2018年2月17日土曜日

『ウルフガイシリーズ』を読むと人類ダメじゃんってなるけど、やっぱホントダメじゃんね

個人的な読書遍歴を紐解けば、僕にとっての高校時代は間違いなく「平井和正の時代」であった。
小学校の図書室で出会ったレンズマンでSF道に入った僕にとっては、宇宙を二分する<善>と<悪>の代理戦争を描いた『幻魔大戦』にハマるのは必然。
そして平井中毒になった僕は、まことに自然な成り行きとして『ウルフガイ』『アダルト・ウルフガイ』シリーズにも読みふけることになる。

今回、生頼範義展の開催記念ということで、ハヤカワ版権のウルフガイ二作が復刊された。


簡単にまとめてしまえば、文明や文化といった洗練の<副作用>として時に立ち現れる人類の残忍さと愚かさを、狼が表象する自然のシンプルな摂理と対照して描き出すというのが本シリーズのテーマだろう。
初期傑作群に共通して描かれる、この「人類ダメじゃん」感こそが平井作品の魅力だと思う。
読者だって当然、人類の一員なわけで、「人類ダメじゃん」と言われれば気を悪くしそうなものだが、実際には巧みに自分だけをその集団から切り離し、「こういうのが愚かだと感じることが出来るから、自分だけは愚かじゃないもんね」という不思議な優越感を得るのである。

フランス文学者の鹿島茂が、吉本隆明の思想が持つ現代的普遍性を解説した名著『吉本隆明1968』では、このような優越感を持つ心の性質について「自己疎外と自己投入の社会ビジョン」として解説されている。
オルセー美術館を埋め尽くす日本人観光客にうんざりする日本人(自己疎外)と、パリのマクドナルドで日本流のファーストフードマナーで振る舞い、冷たくあしらわれることを憤慨する日本人(自己投入)が、ふたつながら自分の中に存在して、どんな人も折にふれ、その二つの心的モードを無自覚に使い分けているものだ、と。

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しかしこのようなロジックをテクニックとして使った作家本人だけが、そのロジックに逃げられない。
人類がダメなのはそのとおりとして、じゃあいったいどうすりゃいいのか。

そのあたりに、平井和正がGLA(God Light Association、旧大宇宙神光会)という新興宗教に接近していった理由があるのかもしれない。
教祖高橋信次が亡くなって、娘の佳子に教団が引き継がれた際、佳子が書いたとされる『真創世紀』が実際には平井和正のペンによるものであることはよく知られているが、その時の経験が後に書かれる小説版『幻魔大戦』に大きな影響を与えていることは間違いないだろう。

角川版『幻魔大戦』は、後半どんどん宗教色が強くなっていき、ファンが離れていったと聞くが、僕はむしろそこが面白かった。
主人公東丈は、来るべき幻魔との戦いのために高校の文芸部を超常現象研究会=GENKEN(じつは幻魔研究会)にしてしまうが、魅力的なリーダー東丈に惹かれて寄ってきた大人たちの手で、イケメン高校生教祖の新興宗教に変貌していき、そこから小説は、金のことや組織での地位に汲々とする大人たち、メンバーたちの勝手な振る舞いや不和を延々と描くことになる。
そう。
結局やっぱりダメな人類を描いているのである。

むしろ21世紀の戦争は、政治ではなく宗教が引き起こしている。
それを考えれば何も意外なことではないんだよね。

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