2019年7月19日金曜日

『天気の子』と京アニの悲劇

京都アニメーションを襲った許されざる暴虐は、これからも長く人々の記憶に残り続けるだろう。
犠牲になった方々に、心からの哀悼を捧げます。

それにしてもこの凶行が、きっと彼らもその公開を楽しみにしていたであろう、新海誠監督の新作「天気の子」の全国一斉公開の前日に行われたことを思うと被害者の無念にやるせない気持ちになる。

そんな思いで、今日映画館に向かった。


新海誠は「モノローグ」の人である。
モノローグゆえに、彼の映画は「私小説」でもある。
この映画も彼らしいモノローグで幕を開けた。

デビュー作「ほしのこえ」から「秒速5センチメートル」までの初期3作品では、概ね登場人物たちは完全な幸せを得ることはなく、その「伸ばした手の先に夢があるのに、なぜか手を伸ばしきれないもどかしい感じ」に古いファンは強い共感を持っていたと思う。

前作「君の名は。」では、その表現は一歩先に進んで、ついに主人公たちの願いを成就させるに至った。
我々オールドファンは、ある種の寂しさを感じながらも主人公たちの幸せに喝采を送ったし、だからこそまるでこの理不尽な現実世界で自分自身が幸せになれたような気がして、心から嬉しかったんだ。
そして新作もこの路線上にあって、さらにその完成度を高めているように感じた。

一部、声優に起用された女優さんへの批判が公開前に話題になったが、観てみればむしろそこは出来がいいくらいで、逆に重要な役で起用された男性俳優陣の演技に違和感があった。

「君の名は。」では、「言の葉の庭」のユキちゃん先生が登場し、最高のファンサービスを見せてくれたが、本作でもとっておきのサービスが待っている。ぜひ劇場で確かめてほしい。
アクションシーンで涙が出てくる見事な演出に感動して、心地よい疲労のようなものを心に抱えて外に出たら、予報は曇りだったのに、映画で観たような雲から実際に雨が落ちてきて、ちょっと不思議な気持ちでした。


本作では、異常気象が大きなテーマとなっているが、長いスパンでみると地球の気候は非常に大きな変動を繰り返していて、決して現在の気候が地球にとっての常態という訳ではない。
そのことはブライアン・フェイガンの『歴史を変えた気候大変動』で学んだ。

歴史を変えた気候大変動 (河出文庫)
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地球温暖化が「問題」であるとする態度は、それが人類にとって害があるからで、実際には「現象」に過ぎない。だからこそ、我々はそれが問題であると騒ぎ立てるのに、工場で物を作るのをやめようとはしないで、お金でCO2の排出権を売り買いしたりするのだ。

このような問題への態度を、アニメーション作品が思い起こさせてくれる。
現代においては、もともと文学が果たしてきた役割の一部を、明らかにこの分野の作品群が担っていて、そんなことを思うとまた、京都アニメーションを襲撃した彼への怒りがこみ上げてくるのだった。