2024年5月6日月曜日

LAURA IZIBOR『LET THE TRUTH BE TOLD』

2009年アトランティック・レコードの肝入りでデビューしたアイルランドの22歳ローラ・イジボア。
デビュー前からアレサ・フランクリンやジェイムス・ブラウンのオープニングアクトを務めてきたという期待の新星にアトランティックはこのデビュー盤のレコーディングになんと4年を費やしたという。
 
フィメールボーカルのお気に入りを続けて紹介してきたがこの盤にトリを取ってもらおう。
それだけの内実を伴った名盤だと思う。
 
リード・トラックの『SHINE』が素晴らしい。ファルセットからチェストボイス、そしてエッジボイスまで七色に融通無碍に変化するローラの歌声のサンプルブック。 
 
続く楽曲を聴き進めば、ソウルの伝統に寄り添ったローラ自らが手掛けるソングライティングに気持ちが引き寄せられていく。
奇を衒ったところのない王道でありながら、声の表現に頼り切ったありきたりなメロディになっていないところも好感が持てる。
 
それにこのCD、実に音が良いのです。
リズム・セクションの生々しさはハイハットの表情を聴けばわかるし、音楽のスタイルはトラディショナルだが、ギターの音が現代のアンプで録られているのがわかるほど分離が良い。
目の前で演奏しているようなピアノの音に乗せたバラードはまさに音楽の愉楽。 

この人、これ以降作品をリリースしていないようですが、何度聴いても簡単には飽きないと思うので音の良いCDでぜひ。

2024年5月5日日曜日

Sonya Kitchell『Words Came Back To Me』

ソーニャ・キッチェルは2005年のデビュー当時には聴いていなかった。
グレイス・ポッターを聴き込んでいくうちに、同時期にリリースされたソーニャのデビュー盤に行き当たった。
 
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国内盤CDの解説を読むとノラ・ジョーンズとの類似性について紙幅をとって語られているが、1曲目の『TRAIN』を聴いて心を突いたのは、まるでトム・ウェイツじゃないか!という驚きだった。
芝居がかったイントロから老成した歌を紡いでいくこのシンガーが16歳だとはとても信じられなかった。
 
そして2曲目の『LET ME GO』を聴いて得心した。この曲が実にノラなのだ。
それにサウンド・プロダクツもジャズとSSW的音楽の垣根を軽々と飛び越えたノラのように理知的でスムースだった。
 
しかし続けて聴いていくとそこに乗っている歌は、実に様々な表情を持っていて音楽的素養の深さを感じる。
これが16歳の作品か・・
天才っているんだな・・・
 

2024年5月4日土曜日

Grace Potter and the Nocturnals『Nothing But The Water』

時々古い雑誌を読み返して、気になったCDを買うことがある。
このGrace Potter and the Nocturnalsの『Nothing But The Water』もそんな一枚だ。
 
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2005年にリリースされたもののようだ。
1曲目の『Toothbrush and my table』歌い出しの声にボニー・レイットによく似た雰囲気を感じた。
歌詞にJJケイルが登場するのも印象深く、レコーディングエンジニアがタジ・マハルを録ったチャック・エラーだというからこのアルバムがハズレなはずがない。

曲調はボニー・レイットからノラ・ジョーンズ、ブルーズまで幅広いが、グレイスの声がすべての曲を自分の音楽にしてしまう。
ずっとこの声を聴いていたいと思わせる。
 
長く愛聴する盤になりそうだ。



2024年3月20日水曜日

『DUNE 砂の惑星 PART2』を観てきたよ

『DUNE 砂の惑星 PART 2』
公開日に駆けつけたかったが叶わず、本日観てまいりました。 
 

 
今回『PART 1』もアマプラで観直して準備万端で臨んだ。
 
1・2とも2時間半を超える大作で、映画館で観るには少々しんどい尺だが、あの難解なドラマをよくぞここまで明快でスペクタクルに描いたものだ。
いい意味で『砂の惑星』マニアではない感じ。 
レベッカ・ファーガソン演じるポールの母レディ・ジェシカが美しすぎて、ちっとも魔女に見えないのと、フローレンス・ピューの皇女イルーランが上品すぎてちっとも高慢チキでも憎たらしくもなかったのも、今回の映画の「らしさ」のような気もする。
毎回出ればすべて攫っていくクリストファー・ウォーケンが今回あまりオーラが出ていなかったことは気になった。体調など崩していなければいいのですが。 
 
デヴィッド・リンチ版と比較してみれば物語の改変度は小さなもので、映像技術の進化の貢献度も大きいだろうが、ポール・アトレイデスが救世主になる過程に物語を絞りこめたところに勝因があったように思う。 
ダンカン・アイダホの描かれ方や、スパイスの宇宙航行での使われている様子とか、原作ファンなら、そこ大事なとこじゃん!と言いたくなってしまうこだわり要素を、わりとサラッと流すことで、リンチ版の二の舞を避けている(失礼!)のだろう。
 
時代的な変化もあるのかもしれない。
原作の新訳刊行時に再読した時は、キリスト教とイスラム教の歴史的軋轢を下敷きにしたものという認識だったが、今回はロシア的価値観と西欧との相剋に似たものを感じた。
ハルコンネン当主の名がウラディミールであったことも多少影響しているのだろうか。 
 
それにしてもあまりにもよくできた脚本故なのか、帰ってから酒井先生の新訳をパラパラめくっていくと、あんなに難解だと思っていた原作がスーッと頭に入ってくるではないか。 
新訳がよくできているというのもあるが、やはり映像の力は大きい。

現在原作の新訳化も順調に進んでおり、映画公開に合わせて、第3巻『砂丘の子供たち』も無事刊行された。
 
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 今回の映像化で、『スター・ウォーズ』も『風の谷のナウシカ』も、この作品世界から非常に大きな影響を受けたんだなあと改めて認識できた。
今回の新訳シリーズは、できればフランク・ハーバートの原作全作品を刊行してもらいたいものだ。

2024年3月10日日曜日

NHK-BS版『舟を編む』と『新明解国語辞典』の語釈について

NHK-BSで現在放送中の『舟を編む』がとても良い。
 
エライザ好きということもあるが、『舟を編む』原作が持つ「言語」と「世界」との関係への深い洞察が、今回の映像化にも貫かれているところに好感を持っている。
 
アニメ化、実写映画化と映像化が続いた作品だが、NHKドラマ版がもっとも原作改変度が大きいようだ。もっとも原作に忠実な映像化の(だと思う)アニメ版を再見してみると、改めてアニメ的文脈での巧みな表現に溢れていて、結局一気見してしまった。
今回改めて感じたのは香具矢役の声優坂本真綾さんの相変わらずの天才ぶりだ。
香具矢という人はある種の変人である馬締を実社会に繋ぎ止めるアンカーである。そのために必要な重心を維持しながら彼に好感を持っていく微妙な心風景を声の温度感だけで表現している。数々の名人芸を堪能してきた真綾様だが、本作でのそれも格別だ。

原作からの改変度をリードするのはどの映像化においても岸辺みどりが担う。
今回のNHK版でも副詞の「ーなんて」を素材に、繰り返し繰り返し言葉が先行して人の行動を制御する様を描いて、まさにこのシーンのためのエライザ起用だろう。
感心して、ふと思い立って家にある三省堂の 「新明解」で「ーなんて」を引いてみて、ドラマより一段突っ込んだ語形変化からの語釈にまた感心してしまった。
 
昨年亡くなった父も辞書には思い入れのある人だった。
中学生になる春に、学校推奨の英和辞典とは異なる三省堂の「コンサイス英和辞典」を買ってきた。僕は他の誰よりも父のことを信頼していたし、本革装のこの辞書の存在感が一目で気に入ったので、みんなと辞書が違うことはまったく気にならなかった。
 
だから自分の娘が中学に入るときには、国語辞典にその当時話題になっていた同じ三省堂の 「新明解」を買い与えたのだが、今になってその判断が間違っていなかったことを確認できた。
 
この二つの辞書は今も僕の書棚の端っこで、困ったときにインターネット検索とは異なる答えをくれる。 信頼とはこういうことを言うのだと思う。
 


2024年3月9日土曜日

視聴会で出会った名盤:ALMA / ALMA NAIDU

少し前のことになるが、札幌のオーディオ視聴会で出会った女性ボーカルのCDを購入して、最近よく聴いている。 
アルマ・ナイドゥーというミュンヘンを拠点に活動するシンガーソングライターのデビュー盤です。
プレイボタンを押すと、美しいピアノに導かれ繊細だが存在感のある声が響く。その歌声に続いてこれまたなんとも滋味深いトロンボーンのソロが!
よくオーディオマニアを指して、音を聴いて音楽を聴かないと揶揄されるが、この楽器の「実体感」を味わう悦楽は、コンサートホールのような極度に大きいエアボリュームの中で、しかも演奏者との距離が離れている状態ではなかなか味わえないものだと思う。
 
真空管アンプと古いイギリスのスピーカーの組み合わせは、このようなアコースティック楽器を再生してこそ、その真価がわかるというものだ。
そしてそのために良い録音も求められる。
この音盤は、その二つの条件を満たすもので、視聴会でよく使われるのがわかる。
 
4曲目にはビリージョエル「ストーム・フロント」収録の美しいバラード「And So It Goes」がカバーされ、オリジナルに忠実なアレンジが好ましい。
中盤ではドミニク・ミラーのギターもフィーチャーされ飽きさせない。 

良い楽曲、良い演奏、良い歌唱、良い録音。
地味だが、名盤。

2024年3月3日日曜日

Kindle Paperwhite を買ってみた

Kindle買いました。
モデルは、Paperwhite (16GB) 6.8インチディスプレイ 色調調節ライト搭載 広告なし ブラックです。
同時に、ディープシーブルー純正ファブリックカバーも注文して、快適に使ってます。
写真は光の関係か少し灰色がかって見えますが、とても綺麗なブルーで気に入っています。

 
老眼が進んで、通勤電車で本を読むのが辛くなってしばらく読書から遠ざかっていました。
そこにあの華文SFの大作「三体」の文庫化のニュースが!
読みたいがあのボリューム。移動時間も使いたい!との思いで、Kindle購入に踏み切りました。
 
デフォルトのフォントサイズでも読むには困りませんが、せっかく変更できるのでデフォの5から6に変更して使用してます。電車内でもメガネなしでかなり快適に読めます。

「三体」文庫版第1巻の発売を待つ間、Prime会員特典である無料本で使い勝手を確かめていたのですが、本体での書籍検索は少し反応が鈍めでPCでブラウザを使用した方がよいと感じました。
ライブラリに登録した書籍を削除するのも本体だけではできないものがあり、ブラウザを使う必要があり、そこには少し面倒を感じました。
 「三体」発売後は、ずっとそれを読んでいるので、ライブラリのことは気にならなくなり、それほど深刻な問題とは思っていませんが。 

本に関しては、表紙のデザインなども含め、実体としての書籍に愛着を感じるタイプで、初期よく読んでいたがいつも間にか読まなくなったサラ・パレツキーのヴィクシリーズを表紙が、まきおさんの素敵なイラストに変更になったという理由で再び読み始め、この『カウンター・ポイント』を最後にイラストレータが変更になったという理由で購入しなくなるという、愛書家ではなく愛”本”家な俺です。
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だからこそ装丁には愛着を持てそうにない(失礼)『三体』という作品がKindle購入の背中を押してくれたというわけで、これからは装丁に愛着を持てそうにない(ホントすんません)作品も積極的に購入できるというものです。
これはKindle Paperwhiteの表示がモノクロというのも大きいですね。
 
そういう意味では、これから発売される『デューン』の第三作『砂丘の子供たち』 は間違いなく書籍で買いますよ、ワタシは。