表紙のイラストにもちょっと食指が動かず、これは文庫化を待つかな、と思っていた。
文庫版が出たので買いましたよ。
表紙、よくなってますね。
札幌は、新刊の到着日が発売日の二日後だが、大きな書店なら前日に到着した本を並べているだろうとジュンク堂書店に行ってみたら、ちょうどワゴンに載った新潮文庫を並べ始めるところだった。
店員さんにお願いして、並べる前の一冊をもらってレジに。
別の本を読んでいたのだが、それを中断して読み始め、二日で読了。
相変わらずのページ・ターナー。
が、ちょっと読後感に不完全燃焼感がある。
複数の事件と偶然が錯綜して、ありえない謎が出来上がるのはいつもの島田節だが、あれ、全部解けてるかな、と思ってしまうのは、きっと<探偵>がいないからだろう。
やはり謎を優れた物語にするのは<探偵>の役割なのだ。
しかし国の原子力政策に関する考察はまさに<探偵>的で、どんな専門家、評論家のそれよりも明快で説得力がある。
科学をどう見るかという視点の提供が本書の真のモチーフだろう。
ぜひ文庫版155ページから165ページまでに書かれた、起こるべくして起こる原発事故の真因についてお読みいただきたい。
僕はここを読んで、今までたくさん読んできた原子力関係の両論には、そこに「人間が扱う」という視点はあっても、<人間>そのものを見る視点が抜け落ちていたのだと感じた。
<人間>の、どこまで行っても利己の軛から逃れられない弱さは、あるべき姿を求めて何かを「論ずる」ときにいつも抜け落ちてしまう。
何を言ってるのかわからないかもしれない。
だからこそ読んでみていただきたい。
原子力を我々が使いこなす日はきっと来ないのだろうと、確信のようなものを僕は抱いた。
島田 荘司
新潮社 (2018-02-28)
売り上げランキング: 12,099
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