2016年10月31日月曜日

2016 北海道オーディオショウに行ってきた vol.3~「スピーカーの話をしよう」編

今回の北海道オーディオショウで最初に訪れたのはアクシスのブースだった。
はじめてお邪魔した年から一貫してウィルソン・オーディオのスピーカーにエアーのセパレートアンプでデモをしていた。

今回のウィルソンのスピーカーはまだ雑誌にも載っていないという新製品だったので、お願いして写真を撮らせてもらった。
製品名は聞き損なってしまった。


一見するとソフィアのツイータをアレクシア風に角度を付けてセッティングした感じ。
まあ、技術的にどうこうというよりはレコーディング・エンジニアであったデヴィッド・ウィルソン氏の感性が作り出す「真っ当な」音がこのブランドの魅力だと思う。

ソフィアや昨年聴いたサブリナに較べると、高音部に厚みというか落ち着きというか、そういうものが加わって確かに品位が上がっている感じがする。
キャラクタとしては少し重厚寄りで、去年聴いたサブリナの軽快さが好ましいものだったことを逆に思い出してしまった。
それでも今回出展されたスピーカの中で一、二を争ういい音だった。

次に、ステラのブースへ。
実は今回一番楽しみにしていたのが、この会社で扱っているVivid Audioの新作B1-Decadeだ。


昨年はG3 GIYAというスピーカーがあまりにもいい音で鳴っていたので、新作にも期待していたわけだが、結論から言うと期待はずれ。
アインシュタイン社のセパレートアンプでドライブしていたが、どこか詰まっているようなコモッたような音がしていた。


B&Wの800D3に関しては別稿にて詳述している。


NOAのブースではソナス・ファベールの新作、イル・クレモネーゼをブルメスターの大きなパワーアンプでドライブしていたが、これがソナスらしからぬ軽い音。
もうひとつの特徴が音像の大きさだが、こちらはその通りだった。
デモが終わってシステムを見ると、プリアンプがなくてパッシブのボリュームを繋いでいた。
なるほどね。
ブルメスターのプリでも繋いでおけば相当迫力のある音を聴けただろうと思うと少し残念だ。


エソテリックのブースではアバンギャルドのDuo XDという新しいモデルを鳴らしていた。



以前違うモデルを聴いたときは、音像ばかり大きくて、ホーンの風切音も気になって仕方なかったが、かなり練れてきてはいると思う。
ジャズ喫茶なんかでアツい音を聴かせる時なんかに、こういうスピーカーもいいのかもしれない。
見た目のインパクトに似合う雰囲気のある音。
ただこれ絶対部屋に入らないから。

最後に回ったのがエレクトリのブースで、今年もマジコの新作を持ってきてくれた。
今までの金属筐体にカーボンをプラスしてさらに強度を追求した「M3」というスピーカー。

しかし、記憶に残っているのは、マジコ社で最も小さいS1 Mk-2というモデルで、上級機のM3と音の姿がまったく変わらない。その上で寛いだ軽やかさの雰囲気も纏っている。
ナイスサウンド!

徹底的に物量投入して、どんな入力を入れてもビクともしないM3では、パコ・デ・ルシアの無名時代の激しいフラメンコの実況盤がかかったが、これには本当に驚いた。
他の機械でこの音量が出てきたら多少不快になると思うが、このスピーカーではそれがない。
揺るがない。
歪まない。

そのようなスペックに支えられたM3の美点にも関わらず、S1 Mk-2の音に理屈でない好感を感じる。
スピーカーを選ぶというのはそういうことだと思う。

それは伴侶を選ぶことに似ていて、違う音が聴きたいから、という理由で簡単に取り替える気持ちになれない。
それでも恋に落ちれば、いろんなことを犠牲にして替えるかもしれない。
そうか、試聴会ってお見合いパーティーみたいなもんなんだな。

vol.1「B&W 800D3」編
http://girasole-records.blogspot.jp/2016/10/2016-vol1b.html
vol.2「ネットワークプレーヤーへの換え時は来たか」編
http://girasole-records.blogspot.jp/2016/10/2016-vol2.html
vol.3「スピーカーの話をしよう」編
http://girasole-records.blogspot.jp/2016/10/2016-vol3.html

2016 北海道オーディオショウに行ってきた vol.2~「ネットワークプレーヤーへの換え時はきたか」編

昨年からリニューアルされた「北海道オーディオショウ」だが、二回目にして大きな転機が来たかなという印象を受けた。

いつも楽しみにしているブースはアクシス、ステラ、エレクトリの三社だが、今回この三つのブースともにCDプレーヤーを持ってこなかった。
ネットワークプレーヤーの先駆者LINNは、デモ冒頭の挨拶で、まずは日本ハムファイターズの日本一に祝意を示し、続いて北海道のオーディオユーザーは保守的で、ネットワークプレーヤーへの切り替えが進んでいないと述べた。

かくいうワタクシもネットワークプレーヤーに対しては、まだちょっと全幅の信頼を置くに至っていない。
むしろCDプレーヤーへの不信感もここにきて高まっているくらいで、この先も信頼感が高まっていく気がしないのである。

そもそもの原因を作ったのが当のLINNで、何年か前に別のホテルでやっていた試聴会の際、デモの途中でプレーヤーがWi-Fiを見失って、音楽が途切れたことがあった。
仕事用の書類を家で作っていて、本番用のちょっといい紙に印刷をしている途中で「通信エラー」のアラートが出て印刷が止まり、紙が台無しになったことがあって、すごく悔しい思いをしたこともある。

そのようなことはコンピュータを使っていれば、多々あって、しかも原因はたいていわからないまま復帰して再現性もないことが多いという、そのようなコンピュータの振る舞いについての根強い不信感がその背景にはある。
年々、ボク個人のオーディオ的関心がアナログに募っていく所以である。


しかし、多くの出展者がネットワークプレーヤーやPCからの音源をDACで再生してくれるから、いろいろとディジタル音源との付き合い方というか、作法のようなものについての考察が得られるのは有り難いことだ。

さて、今年のオーディオショウ全体を見れば、残念ながら本家LINNの音が一番ショボかった。

LINNは10年前に「Klimax DS」というネットワークプレーヤーの草分けを発表し、オーディオ界に革命を起こした。その後すぐにデジタルディスクプレーヤーの生産自体を止めてしまい、その本気度に感心したものだった。
その革命的ネットワークプレーヤー「DS」のフルリニューアル機「Klimax DS/3」というのが今回のデモの目玉だった。

旧モデルとの比較ではたしかに新開発のDACが効いていて音の鮮度がぐっと上がる感じが聴き取れたが、いかんせん音楽の熱さが伝わってこないのである。
冷え切った音。
四年前に聴いたLINNのアキュバリックというパワーアンプ内蔵スピーカーの音に痺れきった僕は、これをいつか必ず買うんだと決めていたが、今回のスピーカもそのパッシブ版で、パワーアンプもLINN純正。
その原因がさっぱりわからなかった。

デモの最後にセッティングの説明があり、ラックにはネットワークプレーヤー内臓のプリアンプが置いてあったのだが、DSにはデジタルボリュームがついていて、直接リモコンから音量コントロールができるため、今回は接続していないとのことだった。
であれば、それが原因に違いない。

一昨年、dCsというブランドの1000万円もする四筐体のSACDプレーヤーの音を聴いた。
これもデジタルボリュームがついていて、プリアンプ無しで直接パワーアンプに接続していたが、今日のLINNと同じような醒めきった音だったのだ。

対して、アクシスはエアー社の定評あるリファレンス・プリアンプを、エレクトリはマッキントッシュの真空管プリアンプを使ってデジタルファイルを再生していた。
どちらもとてもいい音で、今回のオーディオショウで甲乙つけがたいアツい音を聴かせてくれたブースとなった。
プリアンプ、大事なんだな。

僕自身の話をすれば、二十数年も前から自作曲を作っては自宅で録音するというのが趣味だ。
カセットテープに録音していた頃は、今とは比較にならないほどのナローレンジだったが、テープという狭いキャパシティに入り切らない熱量がもたらす「歪」が音楽をイキイキとしたものにしてくれていたように感じる。
デジタルで録音するようになると、キモチワルイほどそのままの状態で録音されるが、PAを通して聴くステージ音楽や、観客や演奏者の生体が出す盛大な暗騒音の中で聴くクラシックコンサートの音ともそれは違う。
演奏した音がそのまま出てくればいいというものではないのである。

アンプで増幅するときの「歪」が、
通ったケーブルでついた「匂い」が、
スピーカーのユニットが振動する時の「癖」が、
演奏者の想いと相乗して聴いている僕たちの心を震わせているのではないだろうか。

1982年にCDが出てきた時、これからは機器によっての音の差は無くなります、と技術サイドではアナウンスしていたらしいが、当然ながらそんなバカなことはなかった。
30年以上経った今、やっといい音のCDが出てきたなと思えるくらいなのである。
本格的なデジタルファイル移行の時代を迎えて、また同じような過ちをおかそうとしているのかもしれないと思う。

かくいう自分も、ノイズがなく、疵が即音飛びにつながらないといったCDの扱いやすさに飛びついて、それまでのレコードコレクションを手放しはしなかったものの、入手しないままになっている名盤がたくさんあって、今それを非常に後悔している。
個人的にはだからこそのアナログ回帰なのであって、デジタルファイルの新しい作法を覚えている暇は、今しばらくは無いのである。

vol.1「B&W 800D3」編
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vol.2「ネットワークプレーヤーへの換え時は来たか」編
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vol.3「スピーカーの話をしよう」編
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2016 北海道オーディオショウに行ってきた vol.1~B&W800D3編



CAVIN大阪屋の高級オーディオ試聴会がリニューアルされ、規模も大きくなった「北海道オーディオショウ」の、今年は第二回である。

まずは特別企画の「B&W800D3」について書いておく。
通常のブースは30分枠だが、ここだけマランツとB&Wの枠を繋いで60分構成となったのは昨年の「802D3、803D3」の特別発表会と同様。
しかし、せっかく繋いだ枠をわざわざ30分ずつに切り直して、マランツのSACDプレーヤーの新製品「SA-10」のデモを音決めの技術者に任せていた。

昨年聴いたヤマハの新スピーカーNS-5000も、デノンのPMA-SX11も、技術者然とした担当者が、どちらかというと野暮ったい系のサラリーマン姿で、技術的な説明の後に、ちょっとベタな色気を意識した選曲で音楽を聴かせていた。せっかくのいい音も、そのようには聴こえないから不思議だ。
今回のマランツもそんな感じだった。

空振り気味のマランツのパートをやり過ごして、B&Wのパートに移ると、オーディエンスの視線が集中して強くなり、部屋の温度が少し上がった。

仕立てのいいジャケット。
ストライプのニットタイ。
いつものデモンストレータが淀みのない、抑え気味のトーンで話し始める。
奇を衒わない、ストレートなクラッシク中心の選曲に自信を感じる。

昨年からリニューアルが始まった800系D3ラインのフラッグシップがついに登場ということなので、僕も期待はしていた。
しかし、昨年のデモでは小さい方の803D3が非常にいい音で、会場になっている200名ほども入りそうな宴会場でさえ充分な響きを見せていたし、大型の802D3との差も、確かにあるとは思うがほとんど誤差の範囲。
今年発表のフラッグシップ・モデルだって、そりゃいいだろうけど、アレ以上の完成度って出るのかという疑問があった。

果たして音を聴けば、まったく予想通りのいい音で、つまり803Dで充分ということだな、というのがよくわかった。
つまり単に予算に合わせてどれを買ってもいいというモデルラインで、これこそ工業製品というものだろう。
上級モデルのほうが音がいい、という先入観をあざ笑う余裕の企業姿勢にとりあえず敬意を表しておきたい。

vol.1「B&W 800D3」編
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vol.2「ネットワークプレーヤーへの換え時は来たか」編
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vol.3「スピーカーの話をしよう」編
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2016年10月24日月曜日

The東南西北『内心、Thank You』は「世界を敵に回す」系ソングの元祖であったか。

大学時代、貸しレコード屋でバイトをしていた時、「The東南西北」という変な名前のバンドのデビュー盤が入ってきた。


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試聴してすぐ気に入って、店でBGMにもかけたし、それをそのままテープに録音させてもらって(役得!)何度も聴いた。

特にセカンドシングルにもなった「内心、Thank You」というベタつかないバラードが大好きだったが、その後我が身にふりかかった失恋があまりにもピッタリ歌詞にはまって、聴く度に身につまされるのでそのうち聴かなくなってしまった。
 
30年も聴かずにいたその曲が、大学時代の先輩がDJを務めるSTVラジオの帯番組「ミュージックJ」で不意打ちのようにかかって一気に時間が戻ったが、さすがに30年の月日は大きい。胸が痛むというよりは心地よい切なさを感じ、あらためて名曲だとの確信を深めた。


YouTubeを漁ると、現在の久保田洋司さん(The東南西北のボーカル&ソングライター)が歌っている動画があり、CキーをAキーまで落として落ち着いたトーンで歌っているのがとてもいい。



この曲の作詞をした松本隆さんの特集番組内での演奏で、その番組内で、久保田が松本隆さんに歌詞を書き換えてもらったエピソードが語られていた。


当初、学校を舞台に書かれた歌詞が、高校を卒業したばかりの久保田には近過去ゆえのリアリティの無さがどうしても我慢ならなかったようだ。

「一生歌える歌にしたいんです」
の言葉に応えて書き換えられたのが現在の歌詞で、久保田は、だからこの歌は一生大事に歌うんです、と言っていた。

幸せな歌だと思う。


この動画内にある松本隆さんのインタビューに、この歌が「世界を敵に回す」系の歌の元祖ではないか、という話があるが、これについて調べた労作がすでにある。
「足型日誌」さんの「世界を敵に回す歌年表」である。
素晴らしい。

これによると、内心、Thank Youの5年も前に、しかも松本隆さんご本人によって書かれているではないですか。たくさん書いてるからもういろいろわかんないんですよね。無理もないです。


そういえば、ネット界ではしばしば、その彼女と付き合うことで世界を敵に回すことになるってのは、いったい何をしでかした彼女なんだい?という疑問が呈されるが、確かに理屈で考えれば腑に落ちない表現ではある。
しかしそういう理屈を超えたロマンが「世界を敵に回す」というシチュエーションにはあるよなあ。

こんなのもあったよね。うのたん・・