2015年9月29日火曜日

真空管アンプの受難

朝、仕事で使っている真空管アンプ「COPLAND CTA401」が壊れた。
ジョー・パスのヴァーチュオーゾをかけていたら、バリバリバリと異音がして、すうっと音が消えてしまった。
直感的に過電流がどこかに流れたなと感じた。

急遽、デノンのPMA-1500RIIをピンチヒッターに送った。
購入して13年、一度も不調になったことのない孝行息子だ。

仕事が終わってCOPLANDを開けてみる。



異常発生時焦げ臭い匂いがしたので、焦げているところを探す、と出力管EL34のすぐ下に配置された抵抗のひとつが焦げていた。


おそらくこれが原因だろう。この抵抗に接続されていると思われる真空管の蒸着部が剥げている。



素人が判定できるのはここまで。
いつも修理をお願いしている方に今連絡をとっているところ。あとはプロに診ていただこう。

尖閣諸島は誰のものか、そして沖縄基地問題の根源はどこにあるのか~小説 琉球処分

だんだん世界が抜き差しならない状況に向かっているように感じる。
対症療法的な政治は、交渉相手の選択肢を奪い、結局どうしようもなくなって拳を振り上げさせるのではないか、という疑いが頭を離れない。

隣国の「挑発」に苛立って講じた「嫌がらせ」を「抑止力」と呼ぶ理屈は、はたして正鵠を射ているだろうか、などと考え始めればかえって、言葉を弄ぶことの虚しさばかりが募る。

未来、自分の子どもにどうしてこうなったの、と訊かれた時、何が答えられるだろうと考えたら、いてもたってもいられなくて、ここ数日目についた本を読み漁っていた。

その中に出てきた「琉球処分」という言葉がどうも気になって調べているうち、この本を見つけた。

小説 琉球処分(上) (講談社文庫)
大城 立裕
講談社 (2010-08-12)
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小説 琉球処分(下) (講談社文庫)
大城 立裕
講談社 (2010-08-12)
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芥川賞作家の大城立裕が、若い時に新聞に連載して途中で打ち切りになっていた作品だそうだ。
芥川賞を受賞した際、後半を書き足して出版された。

さほど売れず絶版となっていたが、菅直人首相が就任後の会見で、この本を読んで沖縄の歴史を理解しようとしている、と述べたことで中古市場が沸騰し、講談社が文庫化した、ということらしい。 読んでみると、そんな経緯は嘘じゃないのかと思えるほど面白い。



琉球処分を通じて、明治維新の実際を感じたような気がした。
そして教科書や新書などで知る明治維新と、それはずいぶん違う顔をしている。
やはり歴史は「人」が作っているのであって、どのような心持ち同士がぶつかり合ってそうなったのかを知ることは容易ではない、ということなのだろう。
政治的な立場の違いで起こる論争の中でよく聞かれる「もっと歴史を勉強しろよ」という言葉のなんと虚しいことか。
それが知り得ないものであるという謙虚さから先に進み、やがてお互いの意見を呑み込むことしかきっとできない。
読み終えた今は、そう思う。


この本を読むまで、沖縄の基地問題とは太平洋戦争の結果として生まれたものだと思い込んでいた。
書かれてあるとおり、明治政府の外交政策の犠牲となったことにそのルーツが求められるとすると、この問題の根源が足元にあったわけで実に根深い。
尖閣諸島も琉球王国に属するものだ。
明治以前、島津藩には相次ぐ増税に苦しめられ、柵封を続けていた明には貢物に倍する手土産を持たされて厚遇されてきた琉球の人たちが、それでも自分たちのルーツは日本にあるとの自覚を捨てずに生きてきた苦しみが、この問題を複雑にしている。
なにか慄然とする思いだ。



そして同じ過ちは今も繰り返されている。
松田処分官が遺した公文書としての「琉球処分」を作家大城が読み解いたことで、この本が書かれたあとの出来事の本質までも見通している。
これが小説というものの重要な役割だと思う。
せめて現代に生きる我々は、「文系大学処分」だけは阻止せねばなるまい。

2015年9月20日日曜日

マデリン・ペルーとウォーレン・ジヴォンとリンダ・ロンシュタットと

土曜の朝、NHK-FMでピーター・バラカンのラジオを聴いていた。
来日中のマデリン・ペルーのライブにバラカン氏自身も行かれたようで、関係するリクエストに応えていた。
アナログレコードに高音質盤を持つディスコグラフィーに惹かれて、僕も二枚ほど聴いたことがある女性シンガーだ。


ラジオではウォーレン・ジヴォンのカバー曲が流れて、とてもいい曲だと感じたがベスト盤にだけ収録されているものだそうで、さっそく取り寄せてみようとブラウザを起動し、ついでにウォーレン・ジヴォンについても調べてみた。

マデリン・ペルーもウォーレン・ジヴォンも国内のディストリビューターでは正規の扱いはなく、CD大国が聞いて呆れる。
対訳付きで聴いてみたかったがしかたがない。

Keep Me in Your Heart for a Wh
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Madeleine Peyroux
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Warren Zevon
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Warren Zevon
Elektra / Wea (1992-05-14)
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ウォーレン・ジヴォンについては、時々ラジオでかかる「ロンドンの狼男」くらいしか知らなかった。迷った時は一枚目から聴くに限るが、このファースト聴いたことがある曲があるなと思ったら、手持ちのリンダ・ロンシュタットのアルバム「Living In The USA」に入っているMohammed's Radioだった。
いい曲なんだよね。この曲を書いた人だったのか。


イスラムの預言者ムハマンドのラジオとはまた意味深なタイトル。
自分の英語力や歴史の知識ではこの歌詞の真意が掴めているとは思えず歯がゆい。
また、こういうバックボーンを持った曲を魔性の女的なイメージのリンダ・ロンシュタットが歌っているというところに、ポップという文化の本当の奥深さを感じる。

最近新聞のコラムで知ったビル・フェイというアーティストのPictures of Adolf Againも何か大切なことを歌っているような気がするのだが、字面だけを追いかけるのが精一杯。

そういえば、クリームの「カラフル・クリーム」の原題はDisraeli Gearsと言うが、このDisraeliとは、19世紀のイギリスの首相ベンジャミン・ディズレーリのことで、ローディーの言いまつがいを面白がって名付けたとされる。


しかし、このディズレーリという保守党の政治家は、スエズ運河の株式を買収しエジプトの植民地化への足がかりを作ったあと、インド帝国の成立に関与した人で、南アフリカ戦争を仕掛け、南部アフリカを植民地化したりした。
大英帝国の繁栄の礎を作ったとも言えるが、その後の世界戦争の最初の小さな火種を作った人とも言えるだろう。
この人の名前を、(自転車の)変速機=ディレイラー・ギアとの言い間違いに使ってマラプロピズム的効果を生み出そうとしているわけだから、当然ディズレーリの経歴に対して何かの感情を持っているだろう。

さらりとした時代へのアイロニー。
ポップソングの重要な役割だと思う。

2015年9月18日金曜日

チェット・ベイカーとエルヴィス・コステロの関係

まだまだジャズに関しては素人同然の僕に、ある日キャリアの長いジャズリスナーの先輩が10枚のCDを貸してくれた。
その中にチェット・ベイカーの東京ライブがあった。


僕は晩年のチェット・ベイカーが大好きで、だから1987年6月14日に昭和女子大学人見記念講堂で行われたというこのライヴを聴けて本当に嬉しかった。

One Night in Tokyo
One Night in Tokyo
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Chet Baker
Immortal Audio (2008-06-24)
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(写真のCDは廃盤で現在入手可能なのはこちらの盤)

アルバムの3曲目に「Almost Blue」とあって、エルヴィス・コステロのファンでもある僕は、彼が録ったカントリー・アルバムを思い出したが、まさかその曲のカバーとは思わなかった。

オールモスト・ブルー
オールモスト・ブルー
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エルヴィス・コステロ
ユニバーサル インターナショナル (2007-09-05)
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チェットは例の弱々しいのに瑞々しさを失わない不思議な声で、この名バラッドを歌い上げていた。
コステロの奥様のダイアナ・クラールもカバーしている。

Girl in the Other Room (Hybr)
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Diana Krall
Verve (2004-04-27)
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別に何かを調べようと思ったわけではないのだが、この取り合わせが不思議で、なんとなく検索エンジンに「チェット・ベイカー エルヴィス・コステロ」と入れてみると、意外にもこの二人の共演は古く、パンチ・ザ・クロック収録の名曲「シップ・ビルディング」にさかのぼるという。


パンチ・ザ・クロック
パンチ・ザ・クロック
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エルヴィス・コステロ
USMジャパン (2009-03-04)
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(びっくり。まさかの廃盤でした。新品の出品が13万円を越えててまたびっくり!)

気が付かなかったなあ。
さっそく聴いてみると、後半のソロから歌の伴奏にかけて、少しエフェクティブな音で録られたチェットのトランペットが流れてきた。

言われて聴いてもわからないなあ。
でもそれがチェット・ベイカーなんだろう。

大学時代、サークルのたまり場で誰かが持ち込んだTOTOの新譜「ファーレンハイト」を聴いていたジャズ系ベーシストの先輩が、
「おい、最後のトランペット、もしかしてマイルスじゃないか」
と言って、実際その通りだったのを見て当時はけっこう驚いたものだが、今ならわかる。
マイルスなら誰のアルバムで聴いてもそうとわかるだろう。

ファーレンハイト
ファーレンハイト
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TOTO
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歌なら聴けばそうとわかるけど、チェット・ベイカーのトランペットはそうじゃない。
でもダメかというとそうでもない。
スタイリッシュでクールで、どこにも「欠けている」ところのない音楽。
そんな気がする。

実際のチェットは欠けているところだらけだった。
ジャンキーで無鉄砲。いろいろとだらしない。
うまいことを言うつもりはないが、「歯」も欠けていた。

麻薬がらみでギャングにやられて前歯が無いんです。で、この「欠け」を利用してトランペットの新しい奏法を模索していたそうです。すげえ。

そんなところが、絶品B級ボイスのコステロと相性がいいのかもしれない。

2015年9月14日月曜日

ヒーローと立憲主義~キャプテン・フューチャー第九巻「輝く星々のかなたへ!」

キャプテン・フューチャー・シリーズ第九巻に突入致しました。

「輝く星々のかなたへ!」では、水星で大気や水を人工的に生成してきた鉱物資源が枯渇して、住民がガニメデへの移住を迫られるという事態が発生する。

カーティスは、水星人が生まれ故郷を離れなくてすむように、遥か彼方、宇宙の中心にまで赴き、万物生成のメカニズムを解き明かしに行くというかつてない遠大な冒険の旅に出る。

太陽系内の悪者をほとんどやっつけてしまったフューチャーメンにもう敵はいない。
勧善懲悪型のストーリーが成立しなくなったため、科学冒険小説にトライ!というところでしょうか。

宇宙にあるあらゆる物質が生まれる宇宙の中心では、やはりそのメカニズムそのものを「特権」として相争う勢力が存在した。
難しいのはどちらに味方するかということで、まるっきり地縁のないカーティスにとっては、結果的にはどちらに加勢しても勝てばいいわけなのだが、物語の性質上、そういうわけにもいかない。

一方は科学技術至上主義で、使えるものはなんでも使って富を生み出そうという考え方。
もう一方は、手に余る技術は人を不幸にする、という考え方。
で、まあ、利己的でない後者の方をカーティスは選ぶわけですが、やっぱり後者の陣営に美人のお姫様がいるんですね。
たまたま思想の合う側に美女がいたのか、美女がいたから味方したのか。
けっこう怪しい展開なんですが、 まあ、こういうのは詮索しないほうがいいですね。

で、勝利したカーティスは、この人ならば私利のためでなく、社会のために正しく使ってくれるだろうという信任を得て、そのメカニズムを借り受けるわけです。
カーティスが超人&イケメンだからこそ得られた信任なんですね。

現実の世界にはこのような超人は実在せず、しかし誰かにリーダーシップをあずけなければならない。
普通に考えれば、こんな人柄頼みのシステムは続かない。

だから<法>というものがあり、<立憲主義>という仕組みがあるんでございます。
しかしそれだって行き過ぎれば、為政者の自由を奪って本当に重要な政策が実現できなかったり、だからって緩めてしまえば権力に目がくらんだ人の暴走がはじまる。
みっともない事この上ない仕組みだけど、まだこれ以上のシステムは生まれていない。

こんな時代だからこそ、荒唐無稽な正義のヒーローの活躍を、立憲主義の「魂」として読んでおくっていうのもいいと思うんですよ。
いや、けっこうマジでそう思ってます。


輝く星々のかなたへ!/月世界の無法者 <キャプテン・フューチャー全集5> (創元SF文庫)
エドモンド・ハミルトン
東京創元社
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