込むべきだった。

そして錚々たるスタンダード・ナンバーに並んで、よくぞこれを収録してくれたと思うマーク・ノップラーの映画音楽初進出作『ローカル・ヒーロー』をフルボリュームで聴こう。


シネマ(初回限定盤)(DVD付)
村治佳織
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2018年10月21日日曜日

Mr.Children『重力と呼吸』:苛立ちのチケットボード

Mr.Childrenのニューアルバム『重力と呼吸』が届いたので聴いている。


安定のミスチル節だが、前作『リフレクション』に比べると少し小ぶりな、でも親しみやすい音楽を指向しているようだ。
ちなみに早期購入特典のステッカーは価格差ほどの価値はないように思う(個人的な感想です)ので、下記リンクには通常版をリンクしておきました。

このニューアルバム発売のニュースは、全国ツアーのお知らせメールで知った。
実はしばらく彼らのアルバムを買っていなかったのだが、前作の『リフレクション』はライブに参戦できたので、久しぶりに買い、今回もチケットが入手できたのでアルバムを購入した。

95年の東京ドーム以来、申し込んでも申し込んでも彼らのライブチケットは入手できなかったが、前回の全国ドームツアーは東京の友人が家族分の席を取ってくれて久しぶりの生ミスチルを楽しむことができた。
とても素晴らしい演奏だったので、今回もダメだろうとは思ったが、申し込むだけ申し込んでおこうとメールからリンクを開くと、なにやらチケットボードというサイトから申し込む仕組みになったという。

まあそういう時代だよね、ということで会員登録を始めたが、なんて幼稚なユーザー・インターフェイス!
デザインも古臭いし、今どき全角系・半角系を認識しないサイトなんて・・
同行者にはチケット分配をする方式で、複数枚の購入はできないシステムなのに、枚数を入力するフェーズがあったりして、イライラを募らせながらも会員登録を完了。
しかし、購入したいチケットがどうしても候補に現れず、もう忍耐の限界に達して、そのまま退会してしまった。

食事の時に、家内にそう言うと、ホントにあんたは短気なんだから、と言いながら自分でも会員登録を始め、何事もなかったように、チケットを探し当て、しかも抽選に当たりやがった!!
どうしてそうなったのか今でもよくわからないが、まあともかくライブには行けることになったのだった。
めでたしめでたし。

しかし思うに、まだデジタル系の技術は「再現性のないエラー」すら完全には排除できていない。
印刷できたり出来なかったりするうちのウィンドウズに僕はだいたいいつも苛立っている。
調べてみると、チケットボードのエラーで入場できなかった人の話なんかがけっこう出てくる。
こんなに簡単に、商取引が不調になるリスクを、手軽さなんかと引き換えにしていいものなんだろうか。

最近どんどんキャッシュレスになっていく世の中にも、だからちょっと懐疑的だ。
貨幣経済は、「国家の信頼」という、抽象ではあるがそれが無くては生活も成立しない必然を前提に置いて運用されている。
失敗する動物である人間の運用が前提になっているからこそ進化し続けたフェイルセーフが、そして何より、我々は失敗するものだ、という認識そのものが、その安全を担保している。
いろんなものをスマートフォンに集約していく流れに抗うことは、もう出来ないのかもしれないからこそ、僕はこの苛立ちを忘れないでおこうと思うのだ。


重力と呼吸
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2018年10月20日土曜日

ポジティヴ・フォース・フィーチャリング・デニス・ヴァリン:全AORファン必聴のレア復刻です

価値観なんてもとから多様なものだったんだろうけど、昔はもう少しその時代らしさのようなものが、音楽にも文学にも映画にもあったような気がしてる。
70年代と80年代のロックなら、音を聴けばはっきり違うってわかるでしょう。
音楽の話でいえば90年代以降は、それまでのトレンドを繰り返したりクロスオーバーしながら、多極化していったような気がする。
それでも多分後から振り返って、今年の音楽シーンには80年代回帰のムードが一部に確かにあったと総括されるんじゃないだろうか。

ブルーノ・マーズやDA PUMPのヒットなんかがその例だけど、この間久しぶりにタワーレコードをひやかしてたら、こんなアルバムを見つけて、直感で即買いしちゃった。


POSITIVE FORCEというバンドのセルフタイトル・アルバム。
オリジナルのLPは83年の発売で、 たった一枚自主制作で作られた盤というから、けっこうなレア盤だ。

これが聴いてみるとすごくいい!!
エレピのかっちょいいシンコペーションが、マイケル・マクドナルド期のドゥービーとかスティーリー・ダンあたりの音を思わせるし、ブラスが入ってくると、あの頃よく聴いたフュージョンのサウンドを思い出してちょっと懐かしい気分になる。

とにかくどの曲も楽曲の出来が良く、正直フューチャリングされている女性ヴォーカルが最初頼りなく感じられたりもしたが、逆に各楽器の細部の音がバランスよく聴こえて、聴き進めていくとこれはこれでいいな、と思えるようになって、途中から男性ボーカルも入ってきて、こうなると俄然サウンドもマッシブになってきて、まるでどんどん調子が出てくるライブを聴いているような気持ちになった。
最後はもう思わず拍手したくなるような見事な構成。

AORファンには必聴のレア復刻ですよ、これは。
手に入るうちに買っておくしかないと思う。


ポジティヴ・フォース・フィーチャリング・デニス・ヴァリン
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2018年3月7日水曜日

島田荘司『ゴーグル男の怪』に原子力政策の落とし穴を見る

島田荘司先生の新刊はハードカバーで買うことにしてるんだが、なぜか『ゴーグル男の怪』だけは、刊行に気付かず、書店で見つけた時は、たまたまカバーに傷がついていて買いそびれてしまった。
表紙のイラストにもちょっと食指が動かず、これは文庫化を待つかな、と思っていた。

ゴーグル男の怪
ゴーグル男の怪
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島田 荘司
新潮社
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文庫版が出たので買いましたよ。


表紙、よくなってますね。

札幌は、新刊の到着日が発売日の二日後だが、大きな書店なら前日に到着した本を並べているだろうとジュンク堂書店に行ってみたら、ちょうどワゴンに載った新潮文庫を並べ始めるところだった。
店員さんにお願いして、並べる前の一冊をもらってレジに。

別の本を読んでいたのだが、それを中断して読み始め、二日で読了。
相変わらずのページ・ターナー。

が、ちょっと読後感に不完全燃焼感がある。
複数の事件と偶然が錯綜して、ありえない謎が出来上がるのはいつもの島田節だが、あれ、全部解けてるかな、と思ってしまうのは、きっと<探偵>がいないからだろう。
やはり謎を優れた物語にするのは<探偵>の役割なのだ。


しかし国の原子力政策に関する考察はまさに<探偵>的で、どんな専門家、評論家のそれよりも明快で説得力がある。
科学をどう見るかという視点の提供が本書の真のモチーフだろう。
ぜひ文庫版155ページから165ページまでに書かれた、起こるべくして起こる原発事故の真因についてお読みいただきたい。

僕はここを読んで、今までたくさん読んできた原子力関係の両論には、そこに「人間が扱う」という視点はあっても、<人間>そのものを見る視点が抜け落ちていたのだと感じた。
<人間>の、どこまで行っても利己の軛から逃れられない弱さは、あるべき姿を求めて何かを「論ずる」ときにいつも抜け落ちてしまう。

何を言ってるのかわからないかもしれない。
だからこそ読んでみていただきたい。
原子力を我々が使いこなす日はきっと来ないのだろうと、確信のようなものを僕は抱いた。


ゴーグル男の怪 (新潮文庫)
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【Anthologies #1】心に澱が積もる夜には|大貫妙子『ライブラリー』

 還暦を過ぎ、いつの間にか貪欲に新しい音楽を探すことはなくなった。 それでも、日々を生きていれば音楽に頼りたくなることはあるものだ。そんなとき聴きたくなるのは、アーティストたちの人生が垣間見える<アンソロジー>で、いくつか愛聴盤がある。 誰かの心無い言葉や、諍いに心に澱が募るよう...