ボウイが亡くなったばかりだというのに、いったいどうなってるんだ。
とはいえ、僕は近年のプリンスの熱心なリスナーとは言えない。
大学生の頃、貸しレコード屋でバイトをしていた。その二年間の間にパレード、サイン・オブ・タイムス、そしてラブセクシーが相次いでリリースされたが、パレードとサイン・オブ・タイムスが本当に素晴らしかったから、遡ってアラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイを聴いて叩きのめされた。
バイトをしていた店でレンタル落ちになったアラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイを買って何度も聴いた。
ラブセクシーにはちょっとピンとこなかったが露悪的なジャケットデザインのせいだったと思う。
そしてこの時期の三枚が僕にとってのプリンスのすべてで、時々MTVでかかるシングル曲を聴くくらいだった。
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Prince
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それは村上春樹の「海辺のカフカ」で、だった。
主人公の少年がMDで繰り返し聴くプリンスの「リトル・レッド・コーヴェット(小説内の表記どおり)」
小さな赤いコルベットは、重要な登場人物のスポーツカーと対置されたものだろう。
そしてそのスポーツカーの中ではシューベルトのピアノソナタが流れていた。
シューベルトという作曲家の主要なモチーフは「父との対立」だった。
すべての要素を慎重にメタフォリカルに配置したこの小説で、これはきっと重要な意味を持つ対置なんだ、と僕は感じた。
さらに物語の後半、少年はプリンスの「Sexy MF」を聴きながら関係を持った女性のことを考える。
MFはMother-Fuckerのことで、ロックミュージックの歌詞でよく聴く侮蔑語だが、ここではおそらく文字通りの近親相姦者の意味を暗示させている。
音楽を使って立体的な文学表現をするのが村上春樹の作法ではあるが、その中でも際立って印象的な楽曲の使い方だと思う。
この少年にこころ寄せて物語を読んだ僕の中では、「海辺のカフカ」とプリンスの音楽が分かちがたく結びついてしまった。
プリンスの訃報に接して、偉大な音楽的業績よりも先に「海辺のカフカ」のことを思い出してしまったが、これさえも、プリンスの音楽の偉大さの一部なのだろう。
Thank You , Prince.
R.I.P
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