2017年1月24日火曜日

『火星の人』と『アポロ13』と『キャプテン・フューチャー:宇宙囚人船の反乱』と

昨年話題になった『火星の人』の原作本が面白かったので、映画も観てみた。

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映画には強い既視感があった。
これ『アポロ13』だよね。

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似ているところを較べると、『アポロ13』に軍配が上がるのは仕方がない。
あっちは実話だもの。
事故を引き起こす原因に、実話ならではの「可笑しみ」のようなものがある。

1:バッテリーの定格を揃えるために仕様変更された酸素タンクのサーモスタット部分をなぜか変更し忘れる。
2:酸素タンクをモニターする温度計が、なぜか摂氏38度(華氏100度)までしか表示されない仕様になっていた。
3:なぜか酸素タンクを設置する棚が電磁ノイズの原因となり、修理の際にボルトをなぜか一本外し忘れ棚自体が落下、酸素を抜き取るパイプが破損する。
4:なぜか破損に気付かず、訓練のため液体酸素を充填してしまい、抜き取れなくなった酸素を加熱して放出することに。
5:定格の異なるサーモスタットが溶着し、温度計は38度までしか表示しないからヒーターは止めるものがいないまま酸素タンクを摂氏538度まで加熱した。

と、いうような経緯で、宇宙に飛ぶため、再度液体酸素が充填された酸素タンクは、もうそれ自体が爆弾のようなものになっていたのである。

いかにも人間にありそうな、「なぜか」を問えないような小さな見落としの積み重なりがこの重大インシデントを生み出している。
そうそうあるよなー、という感覚が映画『アポロ13』への共感を深めてるんだね。

一方『火星の人』のほうはフィクションだから、原因結果ともにドラマティックに描かれているし、その冒険の純粋な痛快さにおいて比すものはない。
当時よりはるかに一般人の科学的リテラシーも上がっているし、結局最先端の科学も小学校で習った理科の基礎の上に積み上げられているという感じは、実に感動的だ。

そしてこれはもう言われ尽くしていることだけど、何より、諦めないマーク・ワトニー(マット・デイモン)の「明るさ」がいい。
宇宙で一人きりなのに、報告書を書くのにいちいち面白い台詞考えてる。
ちょっとフィリップ・マーロウっぽいよね。
あれも半分強がりだし。

それと『火星の人』を観てて思い出したものがもうひとつある。
我らがキャプテン・フューチャーの『宇宙囚人船の反乱』だ。

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これなんかは、人の住まない星に宇宙船が不時着し、直後噴火に巻き込まれて宇宙船を失うという悲劇から無事生還してきちゃう。
キャプテン・フューチャーの「人類の科学の歴史を繰り返せばいいのさ」という脳天気な掛け声にのっかって、囚人たちの手を借りて石器からはじめて原子炉まで作っちゃうという破天荒さだが、これがまた面白いんだなあ。
危機を乗り越えるための団結が功を奏して、ラストに囚人たちも更生しちゃってるし。

キャプテン・フューチャーって人は、ちょくちょく体一つで宇宙空間に置き去りにされるが、常時身につけている原子力電池を動力に、ありあわせの材料で無線機を作ったりして難を逃れるのだが、それはちょっと運が良すぎるでしょ、という感じは拭えない。
その点、この『宇宙囚人船の反乱』はフェアですよ。
『火星の人』にも、このフェアな感覚がある。
頼りになるのは科学だけ、という環境が共通してるからですね。
その意味で、異論はお有りでしょうが、宇宙遭難もののひとつの源流がこの『宇宙囚人船の反乱』で、そのよくできた末裔が『火星の人』ってことでいいですかね。

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