叙述トリックでもないのに、読み進めるほどに知らず纏わりついた先入観をひっくり返され続けていくこの感覚がこの物語の醍醐味だとすると、それはまさに「読んだ人にしかわからない」ものだからだ。
要素のひとつひとつに素晴らしい独創性があるわけではないと思う。
それなりに魅力的な人物造形だとは思うが、それだって「ミレニアム」ほどじゃない。
犯罪の残虐性もミステリ史に残る、とまではいかない。
しかし、作者ピエール・ルメートルによって丁寧に編まれた物語が生み出す「読書体験」の極上さはまさに筆舌に尽くしがたいものだ。
というわけでこれ、読むしかないです。
でも、この本に関してだけは「騙されたと思って」という常套句を付け加えることができません。
だって実際1ページ目から騙され続けるのを楽しむ本なのですから。
ピエール ルメートル
文藝春秋 (2014-09-02)
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