古いロックアルバムを入手するとまず、湯浅学さんが編まれた「洋楽ロック&ポップスアルバム名鑑」で調べてみるが、このアルバムはvol.2の三枚目に紹介されていた。
ミュージック・マガジン (2016-04-18)
表題曲が対位法を活かした英国風サウンドや構成美が評価され、ライブでは長尺で演奏されたとある。 (なぜか本書では間違ってファーストアルバムの「勝利への登攀」の写真が掲載されている)
アメリカン・ハード・ロックの始祖のひとつとされるマウンテンだが、なにしろクリームのプロデューサーが立ち上げたバンド。英国風味が隠し味というところだろうか。
マウンテン
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確かにこの表題曲、非常に印象的で、ちょっとバタバタするドラムが気になるが、長調に展開していくところのメロディがノスタルジックで記憶に残る。繰り返して聴きたくなる。
そして気になるこのタイトルだ。
調べてみると、ナンタケットは19世紀に捕鯨業で栄えたアメリカの町で、鯨に銛を打ち込み、獲物が弱るまで小舟が海上を引きずり回される様子をソリ遊び(スレイライド)に例えた言葉だそうだ。
表題曲には「For Owen Coffin」という副題がついている。
このオーウェン・コフィンというのは、ナンタケットの捕鯨船エセックス号が、巨大な鯨に襲われ沈没した事故に関係がある。
この話、詳しくは「白鯨との闘い」(ナサニエル・フィルブリック著、集英社文庫)という本になっている。2015年に映画化もされているが、こちらは少し脚色されているようだ。(でも面白かったです)
ナサニエル フィルブリック
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こちらのサイトに実際の事故の概要がまとめられている。
実際にエセックス号に乗っていた一等航海士が書き残した事故のあらましが、その一等航海士の息子の手によって若き船乗りハーマン・メルヴィルに手渡され、あの名作「白鯨」の創作の起点となったんだそうだ。
オーウェン・コフィンのことだけ言えば、鯨に襲われ母船を沈められた後、数ヶ月に及ぶ小舟での漂流の果てに、船乗りの古い掟に従って、くじ引きで自死し自分の肉体を食料として提供した10代の少年らしい。
とはいえ歌詞には直接エセックス号の事件は描かれていない。
捕鯨の町ナンタケットのでの日常が描かれているだけである。
メルヴィルの「白鯨」と同様、マウンテンの「ナンタケット・スレイライド」もエセックス号事件からインスパイアを受けた作品ということなんだろう。
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歌詞はマウンテンのベーシストで、クリームのプロデューサーとしても有名なフィーリックス・パパラルディと彼の妻ゲイル・コリンズの共作で、ジャケットやブックレットのイラストも全面的にゲイル・コリンズが描いている。
ところで、このアルバムブックレットには「マウンテン3」とタイトル表記がある。
再発時に原題の「ナンタケット・スレイライド」に改められたが、それにしてもこのアルバムはファーストの「勝利への登攀」に続く、マウンテンのセカンド・アルバムなのである。
実は「勝利への登攀」の発表前にフィーリックス・パパラルディのプロデュースで作られたレスリー・ウェストのソロアルバム「マウンテン」が、バンドとしてのマウンテン結成のきっかけとなっているので、このような混同が起きたようだ。
アルバムにはバンドのポートレイトも付いていた。
写真の大きい男がレスリー・ウェスト。まさにマウンテンですな。
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