2017年11月21日火曜日

2017 北海道オーディオショウに行ってきました -試聴会再考~ 誰がためにその音を鳴らすのか-

今年もCAVIN大阪屋主催の『北海道オーディオショウ』に行ってきました。
いつもいいなあと思うスピーカーが、今回も素晴らしい音を奏でていましたが、全体にDEMO自体は低調という印象で、これ誰のためのやってんの?と思うこと数度。

今年は、それぞれのブースのレヴューというよりは、オーディオショウ全体について改めて考えてみたいと思います。

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札幌で行われる試聴会には、視聴即売会的なものと、普通では手の届かないハイエンド機器の音を聴かせるものの二系統があります。
視聴即売会の狙いは今更論じるまでもなく、オーディオ機器を売るためのもの。
売れ筋ラインの新製品が出れば、その機種を聴かせる試聴会が開かれ、そこに購入を検討している人たちが来ます。
だいたい機種が決まっていれば、その機種が得意としているジャンルのファンが集まるわけで、デモの素材選びなども自ずと決まってきます。

そのまま商談に入るお客さまもたくさんいらっしゃるようでした。

難しいのはハイエンド・タイプの試聴会で、高いものになると数千万にもなるオーディオ機器を買える人は限られていますし、そのような商品では、自分の使っている機種に近いものと接続して、個別に試聴をさせてもらうのが普通です。
では何故やるのか。
どんな効果があるのか。

思うに、ハイエンド機の別次元の音を聴くことによって、ユーザーさんたちの「もっといい音を聴きたい」という心の<温度>を上げておく効果が重要なのではないでしょうか。
そのような<経験>が潜在的な買い替え需要を作り出していると思うのです。

私などは、まんまとその罠にハマった一人で、まだ「ハイエンド試聴会」という名前だった頃から毎年欠かさず足を運んでは、頭のなかで数年後に宝くじにでも当たってお金持ちになった自分を空想して、架空の夢のシステムを組み立ててはうっとりしているのです。

もう少し現実的な効果もあります。
試聴会でいいプログラムを聴くと、自分のシステムのどこをステップアップすべきかがわかるのです。

二年ほど前のトライオード山崎順一さんのデモで、「これはあまり現実的な選択肢じゃないけど」と前置きして聴かせてくれたゴールドムンドの二千万円もするDACを聴いた時、あまりの変化に驚嘆したことがあります。
デジタル再生の肝はDACという信念が僕の中に根ざした瞬間でした。

そんな僕に今回その実感を再び聴かせてくれたのが輸入商社「アクシス」のブースで、MSBテクノロジーズの新製品「リファレンスDAC」でした。
→アクシスのリファレンスDACの商品ページ

スピーカーには、ルーメンホワイトの改良復刻のスピーカー「white light anniversary」が組まれていました。
石田衣良さんが使っていて、これがなかなかアンプを選ぶスピーカーで、とおっしゃってましたから、それをこれほどまでに朗々と鳴らすAyreのRシリーズのアンプの実力も相当なものだな、と思わせて、結果的に全体が素晴らしいデモになっていました。

聴かせどころのコアになる商品を決めて、それを表現できるシステムを組んでこそ、デモも成功できるのです。

そういう意味では残念ながら、 タンノイ・ユーザーとして非常に楽しみにしていたアーデン、チェビオット、イートンの三兄弟の復刻モデルのデモは成功だったとは言い難い。
→「タンノイ・レガシー・シリーズ」

シリーズで最も大きい「アーデン」でのデモは、一曲目、デイブ・ブルーベックの『テイク・ファイブ』の出だしから「おっ」と思わせる鮮烈な音が出て、好印象。
少し低音が重い気がするが、セッティングで補正できる範囲内かな。
近頃流行りの密閉型には無い、自然な金物の音にも好感が持てました。

しかし問題は接続したアンプ。
デモ主のエソテリックの新製品であるプリメインアンプとSACDプレーヤー、そしてネットワークプレーヤーのセットで鳴らされていた。
聴き進めていくうちにプリメインアンプの分解能の低さがだんだん気になってくる。
特に大音量になった時の歪感には閉口してしまった。
アーデンの実力を活かしているとは思えない。

それに、アーデンを今から買おうというユーザーは、往年のタンノイファンなのであり、そのような機材は使わないでしょう。
エソテリック扱いの新製品を無理やり組み合わせた今回のシステムは、機器の組み合わせの妙を楽しむオーディオという趣味の本質を捉え損なっています。

もうひとつ厳しいデモとなったのが「ステラ」社のブース。
今回は新製品のオーシャンウェイのパワードモニタースピーカーが核に据えられていました。

このスピーカーの音がなんとも荒々しいもので、録音スタジオでロックのモニタリングをするにはいいのかな、と思う音ですが、これに自社製の高級レコードプレーヤを繋いで、レコード演奏の「ノイズフロアーの低さ」をプレゼンする、という支離滅裂な展開。
静寂とは縁遠いパワードモニターに、古いジャズのレコードはスクラッチノイズ満載。最後の曲は美空ひばりさんの復刻LP。
なんだか本当に何をしたいのかわかりません。
あんた、お金持ってたらこの組み合わせでシステム組む?と訊きたくなりました。


もちろん今回もいいデモはいくつもありました。
なかでもやはりB&Wにハズレ無し。今年も最高の音を聴かせてくれたのは、トップエンドモデルの800D3でした。
デモ自体は新しくでた700シリーズの売り込みだったのですが、さすがにB&Wはわかってらっしゃる。
それだけではもちろん終わりませんよ、とばかりに800D3に繋ぎ変えて、シニア・サウンド・ディレクター澤田氏の秘蔵音源をたっぷりと聴かせてくれました。
これがまたいちいちいい音で。

ビートルズのホワイトアルバム収録曲のリハーサル音源には魂消ました。
なんて生々しいジョンのシャウト。コレ聴いただけで、今日来た甲斐があったと言いたいくらい。
他にも曰く有りげな録音多数。
その度に「秘密のSACDで」と紹介を付け加えるのです。
おそらく、スタジオ界隈では、せっかくいい音で録音したものは窮屈なCDフォーマットではなく、SACDフォーマットに焼いて関係者に配るのでしょう。
スタジオで使われていた2インチのアナログマルチに76cm/sのテープスピードで録音した音ってのは、もうこれはとうてい家で再現できるような音量では商品化できないようなダイナミックレンジになっているんだそうですから。

巷では、SACDとかハイレゾとかあんまり変わらんだろ、という声をよく聞きますが、多くの商品ではその通りなんだと思います。
一回商品用のマスタにしたものをいくら良い器に入れ替えてもたかが知れている。
源流のほうから、それ用にマスタリングしたホンモノはこんなに凄いんだよ、というのを聴かせてもらえたのが収穫でした。

2017年11月20日月曜日

プリアンプの真空管が死んだ〜真空管交換顛末記

毎朝レコードを磨いて聴くのを習慣にしている。
その日は、『風』というグループの4thアルバム『海風』を聴いていたら、B面あたりで、ボンッという嫌な音がして、左チャンネルから音が出なくなった。

この音には聞き覚えがある。
7年ほど前、パワーアンプのMC275の整流管が飛んだ時、まったく同じ音がした。

うちのシステムの場合、プリにもパワーにも整流管が使われている。
プリアンプを見ると、片側だけメーターが振れていないので、原因はプリアンプではないかと疑われた。

接続を外し、蓋を開けてみると、8本の整流管が並んでいた。



二つのグループに別れているようで、これがLRの各チャンネルのグループだろうとアタリをつけて、4本ずつそっくり入れ替えてみると、動かないメーターが右に移動したので、ここが故障の原因と特定できた。
あとは、どの真空管かを特定できれば、交換でもとに戻るだろう。

MC275から12AX7と12AT7を一本づつ抜いて、それを一つづつ交換しながらCDから信号を入れて確認をしていった。
5本目に差し掛かった時、刺さっている真空管に触れると他のものと較べて格段に熱くなっていた。
この12AT7が犯人だな、と直感しながら差し替えてみると、見事に信号が通った。


交換する真空管を発注するにしても、このままプリアンプを開腹したままにしておくのも良くないだろうから、テストに使った管を挿したままにして閉じて、結線まで復元した。

これで新しい管が届いたら剥き出し構造のMC275に挿す、というほうが合理的だろう。

さっそく12AT7をネットで探す。
探すのはGolden Dragon。
と、書くと、古参のオーディオファイルは顔を顰めるだろうが、McIntoshの純正管はGolden Dragon製なのである。

検索すると、送料無料のヨドバシにあった。発注すると、在庫を確認するとメールが来た。
その二日後、納品日が決まりましたと知らせがあったが、なんと二ヶ月も先の日付だった。

こりゃタマランとキャンセルして、いつも発注しているテクソルを探すと、送料がバカ高になっていて、そうだそういう時代になったんだと改めて気付く。
一応見積もりを取ると、こちらもやはり納期は二ヶ月先だという。

仕方がないので、在庫優先。
在庫表示の精度の高いAmazon先生にお願いすることにした。
12AT7の在庫のある中で、最安のエレハモを発注。
ギターアンプ用としてポピュラーなもので、そこそこ信頼性もあるだろう。

こっちは表示された到着日の一日前に届いた。


さっそく挿して音出し。
今までと変わらない音がでましたよ。メデタシメデタシ。


って、あれ?
今調べたらこんなのも出てる。

PM 12AT7A ミニチュア/mT 双3極管 TPM12AT7A
PM
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Golden Dragonは英国PMコンポーネント社の製品ですからね。
こっちのほうが近いじゃん。
安いし。

真空管、だいぶ入手しやすくなってるけど、商社側はまだまだBtoBの気分で個人ユーザーが買いにくい。
ユーザー向けの販売チャンネルは「趣味が嵩じて」系の人が多くて、UIがイマイチ。
やっぱAmazonに頑張ってもらうしかないんでしょうな。そりゃ一人勝ちになるわけだ。

2017年11月11日土曜日

Nikon D5100を購入!不滅のFマウントはZoom Nikkor 43-86mmをデジタルの世界に迎え入れるのか

ブログなどの記録用にはコンデジ、趣味としてのカメラはフィルムカメラのNikomat ELで通してきたのですが、正直ブログやSNSの写真にも一眼のクオリティが欲しいな、とは思っていました。
で、この度Nikon D5100というデジタル一眼レフを購入しました。
わーい。


でも買ったのは本体のみ。
家族がNikon D5300という二世代新しいモデルを使っていて4本ほどレンズがあるので、それを借りて使ってます。
今ついているのは、写真の35mm f1.8の単焦点。

しかし、わざわざ人のレンズを借りんでも、自分のレンズがあるわけですよ。
ワタクシのメインカメラNikomat ELに普段付けている43-86の標準ズームがね。


なにしろニコンは不滅のFマウント。
このレンズも付くことは付くはず。
さっそく不滅のFマウントの実力ってヤツを確かめてみようと思います。


ま被写体ですが、手近なところで部屋の真空管アンプを撮ってみます。
まずは、いつもブログ用に使っているライカのコンデジで。


これを新しく買ったD5100+35mm f1.8で撮るとこうなります。


撮像素子の大きさもレンズのf値もまったく違いますから、一概にどちらが、とはいえませんが明らかに違う写り方しますね。
ボケが欲しいときはやはりこのレンズ。
しかし意外にライカも健闘しています。
コンデジとは言え、ライカはライカか。

さて肝心の43-86の方はどうでしょうか。


うーむ。
なにしろ最短撮影距離が1.2mというスペックなので、まったく寄れません。この被写体では実力が発揮できませんでしたが、それなりに雰囲気は出てるのかな。
こんな時は接写リング。


 これをレンズと本体の間に噛ますと、最短撮影距離が変わって「寄れる」ようになります。露出が少し暗くなるので、補正が必要ですが便利なシロモノです。

ところが一番浅いPK-11を噛ましても、今度はさきほどの構図が維持できないような位置まで寄らないとピントが合いません。
しかたがないので別ショットを撮ってみましょう。


あ、普通に、写りますね。
しかし、あえてフルマニュアルでしか撮れないクラシックレンズを使うほどの「味」は、このような室内撮影の物撮りでは出てこないのかもしれません。

しかし例えば、以前Nikomatに43-86を付けて撮ったこのような被写体なら・・と以下の写真をあらためて見てみると、いやいやこういう写真ならフィルムで撮ればいい、と思うわけで、やはり今後もフィルムカメラとの併用になるのかな、と。


というわけで、不滅のFマウントは、機能はするが、やはり適材適所、ということになるかと思います。
それを超えて味を出していく技術はまだ僕にはないようです。
まことに当たり前の結論で申し訳ありません。

2017年11月10日金曜日

稲垣潤一『Personally』〜これも青春のサウンドトラックだった

稲垣潤一の4thアルバム『Personally』を聴いている。


83年発売の3rdアルバム『J.I』は僕にとって特別なアルバムで、色んな意味で転機となった予備校時代を支えてくれた一枚だ。
「僕のSoundtrack of Lifeに刻まれた音」

予備校にいる間に発売された次作『Personally』は大学に入ってからレンタルレコードで聴いた。カセット資産を処分した時に買い直さなかったアルバムの一枚だが、こうして30年以上の時を経て当時のままの音で再会できるのだから本当にLPレコードというメディアはすごい。

オープニングは林哲司作の軽快でオールド・スクールなポップソングで、『J.I.』の路線を継承しているように思えるが、『J.I.』が夏歌のイメージならこちらは少し冬の匂いがする。
それを形にするのがユーミン作(したがってアレンジも正隆氏)のA2『オーシャン・ブルー』 だ。タイトルで夏を装うが、サウンドは冬のユーミン。松原正樹のギターが華を添える。

A面ラストの名曲『誰がために・・』を聴き終え、B面に進むと、少し様子が変わってくる。
B1『レイニー・ロンリネス』とB3『ジェラシーズ・ナイト』で秋元康&筒美京平先生のモロ歌謡曲フレイバーを放つ。
後にカバーシンガーとして開花し直す稲垣潤一を予感させる録音。

秋元康は、A3で『振り向いた時そこに見える階段を数えたことがあるだろうか』という、当時としては見慣れない長いタイトルの曲を作詞していて、これが後に長いタイトルのライトノベルが量産されるキッカケになり、ぐるりと廻ってご自身のAKB48『鈴懸の木の道で「君の微笑みを夢に見る」と言ってしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの 』に繋がっていく、などということはありません。嘘です。言ってみたかっただけです。スミマセン。

僕にとってのハイライトは最終曲『もう一度熱く』で、バラードのメロディでは一番好きな作家安部恭弘の作曲。来生えつこの粘つかない歌詞もいい。

Personally
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稲垣潤一
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2017年11月9日木曜日

マンガに関しては、これはもうカワイイ女の子が見たくて買ってます、と衒いなく言ってしまおう

マンガを買う量は一時に較べればずいぶん減った。
レコード磨くのに忙しくてね。
それでも書店やネットでカワイイキャラにピンときたら買ってみる。

最近(でもないが)のヒットはこれ。
『虚構推理』

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城平京の本格ミステリ大賞受賞作を原作としてのコミカライズ。
原作『虚構推理 鋼人七瀬』部分のコミカライズを6巻で終え、オリジナルストーリーの第二部が進行中。


義足義眼の美少女にして、怪異たちの知恵の神、岩永琴子がカワイイ。
どのような怪奇現象にも泰然と向き合うが、その泰然さが恋愛にだけ上滑り気味に適応されていくという面白さはかつてなかったアイディアで、そこに萌える。

そしてこちらも面白かった。
『からかい上手の高木さん』


高校生くらいの男の子と女の子との間には、厳然たる精神年齢の差があることを、身がよじれるほどの切実さで思い起こさせる。
なんかそういう秘孔があって、エピソードごとにそこを突かれている感じ。
最高です。


これもキャラのカワユさで買った。
『ラーメン大好き小泉さん』


美少女小泉がとにかくラーメンを食べる。
他者に関心がなく、ただラーメンを愛しているが、その偏愛がかえって人を惹きつけずにおかない。
誰かと食べるのが美味しいが、食べている瞬間はラーメンと自分との純粋な対峙であるというあの一種独特の世界を持つ国民食に、 彼女自身がよく似ているのだ。
ラーメンってそういう食べ物でしょ?

東京で会社員をやっていたあの頃、 門前仲町あたりで飲んだくれたら、背脂チャッチャ系の店「弁慶」だった。
銀座で飲み足りない時は、東銀座に流れてロックバーで音楽談義した後、「やまちゃん」で長浜ラーメン。

ラーメンが美味いのは飲んだ時だけじゃないんだ。
昼間に原宿か秋葉原にいたら、もちろん「じゃんがら」で全部入り。
三田の「二郎」にも一度だけ行ったが、やはりあそこは慶応生の聖地だから、地方国立出身の僕には敷居が高い。
蒲田店が気後れせずに落ち着けた。並ばないしね。

そしてなんと言っても、銀座のオフィスで昼時を迎えたときの「はしご」には何度行ったかわからない。
今はなき東芝ビルの地下で、排骨だんだん麺にかならずご飯をもらって、席に常備されている「龍馬たくあん」をたっぷり乗せた。
悲喜こもごもの会社員人生の思い出と分かちがたく結びついている味だ。

結婚してすぐ、まだ子どもがいなかった頃、愛車ジェミニ・ハンドリング・バイ・ロータスで、深夜の環七を飛ばして二人でよく「なんでんかんでん」にも行った。
路上駐車のパトロールを気にしながら奥さんと二人で食べた博多ラーメンは本当に美味しかったな。

もうすっかりラーメン店の勢力図も変わってしまったんだろうが、このマンガを読むと、あの頃のことを思い出す。

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2017年11月6日月曜日

浅川マキをブックオフで捕獲したら、寺山修司を経由してカルメン・マキに辿り着いてしまった件

僕の愛用するTANNOYのGREENWICHというスピーカーは、20cmの同軸ユニットを積んでいて、一般にスピーカーは大きい方がいいという認識を持つオーディオファイルからは「中途半端」なスピーカーと見られている。

また、弦の流麗な表現よりは軽快なリズムを得意にしていて、TANNOYのパブリックイメージを裏切っているうえ、ジャズもロックもJBLだろ、というメインストリームな人たちからも無視されがちだ。

だからこのスピーカーの寄る辺なきユーザーたちには仲間意識が生まれやすく、実は先日も最近このスピーカーを買ったという人と話をする機会があった。
いろいろ聴いてみたけど浅川マキとの相性が一番だった、というその人の言葉が耳にこびりついて、ブックオフに本を売りに行った時、時間つぶしに見ていたCDの棚に浅川マキのベスト盤を見つけた時、迷わず捕獲してしまった。


実は初浅川マキ。
カッケー。
演劇的なフォークブルーズだな。

DARKNESS I
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廃盤なんすね、これ。IIもIIIもあるみたい。しばらく探して歩こう。

あんまり素敵だから、いろいろ調べてたら、このDisc1一曲目に収録された『夜が明けたら』を聴いた寺山修司が感動して、歌詞を提供するようになってから、無名だった浅川マキが売れたんだそうで、このアルバムにも寺山作詞の楽曲が何曲か収録されていた。

寺山修司さんは、新宿ゴールデン街で何度かお邪魔した「ナベサン」の二階に、演劇の人としての寺山さんの資料が置かれていたことで身近に感じていたが、その後よく聴くようになったワーグナーの『指環』の 解説書を執筆(第一巻の『ラインの黄金』で絶筆となった)されていることを知って、その意外な一面に驚いたというのがわりと最近のこと。
今回、浅川マキさんの売り出しに一役買っていると知ってまた驚いた。

驚きついでにもうひとつ、カルメン・マキさんのデビューにも大きく関わっていることを知ってまたまたビックリ。
寺山修司がプロデュースしていたゴーゴークラブ(ってわかる?)のイベントで、カルメン・マキが歌と詩の朗読を担当し、その実況録音を彼女のファースト・アルバムとして発売したのがメジャー・デビューのきっかけということらしい。

それがこのアルバム。

真夜中詩集 - ろうそくの消えるまで -
カルメン・マキ
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思わず大きな画像で貼り付けてしまいました。
これレコードで欲しいねー。

で、その後、創業直後だったというCBSソニーで作ったシングルが『時には母のない子のように』
ジャケがこれ。
CBSソニー初の大ヒットとなったそうな。

なんちゅう存在感ですかね。この『時には母のない子のように』はアメリカの黒人霊歌、『Sometimes I Feel like A Motherless Child』を下敷きにしてるんだそうで、この原曲は浅川マキの古くからのレパートリーだったという、このあたりでも繋がってるんですなあ。

ところでカルメン・マキなら最近、レコードを入手したばかりだった。



カルメン・マキ&OZ時代のセカンドとサード。

この時期、すでに寺山修司の影はないが、音楽面を全面的に支えていた春日博文のセンスがスゴい。
プログレ的音世界のセカンドに、グッとポップになったサードのどちらもカルメン・マキの存在感がそれをグルっとまとめて彼女の作品にしている。
それにしてもこれらのアルバムはロックの文法で作られた作品で、浅川マキとの共通点は見出だせない。
なんでも『時には母のない子のように』でレコード大賞を受賞して、副賞としてもらったジャニス・ジョプリンのレコードにハマってロックの世界に踏み込んでいったというのだから人生はわからない。



2017年11月5日日曜日

『ミレニアム4〜蜘蛛の巣を払う女』:遺稿を破棄して書かれた”新しい”ミレニアム

北欧ミステリブームの発火点ともいえるスティーグ・ラーソンのミレニアム・シリーズは2011年の文庫化を待って全冊を読んだ。
各上下巻が3セットの大ボリュームで、時に凄惨で、時に陰鬱な表現もあったが、どうしても続きが知りたくて、なによりリスベットから目が離せなくて、本が置けない幸せな読書の時間を半年分ほどくれた。
確か2ヶ月おきに1~3と刊行されていったはずだが、その2ヶ月の間が辛かったことを憶えている。

そのスケールの大きな物語は、ミステリ小説としてもサスペンス小説としても一級で、登場人物たちの魅力とあいまって、ぜひ続きが読みたいところだが、出版前にすでに筆者スティーグ・ラーソンは亡くなっていて望むべくもない。
そんな残念な気持ちでいたところ、遺品のPCにミレニアム4の草稿が残されていたというニュースが飛び込んできた。
しかし実質上の共作者である内縁の妻と遺族の間で権利に関する訴訟が起き、事態は進んでいかなかった。

結局その草稿は原稿にならず、別の作者によって続きが書かれ、『ミレニアム4〜蜘蛛の巣を払う女』が2015年刊行された。
今年文庫化され、ようやく読むことができた。


なんにせよ、僕らはリスベットと再会することが出来たのだ。
それをまずは喜ぼう。
実際、読み始めてみると面白かった。
が、やはり筆者が違えば表現は変わってくる。
読み進めていくうち徐々に違和感が募ってきた。
リスベットはそんなに生ぬるくないよ。
ミカエルは、そういうときヒーローのようには振る舞わなかったよ、というように。
それに、読んでいて人間のダークサイドに気分が悪くなるようなラーソンの筆致はここにはない。
やはり世界であれだけの部数を売ったラーソン小説のコアは、描いた犯罪や人と人の争いの<醜悪さ>であったのだし、そこに生まれるべき<罪の意識>を以って、ラーソンは人間を描いたのだ。

仕方がないことだとは思うが、この「4」はミレニアム1~3の純粋な続編として書かれていて、筆者が変わったことは特に考慮せず、前作の解説的な表現を挟んでいないから、余計にそのような違和感を感じるのだろう。
だからこの本をミレニアムの同人小説として読むべきではないのかも知れない。
残された遺稿を破棄して、せっかく新しく書き起こされたのだから、我々もこれを新しい物語として受容しよう。

ラーゲルクランツが書き継いたこの小説は、サスペンス小説としては充分に面白いし、リスベットのその後だってやはり気になる。
すぐに「5」が出るようだし、「6」の刊行もアナウンスされている。
読後、ここからまた何年もミレニアムの世界が続いていくことを素直にとても嬉しいと感じた。

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2017年11月1日水曜日

門あさ美『ファッシネイション』:完成度の高い日本的ジャジー・ノット・ジャズの名盤をまた発見してしまった。

70年代後半、まだ女性R&Bというジャンルが日本には確立していない頃、何人かのシンガーによって都会的な女性ポップヴォーカル(日本的ジャジー・ノット・ジャズと個人的に呼称してます)の新しい地平が開かれようとしていた。

今のところ77年の佐藤奈々子『ファニー・ウォーキン』あたりを嚆矢として、松原みきに繋がり、間宮貴子、国分友里恵へと続いていく流れを俯瞰して聴いていたが、この人の存在に気付いていなかった。
門あさ美さん。

ファースト・アルバムの『ファッシネイション』を入手したので聴いている。



79年12月のリリースというから松原みきの『ポケットパーク』よりも早い。
一聴して愛聴盤確定の手触りを持つアルバムだ。
落ち着いたボーカル。
代表曲とされるデビュー曲『ファッシネイション』ですらアルバムの中で突出した印象を与えない、ハイレベルに粒が揃った楽曲群。
アルバムにはミュージシャン・クレジットがなく、そのあたりにもあくまでも音楽優先の作りを意識させる。
こういうアルバムが長く聴けるんだよなあ。

現在はリマスター盤CDで入手できるが、レコードで聴くと時折、大きなホールで録音したようなスケールの大きいブラスや、豊かな響きのコーラスがまるでライブのようなリアルさで迫ってくる部分があり、よくぞこんな音をレコードに封じ込めたな、とクレジットを見ると、やはり吉野金次さん。
この技を聴くだけでも価値があるアルバムと思う。

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当時はあまりテレビにも出なかったそうで、ミステリアスなイメージもあったそう。
どっこい現代にはYouTubeがあるでな。
歌い姿もいいですなー。