2017年8月1日火曜日

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』:トランボの生の輝きを僕は忘れずにいようと思うんだ

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』を観た。

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 [Blu-ray]
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ハリウッドに吹き荒れた「赤狩り」の嵐のことは一応知っていた。
しかし今日のような世界情勢の中で、あらためて映画として観ると、またいろいろな発見がある。

ダルトン・トランボは、1940年代アメリカの「赤狩り」に反対した10人の映画人「ハリウッド・テン」の一人。
トランボは事実アメリカ共産党の党員であった。
特定の政党に所属しているというだけで社会的地位まで剥奪される異常さは、現代に生きる僕たちには想像もつかないが、それは論理ではなく、心理から生まれたものだからかもしれない。

反ファシズムの戦争であった第二次世界大戦下では、アメリカもソ連と手を結んだ。
映画には、その枠組の中で共産主義への理解が深まり、アメリカにひとつの思想勢力として根付いていく描写があった。
しかし、戦争が終わってしまえばイデオロギーの衝突は避けられず、長い冷戦に突入してしまう。その冷戦の生み出す敵憎しの感情が、共産主義に飛び火したものが、40年代のレッド・パージという見立てだろうか。
気付けば大きな勢力になっていた共産主義が突然敵対勢力になったのだから、慌ててその怪物を成敗しようと思うのも無理からぬ事なのかもしれない。

ましてやアメリカの労働問題は、黒人の労働環境の問題や、ユダヤ資本への偏見といった人種問題も絡んで、マルクス=エンゲルスの理論からは少しはみ出した複雑さを持っている。
シンプルにならない問題は、言葉が行き違い、議論が噛み合わないものだ。
言葉でうまく収まりのつかないそれらの問題は、いつか手段を選ばぬ争いになってしまう。

そしてこの映画の見所はまさにそこにあると思う。
トランボは、多くの登場人物が感情に流されて破滅していく中で、理不尽そのものとは戦うが、人は攻撃しない。
ただひたすらに面白い脚本を書くことに集中している。
その脚本だって思想の普及のためには使わない。
いい映画を作ることが彼の望む全てだった。

そんなトランボの書いた脚本だ。映画そのものの評価は偽れず、世界はやがて思想の如何を超えてトランボの存在自体を認めていく。
彼の作った多くの映画のような見事なハッピーエンドだ。

幸せに生きていきたくて社会に挑んだ戦いが、自分自身を不幸にする。
権力の言葉が上滑りして聞こえる、こんな時代だから、戦いそのものを目的としないことを学んだトランボの生の輝きを、僕は忘れずにいようと思うんだ。




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