2016年10月31日月曜日

2016 北海道オーディオショウに行ってきた vol.2~「ネットワークプレーヤーへの換え時はきたか」編

昨年からリニューアルされた「北海道オーディオショウ」だが、二回目にして大きな転機が来たかなという印象を受けた。

いつも楽しみにしているブースはアクシス、ステラ、エレクトリの三社だが、今回この三つのブースともにCDプレーヤーを持ってこなかった。
ネットワークプレーヤーの先駆者LINNは、デモ冒頭の挨拶で、まずは日本ハムファイターズの日本一に祝意を示し、続いて北海道のオーディオユーザーは保守的で、ネットワークプレーヤーへの切り替えが進んでいないと述べた。

かくいうワタクシもネットワークプレーヤーに対しては、まだちょっと全幅の信頼を置くに至っていない。
むしろCDプレーヤーへの不信感もここにきて高まっているくらいで、この先も信頼感が高まっていく気がしないのである。

そもそもの原因を作ったのが当のLINNで、何年か前に別のホテルでやっていた試聴会の際、デモの途中でプレーヤーがWi-Fiを見失って、音楽が途切れたことがあった。
仕事用の書類を家で作っていて、本番用のちょっといい紙に印刷をしている途中で「通信エラー」のアラートが出て印刷が止まり、紙が台無しになったことがあって、すごく悔しい思いをしたこともある。

そのようなことはコンピュータを使っていれば、多々あって、しかも原因はたいていわからないまま復帰して再現性もないことが多いという、そのようなコンピュータの振る舞いについての根強い不信感がその背景にはある。
年々、ボク個人のオーディオ的関心がアナログに募っていく所以である。


しかし、多くの出展者がネットワークプレーヤーやPCからの音源をDACで再生してくれるから、いろいろとディジタル音源との付き合い方というか、作法のようなものについての考察が得られるのは有り難いことだ。

さて、今年のオーディオショウ全体を見れば、残念ながら本家LINNの音が一番ショボかった。

LINNは10年前に「Klimax DS」というネットワークプレーヤーの草分けを発表し、オーディオ界に革命を起こした。その後すぐにデジタルディスクプレーヤーの生産自体を止めてしまい、その本気度に感心したものだった。
その革命的ネットワークプレーヤー「DS」のフルリニューアル機「Klimax DS/3」というのが今回のデモの目玉だった。

旧モデルとの比較ではたしかに新開発のDACが効いていて音の鮮度がぐっと上がる感じが聴き取れたが、いかんせん音楽の熱さが伝わってこないのである。
冷え切った音。
四年前に聴いたLINNのアキュバリックというパワーアンプ内蔵スピーカーの音に痺れきった僕は、これをいつか必ず買うんだと決めていたが、今回のスピーカもそのパッシブ版で、パワーアンプもLINN純正。
その原因がさっぱりわからなかった。

デモの最後にセッティングの説明があり、ラックにはネットワークプレーヤー内臓のプリアンプが置いてあったのだが、DSにはデジタルボリュームがついていて、直接リモコンから音量コントロールができるため、今回は接続していないとのことだった。
であれば、それが原因に違いない。

一昨年、dCsというブランドの1000万円もする四筐体のSACDプレーヤーの音を聴いた。
これもデジタルボリュームがついていて、プリアンプ無しで直接パワーアンプに接続していたが、今日のLINNと同じような醒めきった音だったのだ。

対して、アクシスはエアー社の定評あるリファレンス・プリアンプを、エレクトリはマッキントッシュの真空管プリアンプを使ってデジタルファイルを再生していた。
どちらもとてもいい音で、今回のオーディオショウで甲乙つけがたいアツい音を聴かせてくれたブースとなった。
プリアンプ、大事なんだな。

僕自身の話をすれば、二十数年も前から自作曲を作っては自宅で録音するというのが趣味だ。
カセットテープに録音していた頃は、今とは比較にならないほどのナローレンジだったが、テープという狭いキャパシティに入り切らない熱量がもたらす「歪」が音楽をイキイキとしたものにしてくれていたように感じる。
デジタルで録音するようになると、キモチワルイほどそのままの状態で録音されるが、PAを通して聴くステージ音楽や、観客や演奏者の生体が出す盛大な暗騒音の中で聴くクラシックコンサートの音ともそれは違う。
演奏した音がそのまま出てくればいいというものではないのである。

アンプで増幅するときの「歪」が、
通ったケーブルでついた「匂い」が、
スピーカーのユニットが振動する時の「癖」が、
演奏者の想いと相乗して聴いている僕たちの心を震わせているのではないだろうか。

1982年にCDが出てきた時、これからは機器によっての音の差は無くなります、と技術サイドではアナウンスしていたらしいが、当然ながらそんなバカなことはなかった。
30年以上経った今、やっといい音のCDが出てきたなと思えるくらいなのである。
本格的なデジタルファイル移行の時代を迎えて、また同じような過ちをおかそうとしているのかもしれないと思う。

かくいう自分も、ノイズがなく、疵が即音飛びにつながらないといったCDの扱いやすさに飛びついて、それまでのレコードコレクションを手放しはしなかったものの、入手しないままになっている名盤がたくさんあって、今それを非常に後悔している。
個人的にはだからこそのアナログ回帰なのであって、デジタルファイルの新しい作法を覚えている暇は、今しばらくは無いのである。

vol.1「B&W 800D3」編
http://girasole-records.blogspot.jp/2016/10/2016-vol1b.html
vol.2「ネットワークプレーヤーへの換え時は来たか」編
http://girasole-records.blogspot.jp/2016/10/2016-vol2.html
vol.3「スピーカーの話をしよう」編
http://girasole-records.blogspot.jp/2016/10/2016-vol3.html

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