承前
試聴会では、機器の音色の違いを楽しむのに加えて、今まで知らなかった音楽を知るというところも大きな楽しみのひとつだ。
今回の大発見はなんと「デューク・エイセス」。
ソナスのデモでドイツのドクトル・ファイキャルトという新進メーカーのターンテーブルを使ってかけてくれたデューク・エイセスのアナログレコードは、本当にびっくりするようなリアリティで彼らの名人芸的なボーカル技術を堪能することになった。
ことにベートーベンの田園をコーラスで再現した曲では、動物の鳴き真似などが入っているのだが、もう圧倒的なクオリティの録音でしかも聴いていて楽しい。
これぞオーディオの愉悦、という楽曲だった。
次のデモは日本のオーディオの歴史そのものと言っても良い「ラックスマン」。
今回聴いた中では唯一の真空管のセットでしたので期待していたのだが、部屋に入った途端厭な予感が。
組み合わせたスピーカーがJBLのS4700だった。
最近僕はこのJBLというブランドの音と相性が悪い。
セッティングのため軽く流されている音がやはり濁っている。
この日は最初のセッションで聴いた高級機S9900もこのS4700も不調だった。
どうも現代のJBLは肌に合わないという印象。
昔、中野ブロードウェイのフォーク喫茶で聴いた小さなJBL、すごくいい音してたのになあ。
そして、今日一番聴いてみたかったアンプ、ダン・ダゴスティーノのデモに向かう。
組み合わせたスピーカーはウィルソン・オーディオのSophia3という中堅機。
ウィルソンは1989年作のWatt/Puppyという名作スピーカーで、なんとスピーカーの置かれた位置のむしろ後ろ側に大きく音像が広がっていくのを志向した、音像表現に革命をもたらしたといわれたスピーカー開発者だ。
その後、多くの開発者がこの方向性を突き詰めて行き、現在ではスピーカーの後ろにサウンドステージがあるのはむしろ一般的。
最近ではむしろこのウィルソン・オーディオの方が、オーソドックスなスピーカーメーカーというイメージになっている。
そんなことで私はウィルソン初体験ではありましたが、スピーカーの方には大きな期待をしてはいませんでした。
マジコとソナスに盛大に驚かされた後だったしね。
でも音が出てきた瞬間、体が凍り付いてしまった
私は自分の不見識を恥じた。
音楽が躍動している。
他のハイエンド・スピーカーたちの音場が、固着化して精度を増していくのに対して、このスピーカーは音が飛び回って、その熱情を伝えようとしている。
ウィルソンは、自分が作った新しいスピーカーの潮流を軽々と乗り越えて、すでに別の場所に到達していたんだな。
この音にプリアンプのエアーKX-Rも、ダゴスティーニのパワーアンプも大きな貢献をしているはずだ。
人生最後の音はこれでいけよ、と言われた気分だった。
この後、ふらふらな頭で、さっきちらと聴いただけで、すごく良さそうだったので、きちんと聴いておきたくてLINNのデモをもう一回聴いた。
どこにも出っ張りや引っ込みのない、超ナチュラルな再生で、筐体もウルトラ・クール。大人のオーディオだなあ。
残念だったのはアナログ再生をやってくれなかったことで、なにしろ多分日本で一番ユーザーの多いハイエンド・ターンテーブルはLINN LP12なのだろうから、自分のDENONとどのくらい違うのかぜひ聴いてみたいものだった。
試聴会を後にした我々は食事もせずに一日中音楽ばかり聴いていたので、まあメシでも食おうと、家の近所の、パラゴンという伝説のスピーカーを置いているという「カフェイドラ」さんに。
まだ聴くんかい。
実はその数日前に、某ジャズ喫茶で、爆音パラゴンの音に100年の恋が醒めたばかりだったのだが、こちらのパラゴンは噂に聞く「西海岸の音」そのものの爽やかで弾むようなサウンド。
よかった。
マスターと話も弾んでジャズのレコード聴きながら和やかで楽しい時を過ごした。
スピーカーとにらめっこの一日だったので最後に楽しく音楽と向き合えて良かった。
やっぱこうじゃないとね。
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