ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント (2015-12-16)
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原作は、主人公クリス・カイル自身が書いたイラク戦争の回顧録だが、幾つかの点で原作と映画は異なっている。
映画でのカイルは、9.11で崩れゆくビルを見て軍隊への志願を決めるが、実際には事件が起きた時、彼はすでにシールズに入隊していた。
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原書房
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この脚色は、映画に重要な色彩を与えている。
「愛国心」である。
愛国心ゆえに、大切な人を守りたいという想いから戦う。
しかしその行為そのものは殺人なのであり、人間の心はそういうものに耐えられるようにはできていない。
愛国心の発露の方向はそれで良かったのか。
そこにいくら疑問は湧いても、もちろん世界は楽園ではない。
だから国家観の、そして宗教間の争いは未だ絶えず、今も世界の各地で戦火が交えられ、そして人の心は少しづつ壊れていく。
市井に生きるぼくたちにできることは、せめてその戦争PTSDとの闘いを支援していくことなのだろう。
この映画『アメリカン・スナイパー』は、ベトナム戦争での『ディア・ハンター』や『地獄の黙示録』と同じように、イラク戦争によって壊れていった人間を描いた作品といえる。
公開時、アメリカでは本作を「愛国的で、戦争を支持する傑作」として、保守派とリベラルが激しい論争を繰り広げたそうだが、どのように観ればそのような主題が導かれるのか僕にはさっぱりわからないので正直多少混乱している。
そして、現時点(2016.7.13)で、クリント・イーストウッドがアメリカ大統領選挙においてトランプ候補を支持していると聞いて、さらに困惑しているところだ。
人間とは複雑な存在なのだ、ということなのだろう。
また、クリス・カイルの『ネイビー・シールズ最強の狙撃手』にはいくつかの虚飾が指摘されていて、このあたりは英雄の虚飾そのものを映画表現に盛り込んだ前作『J・エドガー』と共通した要素を持っている。
『許されざる者』以降のクリント・イーストウッド監督作品に共通して見られる、どんな事象も善悪のような二分法で切り分けることはできないという価値観はこの作品でも生きていると思う。
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