2022年10月27日木曜日

俺とMcIntosh

1975年、私が小学四年生の時、学校にローラー・ハリケーンが吹き荒れた、と言っても今の人たちにはわからないだろうが、スコットランドのBay City Rollersというロックバンドが大人気だったのだ。

友達の家で聴いたBay City Rollersの音楽も素晴らしかったが、レコードがくるくる回って音楽を奏でる、まるで魔法のような佇まいにヤラレた。

家にはレコードを聴くための環境がそもそもなかったのだが、ある日父は、息子の願いに応えて東芝のモジュラー・ステレオを買って帰ってきた。

友達から借りたレコードをモジュラーステレオで再生し、スピーカーの真前にラジカセを置いて、その上に毛布を被せて録音しては何度も聴いた。

そのように私のオーディオ遍歴は始まって、ONKYO、パイオニア、DENONといくつかのアンプを使ってきたが、 こいつとは一生添い遂げたいと思うのは2006年に購入したMcIntoshのアンプたちだ。



プリアンプのC2200とパワーアンプのMC275。ともに真空管アンプである。 

ヒューズが飛んだり、真空管が飛んだり、いろいろあったが、今でも良い音を鳴らしている。最近換えた『PSVAN』という中国製の真空管も絶好調だ。以前は中国製なんて、と思っていたが、いろいろと認識を改めるべき時期に来ているようだ。



原音再生ではないのかもしれない。でもなぜかコンサート会場で聴く、ある種の「熱さ」を帯びた音が、このアンプからは出てくる。

何より、ルックスがいい。

たぶんこのアンプのルックスのせいで、音の印象も狂っているのかもしれないが、それで構わないと思う。


2022年10月15日土曜日

一切の事前情報をシャットアウトしてただ読むべし!『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

 TBSラジオの『アフター6ジャンクション』は圧倒的に火曜日がおもしろい。

宇垣美里自身の熱量がライムスター宇多丸を加速するのだろう。

その日も、宇多丸はアツかった。とにかく『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は面白い、と連呼するのだが、内容については一言も言いたくない、と繰り返す頑なさが、それ絶対面白いやろ、という気分にさせた。


 

翌日街の大きな書店に行ってみたらもう在庫がなくなる寸前で、慌てて購入して、そのまま読んだ。

読み終わるまで置きたくない本、というのが本当にごく稀にあるが、これがそうだった。

宇多丸師匠の言に倣い、本稿でも『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の内容には一切触れない。 

代わりに写真の帯の情報で我慢してほしい。読んだらわかるから。

ただ、感想の代わりに、下巻の後半マジで声を上げて泣いてしまったことだけを告白しておく。

2022年10月14日金曜日

こんな硬派な文体でもスイスイ読めるならジャケ買いも悪くない:『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ

あまりにも有名なタイトルだが、文体の好みが分かれるのかレヴューが二分しているP.D.ジェイムズ『女には向かない職業』。

この新装版の表紙に抗えず購入してみた。

『名探偵コナン』の重要キャラクター灰原哀の名は、この『女には向かない職業』のコーデリア・グレイと、サラ・パレツキーの女性探偵V.I.ウォーショースキーから取られている。

そして僕は、サラ・パレツキーのV.I.ウォーショースキー・シリーズもまきおさんイラストの新版になってから購入したのだった。(だからイラストレーターが変わった『フォール・アウト』以降は買ってない)



 

 

 

 

 

 

 

二人の女性探偵ものをジャケ買いで揃えた僕に眉を顰めるミステリファンは多いだろうが、世評通り超硬派な文体のP.D.ジェイムズでさえ、ジャケが良ければそれなりに読めてしまう不思議な体質のおかげで没入して読めるのだから、バカにしたもんじゃないと思う。

いやこれ相当面白かったですよ。


数ある新本格の中でも屈指の魅力キャラ:『魔眼の匣の殺人』今村昌弘

『魔眼の匣の殺人』がついに文庫化された!


『屍人荘の殺人』も本格推理としての完成度も高く、伏線がビシビシと小気味よく回収されていく快作であった。

それにしても探偵剣崎と葉村の新コンビは、数ある新本格の中でも屈指の魅力キャラと思う。

「マダラメ機関」と言う敵役の設定で、物語のスケールを充分に担保し、続きを楽しみにさせるところもニクい。

それにしても文庫化まで3年半・・

文庫派の私にとっては、待ち遠しくて待ち遠しくて何回創元さんのホームページを検索したかわからんくらい。

その期待ゆえに過大評価になっているかもしれないが、ただただ面白かった。そしてここから『兇人邸』の文庫化を待つ日々。

いや、待ってるのも楽しいのよ。ホントに。


2022年10月13日木曜日

松崎レオナを追いかけて:島田荘司再読の旅

『暗闇坂の人喰いの木』で島田荘司作品の講談社文庫改訂完全版は、5作品目になる。



再読の良い機会だが、『暗闇坂』はすでに4回目の再読となる。

犯人がわかっているのに、ミステリを再読する意味はない、という人もいるだろう。しかし自分にとっての『暗闇坂』は、人生が思わぬことで行き詰まり、自分を見失ってしまいそうになる時、何度も本棚から取り出して読み返す、そういう物語なのだ。



『暗闇坂』を読んでしまうと、どうしても『水晶のピラミッド』に手が伸びるのは、松崎レオナに逢いたいからだと告白しよう。

その意味では『アトポス』が重版されず入手不能状態なのは困ってしまう。ぜひ改訂完全版で復刊を。

で、本作。大仕掛けで知られる島田作品の中でもかなりの仕掛けっぷり。

張り巡らせる合理の網に、読者である我々を見事な手法で絡めとるが、並行して描かれるギザとタイタニックの物語が、この合理の網に豊かな詩情を添えるのだ。「巻を措く能わず」とはこの本のためにある言葉で、こちらも4回目の再読になるが734ページを2日で駆け抜けた。




そして『眩暈』

例の大仕掛けだけは、どうやっても頭から消えるはずもなく、流石に驚けないだろ、と思ってた訳だが、わかって読んでいるからこそ別の細部に驚きまくりで、ページが止まらず一気読みとなった。

今は無性に次作『アトポス』が読みたいが、絶版で入手困難。これを好機と捉えて、御手洗再読祭りを一旦収めようと思う。 


慎ましく穏やかな老後に強い憧れを持つあなたへ:『三千円の使い方』原田ひ香

若い頃から野心はなかった。

なにかで一番になったこともないし、どうしてもこの道でなければ、という強い思いも抱いたことはない。 

だからずっと、慎ましく穏やかな老後に強い憧れを抱いていた。 

でも実際に近づいてみると、ただ穏やかに生きていくことはとんでもなく難しいのだと気付かされることはいくらでもあって、不安は大きくなるばかり。 

そんな気持ちで街を歩いていたら、書店の平積み台からこの本が僕を呼んでいるのに気がついた。 



その声に従って家に連れ帰り、一気に読んだ。 

心に巣食っていた不安は、不思議なことに消えていた。