佐藤亜紀さんの作品とは、作家でミステリ評論家の友人からお薦めされて出会った。
その時友人が教えてくれた「新潮社との揉め事」が、この作家さんに強い興味を抱くきっかけだったのは否定しない。下世話な話だが、自分自身の会社勤めの経験からも、組織に属する人間の判断がこのような事案を引き起こしてしまうのは、如何にもありそうなことだと思わせるものだったから。
まあ、そんなことが無くても佐藤亜紀さんの作品は抜群に面白い。特に、北海道新聞の書評欄で豊崎由美さんが絶賛した「スウィングしなけりゃ意味がない」の読後感の豊かさは、大袈裟でなく、ああ文学とはなんと素晴らしいものかと思わせるものだった。
なんの保留もなくお薦めできる本など滅多にないものだが、これは自信を持って万人にお薦めできる。最近、文庫化もされたのでぜひお読みいただきたいと思う。
「スウィング」の2年後、同じ書評欄で激推しされた「黄金列車」も、なんの躊躇いもなく購入、読み始めたが・・
今度は、読了までに足掛け2年かかってしまった・・
状況を写実的に切り取る簡潔な現在形の語り口が、物語への「共感」による没入を妨げ、度々読書は中断した。
しかし、それでも読み進めるうち、この冷徹な印象がまさにこの作品に仕掛けられた筆者の企みなのだろうと思い始めた。
「黄金列車」でも扱われている、あのドイツの戦争においてハンナ・アーレントが喝破した「悪の陳腐さ」が、本作では権力の暴走を抑える武器として機能していて、その一面的に語られるべきでない構造を安易なカタルシスに導かないための筆者の良識が、この作品をとっつきにくいものにしている、ということなのだろう。
その意味で、深緑野分氏が帯に寄せた「ここに人間がいる」という推薦文が、2年目の読後に沁みた。
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