お二人とも、非常にフレーズ作りのうまい方だなあと、ご著書を読むたびに感心する。
それは、たとえば飲み屋なんかで時事的な話題になった時に、一言でおっと思わせるような印象的な切り口の言葉だ。
集団的自衛権の話題になった時、「ああ、あれは公明党がうまいことやったよね・・」と言えば、えっえっ、どういうことってなるでしょ?
また、今度のアメリカ大統領選では、ブッシュ弟が出てきて、ヒラリー・クリントンと一騎打ちになりそうで話題になっているが、そういう時も、「湾岸戦争の時のパパ・ブッシュは賢かったのにね・・」といえば、え、うそうそなんで?ってことになって、またしても居酒屋政談のイニシアチブはこっちのものだ。
どちらも答えは本書に書いてある。
本書は「プロっぽい」ものの言い方のカタログなのである。
なかなか理解し難いイスラムに関連する国際紛争も大筋で俯瞰できるし、これも報道などではあまり使われていない印象的な言葉でまとめてくれているので、用語が理解しにくい分、敬遠しがちなこのテーマの格好の入門書としても機能する。
通読して感じることは、二十世紀の戦争はまだ終わっていないんだな、ということだ。
勝者の思惑で引かれた新しい秩序という名の不完全な境界線は、多くの歪を生み出し、イデオロギー対立による東西冷戦という新しい大きな危機の陰にかくれて少しづつ臨界に近づいていった。
そしてその冷戦構造が無くなった今、古い起源の歪が前景化している。
すでに臨界は破れ、いくつもの軍事的衝突が起こっているこの時代は、のちの時代から見ればやはり二十世紀から続いた戦争の世紀であったと評価されるに違いない。
問題は、小国が対象になっているときは根本的な世界の有り様を考え始める機運がおこらないということではないだろうか。
結局のところどう言い繕ろっても、あらゆる紛争は大国同士の代理紛争なのであって、最終的には利害の主体同士の衝突になるだろう。
そうしてはじめて、新しい世界の体制が話し合われるのだろう。
第二次大戦と同じ。
ということは、この轍はその後もまた繰り返されるということか。
人の営みはそれ自体が連続性を持っていて、ある種の慣性にしたがって動いている。
しかしその方向転換の手段が戦争しかないというのではあまりにも寂しい。
池上 彰 佐藤 優
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